double style ◆54:"ディアボロス"





「あやつは初めからあの"闇食い(リバイアサン)"の能力を使えたんじゃよ。…四大行も知らん小僧じゃったが…」


ネテロが羊羹を口にしてそう言った。



「四大行も知らないのに『発』を…?それは初耳ですね…」

ノヴは紅茶を飲みながらネテロに聞き返す。

「うむ…」

モラウはタバコをふかして、ノヴとネテロの会話に耳を傾けていた。




ジャズはノヴやモラウと同じくネテロの弟子。

久々に集まった3人は、ここにはいないそのもう1人の弟子の話をしていた。






ノヴとモラウが初めてジャズと会ったときには、すでにジャズは師範代クラスと変わりない実力を持った頃だった。

ネテロに紹介されたときは『こんな子供が?』とも思えるくらい幼かったジャズ。

それでも、手合わせしてみてその実力が本物だと知ったときはノヴもモラウも愕然とした。



幼さを残しながらも非常に完成された美しさを持った少年だった。

ただその双眸に光は無く、何者にも心を開かない態度はしばらく行動を共にしていた間もずっと変わらなかった。


その後ネテロはジャズをどこかに連れていって、それ以来彼とは会ってない。

しばらくたってから、『始末屋ジャズ』として活動している話を色々な場所で聞くくらいだった。




ジャズは自分のことを何一つ話さなかった。

ネテロもジャズのことをそうそう話すことは無かったから、 ジャズのそんな話を聞くのは今日が初めてだった。





「…昔、西にディアボロスがいるという話を聞いてな。……犯罪者ならば止めねばならんし、まぁ好奇心もあって行ってみたんじゃ」

「ディアボロス…」

ノヴは紅茶を飲む手を止めて、突然始まったネテロの昔話に聞き入る。



「初めてジャズを見たのは…薄暗い路地であやつが体を売っているところじゃったな……。


小さな少年が大きな男に蹂躙されてるのを見てわしは憤慨したよ。…ここまで世は乱れているのかとな。

少年を助けるつもりで止めたんじゃが…声をかけた瞬間に大きな化け物が男の体を食いちぎったんじゃ」



モラウもノヴも、ただ黙って聞く。化け物――――彼の能力"闇食い(リバイアサン)"を思い浮かべて。



「ゆらゆらと揺れるその化け物が噂で聞いた"ディアボロス"だと思ってな…。よくよく見るとそれは念によって具現化されたモノだと知れた。

念で出来た巨大で醜悪な化け物を…こんな小さな少年が制御しているのかと思ったらとたんに鳥肌が立ちよったわい。

そしてわしは男の死体から金をあさって逃げた少年…ジャズを捕まえたんじゃ。

…そしたらジャズの奴、なんて言ったと思う?」



ノヴとモラウは顔を見合わせた。そしてノヴが問う。

「…なんて言ったんです?」


「『じーさんもオレが欲しいのか?』と妙に色っぽく誘ってきおった。ふぉっふぉっふぉ」

笑うネテロをノヴとモラウは少し怪訝そうに見ていた。




「日銭のために体を売って、平気で人を殺すような小僧をほって置けなくてのー。何とかなだめすかして連れ帰ったんじゃよ」

「会長も大概ですね…」

眼鏡を上げて言うノヴ。

このおせっかいな老人の悪癖に半ばあきれて、ノヴは笑った。


「ふぉふぉ…。…連れ帰った後、実力を測ろうと思って軽く相手をしてやったんじゃが……、凝どころか練も纏も知らんでな。

念について聞いてみても『知らねぇ』としか言わんから、始めはクソ生意気なガキじゃと思ったよ。

じゃが本当に念を知らんとわかって…

で、色々話をするうちにジャズが二重人格者で…ジャズの中にもう1人眠っていたのがわかったんじゃ」



「……それがゼロ君…ですか」


「うむ」




ジャズと、その相棒であるゼロの間に何があるのかはノヴもモラウも知らない。

いくら聞いてもネテロはいつもその部分だけをうまくはぐらかす。


ただ、彼らが双子ではなく二重人格者だという話を以前ネテロから聞いたとき、ノヴはなんとなくその理由がわかった。

それを確かめることは無かったが。




ネテロがお茶をすする。




「ジャズという人格はゼロを守るために生まれたんじゃ。あの、"闇食い(リバイアサン)"の能力を持ってな」

























「―――――で、どうすんの、この2人?」


シズクが蜘蛛に問う。



ゴンとキルアの処分をめぐって蜘蛛内で対立が起きていた。

