「ゼロ!オレが行くまでゴンとスタート地点で待ってろよ!」
「はい、もちろんですよ……」
「大丈夫かよホントに…;」
待ち時間になんとか少し気持ちを回復させて、順番も来たのでとりあえず僕もゲームの前へと向かう。
……そういえば僕のこの怪我はどうなるんだろうって…こうしてゲームが始まる前まで思ってたけど、もし僕らの予想通り『ゲームに入る』って意味がこのゲームを作った念能力者が用意した念空間にこのまま生身で転移するって意味なら、怪我もいずれは自己治癒できそうではありますね。
いや、もしもスタートした時点での肉体の状態が固定されるとかなんとか、ゲームに入る条件にされていたら治らないこともあるのかな?それだと困るけど、どうなんだろ?
スタート前にツェズゲラさんにもう一度尋ねてみようかなと思ったけど……。
ゲームの横に立ち、じっと無言のまま僕を眺めるツェズゲラさんの真摯な顔を見たら、その心配は無さそうな気がした。
怪我の事を尋ねる代わりに、「これ片手でも『練』イケますかね?」とフリーな右手を上げて訊いてみることにする。
「ゲーム機をオーラで包めれば問題は無い。…さあ後もつかえている。早速始めたまえ」
「はい、わかりました」
言われたとおり、ゲーム機の上に右手を置いて『練』をする。
他の合格者の人たちが両手でやっていたのと同じように、オーラでゲーム機を覆う感じにすると――――
その瞬間、僕は僕の能力である"追尾する光の矢(レイ・フォース)"の転移に似た感覚に全身を包まれた。
―――次に目を開けた時、立っていたのはいかにも機械の中…と思わせるようなコンピュータ制御された感じの小部屋だった。
『……やっぱ思った通りだったな』
と……頭の中に慣れ親しんだジャズの声。
ごく限られた人しか知らないはずの僕のもう一つの"人格"であるキミが、何の条件も制限も課せられることなくこの場に在る事ができるとしたら……。
やっぱりここは、単なる『ゲームの中』なんかじゃなく……。
『念も制限されてる感じはねーし、『ゲームの中』にオレ達の肉体や精神をコピーして存在を確立した……とかってワザじゃなく、生身の転移だなこりゃ』
『…あぁそっか。ハンター専用ハンティングゲームっていうぐらいだから念能力は中でも必須でしょうしね』
『おお。かといってあんな『練』程度で、赤の他人の念を全て写し取って再現するなんて芸当はどんなトップクラス能力者集めたとしてもちーっとばっか無理がある。
条件がゲーム機に向かっての『練』だけなら、発動するのは転移トラップ程度がやっぱ妥当だ。念で『ゲーム』のガワだけ作ったその中に、『練』をした奴を呼び込むってワケだ。
あとでお前、能力使って脱出できるか試してみろよ』
『あはは。それはさすがに禁止事項にされてそうな気もしますけどね』
念空間からの脱出においては、術者が指定した脱出条件を満たさない限りそれ以外の方法では出られないように設定されているのが普通だ。僕のレイ・フォースも弾かれちゃうんじゃないかな。
話している間に自動で開いた扉から、細い通路を通って大きめの部屋へ。
その中心部で待っていたのは、頭の上半分を機械で覆った女性がひと…り………
………あ、あれ?あの人なんか……;
「グリード・アイランドへようこそ。初めてのご入島ですね?お名前をどうぞ」
「あ、はい。えと……ゼロ=シュナイダー…です」
「ゼロ=シュナイダー様ですね。指輪への登録が完了いたしました。ゲーム中は必ずこの指輪をはめていただく形となります。こちらは島外へとお出になるまで外すことが出来ませんのでご了承ください」
そう言ってイータさん似の女性が手元のコンピュータをカチャカチャといじると、僕の目の前に、ゴンが持っていたあの指輪と同じデザインのものがパッと現れた。
イータさん…。いや、エレナさんだったっけ…。
本人…?似せたキャラクター?いややっぱり本人…かなぁ……?
そんなことを考えながら、宙に浮いていたその指輪を右手でつまんで、吊った左腕の…んー。とりあえず左手の人差し指にはめておくことにした。
利き手の右には指輪みたいな違和感を残しておきたくないし。
『…あー…、いや…。なんかこれ、わかったぜオレ。このゲーム作った念能力者ってのが誰かって……』
『あぁ…。それ、キミのそのセリフで僕もなんとなく想像がつきました…;』
ジャズが嫌々な感じで零した言葉に、僕も思い当たるヒゲもじゃ顔が。
……そういえば言ってましたね。「絶対面白いからいつか必ずやれよ!」って…。
それ、ジンさんもしかしてこのゲーム自慢したかっただけの話……??
