double style ◆44:罠



8月30日。ヨークシンのはずれの廃ビルに集まる、13人の影があった。





悪名高き、幻影旅団。


12本足の、蜘蛛。







ひときわ高いところに居た1人の男が言う。

背に逆十字を背負った、黒い男。



「――――全部だ。アンダーグラウンドオークションのお宝、丸ごと全部かっさらう」



その蜘蛛が選んだ今回の獲物は、ヨークシンのオークション。

アンダーグラウンド・オークションの競売品を、まるごと。


久々の―――大仕事。






「怖いか?」





マフィアなど恐れる者たちではない。歯向かうならば、全員殺す。


それが蜘蛛。





「怖かねぇ…嬉しいんだよ!!命じてくれ団長……今すぐに!!」



ウボォーギンが歓喜に打ち震える。


『団長』と呼ばれた逆十字の男が蜘蛛に向かって命を下す。





「オレが許す。殺せ。……邪魔する奴は、残らずな」


「おお!!」




逆十字の男を頭に持った12本足の蜘蛛が、動き出した。


















「うー、あーっ!!ちくしょうめが!!」

ヨークシンの片隅でジャズが吼えていた。


預金残高は約320億。よくもまぁココまで貯めたもんだと自分でも感嘆する。だが足りない。



情報収集の段階でグリードアイランドを狙っている資産家の存在に気づいた。

今までも大金投じてグリードアイランドを集めている奴。


資産家のバッテラ。


今回も奴が出てくるとなると320億でも足りない。バッテラが出てこないことを祈りつつ、ジャズは金策に走っていた。

仲介屋のゾラに頼み込み、ジンの息子達と別れてから3週間の間にこなした依頼は4件。その依頼料を含めて320億。




「例の依頼、受けるかい?」


2週間前にそうゾラに最終確認された、数ヶ月前に聞いたあの依頼。

依頼内容はここヨークシンのオークションでの身辺警護。たったそれだけで、報酬は10億。


10億程度増えたところであまり意味は無い気もするがこれ以上割りのいい仕事なんて無い。

依頼内容は胡散臭いが仕方なく乗ることにした。




「くっそ…」

ゾラに頼んで今回の依頼は自分の名前その他モロモロが外に漏れないようにしてもらった。今後、派手に暴れることも自粛する。


なにせ「あのクモ」が、このヨークシンに来ている。


あいつらに自分がここにいることをかぎつけられでもしたら、めんどくさい事になるのは目に見えている。

それでもオークションの身辺警護が依頼だから、鉢合わせないとも限らない。どうせクモの狙いもオークションの競売品だ。


ジャズはどうやって奴らにばれないようにするか悩んでいた。



こと1人逃げることに関しては頭の回転は速いが、あまりこういうことに頭を使ったことがない。

派手に邪魔する奴をぶったおしていれば、奴らにばれることは明白。

おとなしくしつつ、ゼロ以外の誰かを守ってしかも奴らにばれないようにするなんて複雑なことはしたことが無い。

ジャズは頭を抱えた。



「……あーめんどくせ」


仕舞いには考えることも面倒くさくなって、投げやり気味にヨークシンを歩いていた。

何とかなるだろうとか、楽観的にものを考えながら。




とりあえず依頼人の部下と会う約束がある。

一度ゾラのところに来たそいつの話では、依頼人は今夜にはヨークシン入りするとのことだった。

だから先にその部下と待ち合わせの約束をした。

時間は4時。




まだ明るいカフェテラスに、いつも着ているような黒い長袖シャツに黒ズボン、

そしていつもの銀の十字架のついた黒いチョーカーをつけた格好で入っていった。


指定された席に向かうと、相手は先に来ていた。




「こんちは」

声を掛けるとこちらを向いた。

しっかりと黒スーツを着込んだ、金髪の男。歳は結構若くみえる。


「あ、待ってましたよ。ジャズさんですよね?」

相手には自分の格好を伝えてある。銀の十字架のチョーカーをしている、と。

それを確認してからその金髪の男はそう尋ねた。ジャズはこくりと頷く。



ふわりと笑った金髪の若い男。

女好きのする顔立ちだな、とか思いながらその男の正面に座った。


「ふふ、話に聞いたとおり綺麗な方ですね」

「男に言われてもなぁ…」

困ったように笑って見せると、先方も「ジョークですよ」と笑った。




「出ませんか?」

といわれたのでついていった。

どうやら本当の依頼主のところまで案内してくれるようだ。



「"ボス"とは5時頃ホテルで会うことになってるんです」

「ふーん」

色々世間話なんかをしながら、金髪の男と街を歩いていた。



「…アンタも結構やるね」

「そうですか?」

金髪の男のオーラから、その力量が伺える。

若いくせにこんな強いやつが部下に居て、オレの出る幕はあるんだろうか?とか疑問を持った。


