double style ◆34:4番目の蜘蛛





カストロ。



残念だな。イイコに育つと思っていたのに。

ダブルだなんて、つまらない選択をしたね……。

キミはもういらないや。




バイバイ。







その日、天空闘技場で行われたヒソカvsカストロの一戦。

試合はカストロの無残な死で幕を閉じた。


勝ったヒソカも最後にはまるで興味を無くしてしまったかのように、斃れゆくカストロに一瞥をくれることもなく。


歓声で埋まる試合会場を後にするのだった。








「お疲れ」



試合会場から控え室へ通じる通路でボクにそう声を掛けて来たのは、マチだ。


嬉しいなァ。待っててくれたのかい?とボクがうそぶくと、マチは試合で取れちゃったボクの両腕を指して

「いいからさっさとキズ見せな」と冷たい目で言い放ってくる。




…うーん◆ いつ見ても、君のその僕に対する冷めた態度はそそるねェ…。


いつかはもっと焦がれるような熱い視線を僕の方に向けて欲しいものだけど……今はまだこれでもイイかな?



くくく、とつい漏れてしまった笑い声を聞いたマチは「キモイ」とだけ残して、ボクより先に控え室へと向かってしまう。


………つれないなぁ。





マチを追って控え室に戻って、そしてそこでマチに腕の修復をしてもらう。



しかしキミの念糸縫合はいつみても惚れ惚れするね……。


骨、神経、血管、筋肉…。

キレイに裁断されたならともかく、ここまで雑に千切られた腕を寸分違わず繋げる技術とスピード。ぞくぞくするほど美しいよ…。


これを見たいがために、ボクはわざと怪我をするのかもね。




「…今日はいつになくほざくね。いいからさっさと金払いな。左手2千万、右手5千万。…ホレとっとと。値上げするよ?」

「余韻にぐらい浸らせてくれてもいいじゃないか◆」

「知らないね」



差し出された手に小切手を渡すと、マチはそれをふんだくってすぐにスタスタと控え室の出口へと向かってしまう。


……ホンットつれないな、キミは。




「じゃ、アタシは戻るわ」

「…もう?」


「仕事終わったんだから当然でしょ。後は適当に自分で補修しなよ。

念糸の強度にも限界があるんだから、腕の組織が全部くっつくまで無理しちゃダメよ。取れてももう知らないからね」


「ツンデレって奴かい?」




バタンッ



………まるで様式美のようなスルー加減だねェ…。








マチにもフラレちゃったしボクも部屋に戻ろうかと、仕方なく控え室に持ってきた私物をまとめていると―――


キィー……、と静かにドアが開いたよ?



隙間から見えたのは、さっき出て行ったはずのマチの姿。





「どちら様かな?」



とちょっとイジワルすると、マチはバツが悪そうにため息を吐いたんだ。可愛いねぇ…。




「………肝心の用事忘れてたよ」

「ん?何かな?ボクをデートにでも誘ってくれる気かい?」



「メッセージの変更」




さらっと無視だね◆






「8月30日正午までに…『暇な奴』改め『全団員必ず』ヨークシンシティに集合、だって」


へぇ―――…、全団員なんて珍しい。

…でも肝心の"あのコ"はどうかな?



「……全団員ってことは、団長も来るのかい?」


「来るわよ。こっちだって来てもらわないと困るんだから」

「…んん?"仕事"以外に…、なにかパーティでもあるのかな?」



「そうよ。…アンタ、サボったりしたらアタシら黙っちゃいないから」

「…キミが?」


「アタシとノブナガとウボォーを敵に回してもいいんならサボりな。

 ま、それ以前に、今回の"仕事"の方も今までで一番大きなものになるんじゃない?