腕相撲でノブナガを負かしたゴン。フェイタンがとっさにゴンを押さえ、そのフェイタンをノブナガが止めた。

旅団員同士で"マジギレ"は『ルール』によって封じられている。もめたときはコインで決めるのが蜘蛛のやり方。

そしてノブナガがコインを言い当てたことで、しぶしぶフェイタンはゴンを離した。



「鎖野郎を知らねぇなら開放してやればいいさ、オレ達の標的は鎖野郎だけだしな。…どうだ?パクノダ」

そう言ってフランクリンがパクノダに尋ねた。



パクノダは人の記憶を探ることの出来る能力者。

嘘偽りの無い"記憶"を引き出せることで、パクノダの『調査』は旅団員達から絶大な信頼を得ている。



「来る途中調べてみたけど…2人とも本当に心当たり無いわね」



「じゃあどーする?」

「鎖野郎と関係ねーなら帰してもいいんじゃねーか?」

「ここに置いといてもしょうがないしねー」

「だそうだ、よかたな。おうち帰れるね」



蜘蛛の意見にキルアはほっとした。

始めは"鎖野郎"と聞かれても心当たりなど無かったが、蜘蛛の会話を聞くうちに"鎖野郎"がクラピカであると推察できた。


"もう一度調べられたらヤバイ"


そう思って焦っていたから、帰れると聞いてほっとため息をついたのだ。





「いや、だめだ。そいつは帰さねぇ」

帰ろうとするゴンとキルアの背に、声をかけたのはノブナガだった。



「ボウズ。蜘蛛に入れよ」

ゴンに対し強い口調で言う。


「やだ」


「オレと組もうぜ」


「…お前らの仲間になるくらいなら死んだほうがマシだ」

はっきりと拒絶するゴンを見てノブナガは笑う。


「くく…ずいぶん嫌われたなぁ……オメェ強化系だろ?」

「………だったらなんだ?」

「やっぱそうだよ…くっくくくく……くくはははははは」

ひたすら笑うノブナガの様子に旅団員は何かと思った。



「ジャズに続いて狂たか?」

「さぁね」



こうべを垂れたまま微動だにしないジャズ。ゴンがノブナガを負かしたときも、2人が蜘蛛に押さえられたときも。

まるで壊れた人形のように何の反応も見せなかった。





「よォ……団長が戻るまでこいつらここに置いとくぜ。…入団を推薦する」

「本気かよ!?」

「ジャズほどの使い手ならともかく…団長が認めるはず無いね」

突然のノブナガの意見に旅団員たちは驚いた。


「まぁいいけど…、そいつらが逃げてもアタシらは知らないよ」

「見張りはお前1人でやれよ」

これからまた鎖野郎探索に出る。そう言って部屋を出て行こうとした。



「あ、ところでジャズはどうするの?」

全く以って動かなかったジャズ。うっかり忘れるところだった。

ハッとシズクが思い出し聞いたことで、部屋を後にしようとしていたほかの旅団員達も、そういえばと思い出して足を止めた。



「…このまま連れてくわけにもいかねぇよな」

「どうする?誰か残る?」


「大丈夫だよ、置いといても」

シャルナークが言った。

「ジャズの弱点はわかったし、逃げたとしてもまたすぐに捕まえられる。今は鎖野郎のことのほうが大事だし」

「…それにもう壊れてるね。逃げる心配はほぼ無いよ」

フェイタンも動かないジャズを見て、シャルナークに同意した。それで蜘蛛達の意見も固まったようだった。




「おお、そういや何があったのか説明しろよ」

「ああ、うん。そうだね」

そんな会話をしながら蜘蛛達は部屋を出て行った。









キルアはジャズを見ていた。


蜘蛛達が言っていた言葉が頭の中を回る。





―――――双子の兄って言い張ってた奴がいきなりジャズになったんだよ―――――







"双子の兄"



―――――ゼロ。












―――――双子の兄って言い張ってた奴がいきなりジャズに―――――







「僕の弟です。双子の」




ゼロの言葉を思い出して――――










「…一次試験のとき話したでしょ?僕の相棒がプロハンターだって。それが僕の弟の、ジャズです」









―――――いきなりジャズになったんだよ―――――











つづく


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ところでノヴとモラウってネテロ会長の弟子なんですよね?ドキドキ

すもも

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ももももも。