「アンタさ…」

「うーん、出来れば名前で呼んでもらえると嬉しいですが…、これからしばらく一緒に居ることになるんだし…」


なんとなくその意見にも納得できたのでジャズは聞き返した。

「ああ…、ワリ。それもそうだな。知ってると思うがオレの名はジャズ。アンタはなんて呼べばいい?」


にっこりと笑った金髪の男はそのあとで答えた。









「シャルナークって呼んでください」



















数時間前、13匹の蜘蛛が巣食う廃ビルの一室。

逆十字を背負った男――――幻影旅団団長のクロロ=ルシルフルが口を開いた。


「そういえばマチ、オレに会わせたい奴が居ると言っていたな」


数ヶ月前、旅団員への伝言を頼んだときに逆にマチから言われた言葉。

それを思い出してクロロはマチに尋ねた。



「ああ、うん。…来るかどうかはわかんないんだけどね」

「なんて奴だ?」

クロロは確認するように聞いた。


「始末屋ジャズって奴なんだけど」



「ああ、始末屋ジャズか」

「名前だけなら聞いたことあるわ」

マチの答えにフランクリンやパクノダをはじめとする何人かの蜘蛛が反応をみせる。


「すごいキレーで強いって話だけど?」

「見たことは無いから知らないね」

と、コルトピとフェイタン。


「ウボォーを手玉に取るくらい強いらしいよ。ね?ウボォー」

「オレは手玉に取られてねぇっ!!」

笑って言ったシャルナークにウボォーギンが反論した。


「へー、そりゃおもしれーな」

「ウボォーよりも馬鹿力なの?」

フィンクスとシズクがウボォーギンに聞く。


「いや…、やたらすばしっこいのは確かだが出力はそれほどでもねーぞ?」

「ああ。…それよかアイツの念能力の方が面白いと思うがな」

「確かにね」

「ほう、どんなのだ?」

ジャズを知る3人の言葉、「念能力」という部分にクロロが興味を示した。



「多分具現化系能力者なんだけど…2種類くらい具現化するみたいなの」

「2種類も具現化できるの!?」

マチが言ったことに、同じ具現化系能力者のシズクが反応した。


「いんや、よくはわかんねーんだけどな」


「1個は"ダブル"みたいな感じだが…もう1個はかなり使えると思うぜ」

「ちょうどシズクの能力みてーなやつで…見た目はかなりアレだがな」

ノブナガとウボォーギンが思い出すように言った。



「ほう、面白いな。…始末屋ジャズか…どんな男だ?」



クロロの質問にマチ、ノブナガ、ウボォーギンが顔を見合わせた。


「いい男の部類に入るとは思うけど…ちょっとね」

「ああ…、アレか?」

「アレだな」


「3人で納得しないでちょうだい」

「もたいぶらずに早く言うよ」

うんうんと頷く3人に痺れを切らす他の蜘蛛。





「頭のネジがどっかふっとんでるな」

「アホだね。かなり真性の」

「ああ、アホだ」





他の蜘蛛はなんだか呆れて黙った。

それでもなお3人は続ける。


「エロいぞ。とにかく」

ノブナガがヒゲをなでながらしみじみと言った。


「ああ、だいたいここの…首元が開いた黒服か、裸に黒コートとか着てる」

ウボォーギンが自分の首を指して言う。


「んで首に銀十字のチョーカーをしてるね」

マチが他の2人に目で確認する。



「…でも、いい男なんだろ?マチ…」

今まで黙っていたヒソカがマチに尋ねた。

「アンタとじゃ比較にならないよ」

「ふぅん…」

吐き捨てるように言うマチ。それを見てヒソカも少し興味を持ったようだった。





「で、ヨークシンには来るのか?」

クロロが再度聞いた。


「来いとは言ったんだけど…ホントに来るかは…」

「待って待って」

マチの声をさえぎるようにシャルナークが割って入ってきた。




「実は一つ、手を打ってあるんだ」




以前からウボォーギンに聞いていた始末屋ジャズの話。

半年くらい前にも、マチ、ノブナガ、ウボォーギンの3人の手から逃れた話を当のウボォーギンから聞かされたシャルナーク。

なにか手はないかとウボォーギンに頼まれていた。


そして今回の蜘蛛全員招集の話が出たとき、一つのアイデアが浮かんだ。

ジャズは直接依頼を受けるほかに、仲介屋をとおしても依頼を受けることがあるのは調査済み。

直接アタックするよりは一つクッションを設けたほうが引っかかるかもしれない。


ダメ元で罠を張っていた。


「あまり期待しないでおくれ」と仲介屋が言って以降連絡がなかったが、つい2週間前に待望の返事が来た。




ジャズが、蜘蛛の巣に足を踏み入れた――――――






つづく


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すもも

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ももももも。