いかにもジンさんっぽいな〜…;と頭痛を抑えるように眉間に手をやると――――
「…それではこれよりゲームの説明をいたします。ゼロ様、ゲームの説明をお聞きになりますか?」
感情を出さず、仕事に忠実に。
そういった風情の整えた業務用スマイルで淡々と言う女性に、僕もまた同じように無の顔で「はい、」と頷くしかできなかった。
……で。
結局このゲーム自体は、100コの指定されたアイテムをコンプリートすることがクリアの条件になってるらしい。
アイテムは入手すると自動でカード状に変化するので、「ブック」と唱えることで指輪から出る自分専用のカードホルダーに納める。
カードホルダーにストックしないカードは1分でアイテムに戻り、「ゲイン」と唱えることでもカードはアイテムに戻せるらしい。
そして一度アイテムに戻ってしまったものは、二度とカード化することができない。
カードホルダーには指定のアイテムだけを入れるポケットが100コと、どんなカードでも入れることができるフリーのポケットが45コ。
あとは『カード化限度枚数』とかカード化できない条件をいくつかと、死ぬと指輪も消えてカードが失われることとか。
あくまで最低限必要な情報を説明してくれるにとどまることを告げて、女性はそれで話を終えた。
詳しい情報はゲームしながら自分で集めてください、だって。…はは。
「ではご健闘をお祈りいたします。そちらの階段からどうぞ」
「…あ、はい。ありがとうございました…」
ぺこりと女性に頭を下げて案内された階段を下りる。
色々訊きたいけど、なんだか訊いていい雰囲気じゃない…;
『さっさと行ってください』的な無言の圧力をそのマネキンのような業務用スマイルから受けたので、大人しく従っておくことにした。
まぁこの後も順番がつかえてますしね。ゲームをクリアすればそのあたりの謎も最終的には解けそうな気がするし。
いや、でもあれ絶対イータさんかエレナさん本人か、それに似せたキャラクターだと思うんだけど……。あの圧力はやっぱり本人かな……;
首をひねりつつも階段を下りて、確認するとそこは見渡す限り死角なしの広い草原になっていた。時間も夜から日中へ。
見える距離での待ち伏せは無さそうで一安心だけど、どうやら何者かに遠くから監視はされてるらしく、ひどく視線を感じる。
この分だとこの世界そのものもかなり広大な面積がありそうですね。
「…あ!ゼロ!待ってたよ!」
「あ…!ゴ、ゴン〜〜!」
柱の影から駆け出してきてくれたゴンに思わず僕も駆け寄って抱きつく。
ゴンがいなくなってから短い間に色々ありすぎて、どうにも精神的疲労がひどいです。まだスタート地点に立っただけなのに。
ゴンの元気いっぱいな感じに、ちょっと癒された。
「どしたのゼロ?なんか涙目だけど」
「いろいろありました…; ゴンは何もなかったですか?」
「うん。オレは大丈夫。見られてる感じは強いけど…」
「そうですね。でもまあここも固定のスタート地点って話ですから。新入りの顔チェックとか、威圧をかけてこっちの力量を測ってるとか、そういう感じだと思いますよ?
不意打ち狙いならこんなバレバレの気配は送ってこないでしょうし」
「なるほどー」
「そんな気にするほどの感じじゃないですし、キルアが来るまでもうちょっと待ちますか」
「あ、そうだね。キルアって何番目だっけ?」
「キルアは僕の5人後ですね。20分くらいかなー」
「時間で言うと結構あるんだね…」
とりあえずキルアが来るまでは柱の影でゴンと一緒に座って待つことにして。
『そういえば』と、指輪を最初からはめて入ったゴンに、どんなデータが残ってたのか訊いてみることにした。
「あー、うん。キルアが来たら詳しく話すけど、ジンからのメッセージが残ってた」
「…え?ジンさんから……ですか?」
一応、読唇術とかの監視を避けて、口元を手で隠しつつコソコソ話。
僕のそんな姿勢を見てゴンも一応の警戒を張ってくれたのか、同じく僕に肩を近づけてコソコソッと教えてくれた。
「ゲームはジンが仲間と一緒に作ったゲームで、自慢したかったみたい。思う存分楽しんでけって…」
「あーやっぱり…。なんとなくそんな予感はしてました…」
「そうなの?」
「……ゲーム説明をしてくれた女性が、昔会ったことがあるジンさんの仲間の人そっくりでした……」
「そうなんだ…;」
目を逸らしつつ答えると、ゴンも苦笑いになった。
「僕がまだ小さくて、ジンさんと一緒に暮らしてた時に少しお世話になったんですよ。優しい人でした」
「へぇー」
……『あのひと』のせいですっかり食べ物が食べられなくなってしまっていた僕に色々と作ってくれて、優しく撫でてくれたっけ。
そういえばあれは、いつの、どこでのことだったかな…。
「ジンさんの事だから、お遊びで見た目だけそっくりにしたゲーム内のキャラクターの可能性もありますけどね」
「あ、うん。ジンはこの中にはいないっぽい感じのニュアンスだったよ」
「ふふ。確かに中で長々と待っててくれるような人じゃないですよね、ジンさんは。………あ;」
「ん?」
話してる間にも何人かの合格者さんたちが階段を下りてきて去って行ったけど、次に下りてきたのが可愛らしいドレスの………あのツインテールの女の子で。
目が合って、僕は思わず表情筋を固めてしまった。
「……あの子がどうかしたの?ゼロ」
「…いえ!!いえ、いや!なんでもないですよ!!何もなかったです!キルアはまだかな!?」
「どうしたのゼロ!?」
不審がるゴンをよそに、立ち上がって女の子とは少し距離を取る。
女の子はというと誰か仲間の人でも待っているのか、先には進まず、さっきまでの僕らと同じように柱の影にちょこんと座りこんでいた。
『完全にトラウマじゃねーか…』というジャズの呆れた声が頭の奥に聞こえた気がした。
つづく
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すもも