 今度黙ってすっぽかしたらそれはまた別に、団長自ら制裁に乗り出すかもよ?」


「それは怖いねぇ。 

 ………ところでどうだい今夜?このまま一緒に食事でも」




バタンッ



……頼むからもう少しぐらい聞いてよ。











200階クラスの、ボク用に与えられた部屋に戻り、シャワーを浴びて、血を洗い落とす。






『蜘蛛』の、4番。



それが今のボクの仮の姿だ。





だけど、今この背中にある『蜘蛛』の証明―――12本足の蜘蛛の刺青も、ボクの能力によるフェ・イ・ク◆



幻影旅団の団長…、クロロと戦う。


それだけが目的でボクは『蜘蛛』に入った。




……でも、もうそろそろイイかな。








「ゴンとキルア…青い果実…。新しい『オモチャ』も見つけたしねェ…。

  クク…蜘蛛か……」




今が狩り時……だよねぇ…。クククク…。








シャワールームの壁に結露した水滴。


それをツーッと伸ばしてボクは絵を描いた。





ゴンとキルアと…ゼロの似顔絵だ。



ボクを追いかけてここまできた―――あの3人。





「たまらないよね…」






キルアは、あのイルミご執心の弟なだけあって今でさえ相当な実力が垣間見えるし、ゴンの方はまだまだ未熟だけど……


将来どんな実になるかを考えただけでこんなにもゾクゾクするんだ。今はまだ崩すべき時じゃない…。



ゼロは…叩けば叩くだけ面白いものを出してきそうだし、狩るのはまだまだ…蜘蛛の後でイイ。


何よりも、ゴンにしろゼロにしろ、あの…ボクに向かってくる時の目がそそるよねぇ……。





ぁあ…。フフ。


そういえば…。




今日の試合会場…、ゴンの気配は見つからなかったな。あのおいしそうなニオイが、どこにもなかった。


ボクの戦い、見てくれなかったのかな…。残念だなァ…。





その代わり、キルアとゼロのオーラは見つけた。



片方が試合の途中で…ひどく揺らいでいたけれど…どうしたかな?


気分でも悪くしたのかい?ゼロ………。












好奇心から、彼の部屋まで向かう。

部屋に近づくにつれ、彼のオーラがひどく微弱なものになっているのがはっきりと感じられた。



ドアノブをひねる。

開いてなかったら、無理にでもこじ開けようと思っていたが…案外抵抗なくそのドアは開いた。



「物騒だねぇ…。夜這い、かけてくれって言ってるようなもんじゃないか…?」



今は真夜中。

なのにドアに鍵がかかってない。



不用心だね、と笑いながらも無遠慮に中へと入る。


そして内側から鍵をかけた。







部屋の内装は、自分用にあてがわれた部屋とそう大きく変わらない。


部屋の奥へと歩みを進めると―――ベッドの上に目当ての彼が居た。





「んん?熱…あるみたいだね…」


そこで 苦しげにうめいていたゼロ。触れた頬は熱くなっていた。





「そんなにボク、ひどい事したかい?ゼロ…」

ベッドに軽く腰掛け、彼の髪に触れながら、その苦しむ顔を観察していた。







苦痛にゆがむ顔。



荒い呼吸。



赤みの差した頬。


時折うめきを上げ、動く唇。



激しく上下に動く、開かれた胸元。


そしてそこからのぞく、汗だくの白い体。




「イイね…、すごく興奮するよ、ゼロ…」


まるで自分がこの手で犯しているように見えた。







「ん…はぁっ、…ぅ………ず…」

ヒソカの気配に気づいたのか、ゼロが何か言いはじめた。



「んー…?」




「…み、ず…」





クッと笑い、ヒソカはキッチンに向かった。

コップに1杯、水を持ってくる。




「ゼロ…飲め………ないか…」


ヒソカに問いかけに、返事があるはずもなく。

ゼロはひたすら苦しげにあえいでいる。




「んー…じゃあ…」



と、口に水を含む。



そして…微かに開いたゼロの口に自分のそれを重ねて、彼の望むものを流し込んでいく。

唇が重なった瞬間、ゼロの体がびくりと強張った。




ゼロの白い喉が動く。

それを確認してから、ヒソカは口を離した。






「ごちそうさま」





彼の濡れた唇を眺めながら、満足そうにヒソカは呟くのだった。







つづく


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なんかえろい…

すもも

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ももももも。