女主混合double style番外編 ◆ダーク・エンジェル




男の冷たい手が、私の腕を強く掴む。



「キミ…名前、リクっていったっけ………あのエンジェルと仲いいんだろ?」

「だったらなんですか!?離して下さい!」



ゼロのせいで腕を失ったと言っていた男が、私の腕を掴んでいる。


能面のようなその顔は、口元だけが酷く歪んで

――――表情の無いまま、男は深く、嗤っていた。




「ねぇリクちゃん。ちょっと来てくれないかなぁ…オレと一緒に」

「どうしてですか…っ!?私は貴方に用なんてない!私はゼロの所に行かなきゃならないんだから!」

「…そう?アイツの所に行くの?……それじゃあ―――」





"一緒に行こうよ……。"




そう言って、男が嗤う。







「―――嫌です!嫌!!離してください!!」


ゼロは何も関係ないのに。

貴方の腕を奪ったのはゼロじゃない。


それでもゼロは、貴方のことを"傷つけた"と……深く悔いているのに。

どうして貴方はそのことを理解しようともしないの――――




「リクちゃん…、ほら、どうしたの?…行こうよ…君の天使に会いにさぁ…」

「…嫌っていってるのに…!離してっ…!」


私の拒絶も無視して、私の腕を掴んだまま歩き始める男。

私は思わず空いた方の手にオーラをこめた。…残った右腕も引きちぎってやろうかと、思った。



―――けれども、その時突然誰かの手がバッと横から伸びてきた。


男の腕を強く掴んで男を制止させる。





「…リクをどこへ連れて行く気ですか?……サダソさん」

「ゼロ…!」


男―――サダソの腕を掴んだのはゼロだった。

探していた人物を目にしてサダソはクスクスと声を出して笑った。



「…やぁエンジェル。会いたかったよ」

「離して下さい、リクの手。」


ぎし、とサダソの腕を掴んだゼロの手に力がこもるのを見た。


サダソを見据えるゼロの横顔はとても真剣なもので。

いままで見たこと無いくらい……ゼロは怒ってた。




「くく…そう怖い顔しないでよエンジェル。…ごめんねぇリクちゃん。無理強いする気は無かったんだ」


そう言ってサダソはやっと私の腕を離した。

痛む腕を押さえて一歩下がった私をサダソの視界から隠すように、ゼロの背中が私の前に立った。



「…リクをどうするつもりだったんですか」

「だからそんな怖い顔するなよエンジェル。リクちゃんには何もしないよ。…だってオレは君をメタメタに壊したいだけなんだから」

「…『だから』、僕と戦うためにリクを人質にしようとしたんですか?」

「フフ…、まあそうなってたかもしれないね」


おどけて言ったサダソ。

その一言を聞いて、ゼロの纏う雰囲気が一変した。



私に背を向けるゼロの表情は見えないけれど、…きっとすごく怒ってる。


だって廊下に備え付けの、私たちの位置に一番近いベンチが『バキン』って大きな音を立てて一気にひびが入ったもの。

ひどく重く、暗い、殺気のようなものが辺りに満ちているもの。



このままじゃゼロはきっとサダソを―――





「ゼロ!!挑発だよ!止めて!!」

「リク!?どうして止めるんですか!?」


「ここはリングの上じゃないでしょ!?私、ゼロが人を殺すところなんか見たくない!…止めてよ…」



"それ"を止めようと必死でゼロの背中にしがみついた。

最初は私をくっつけたままでもサダソに飛びかかろうとしていたゼロ。


でも私が絶対離さないのをみて、ゼロは少し息を吐いてから体の力を抜いた。

同時に、辺りに渦巻いてたゼロの殺気も抜けたようだった。



「――――ふぅ。…わかりましたリク。ごめんなさい。……行きましょう」

「あ、ゼロ…」


私の手を取ってゼロは踵を返して歩き出した。

私とゼロじゃコンパスの長さが違うから、どうしても少し引っ張られる形になってしまう。

それでなくてもゼロはその時、早足でその場を去ろうとしていた。


「…なーんだ。もう行っちゃうの、エンジェル?さみしいなぁー」

「…あァ、そうだ。サダソさん」

「なんだい?」


クスクスと笑い続けるサダソに、立ち止まったゼロが一瞥を投げた。


氷のように冷たい視線……。やっぱり怒ってる。





「僕だけならまだしも……今度リクに何かしたら、そのときは本気であなたを潰しますから」

「フフ…そりゃあ怖い」

「………行きましょう、リク」

「う…うん…」


笑うサダソを残して、ゼロはまた歩き出す。

サダソは追ってこなかった。



しばらく早足で歩いていたゼロもサダソが追ってこないのを感じてか、だんだんと歩みを緩め、私に合わせてくれた。



ゼロはずっと無言だった。前だけ見て歩いてる。


私の手を握るゼロの手だけが、あったかかった。





「…ごめんなさい、ゼロ」

「……? どうしてリクが謝るんですか?リクは何も悪くないですよ」

「ううん。…私が、油断しててあんな人に捕まったから…」



しょんぼりと肩を落とした。

私は、きっとゼロの邪魔にしかなってない。

私が最初にあんな人に捕まらなければ、ゼロにこんな迷惑かけることもなかったのに。





「…リク。」

「……………。」

立ち止まった私を気にして、ゼロが私の前に立つ。


背の高いゼロはわざわざ身をかがめてまでしっかりと私と目線を合わせて言う。



「気にしないで大丈夫です。泣かないでも大丈夫。リクにはもう絶対に手出しさせない。僕が必ず決着をつけますから」

「ごめんなさい、ゼロ…」

「あは、だからどうしてリクが謝るんですか?リクは悪くないです。僕の方こそ、関係のないリクに怖い思いさせてしまってごめんなさい…」


苦笑いをしてゼロがぺこりと頭を下げた。


どうしたって、ゼロには気を使わせてしまう。

どうして私ってこうなんだろう。…これ以上ゼロの迷惑になりたくない…。




「……リク、泣かないでください…;」

「うう…;ごめんなさい…;」


いたたまれなくなって身をちぢこめる私を見てか、ゼロが困ったように「ふー」と息を吐いた。

呆れられたのかな…?なんだかさらに自分が情けなくなってきた。



「…うーん………そうですね…。じゃあリク。こうしましょう?
 僕、そのうち必ずあの人とここで戦いますから、…そのときはずっと僕の傍に居てください。僕のこと、いっぱい応援してください。……それで許してくれますか?」


「………ゆ、許すも何も…! 応援はするよ!…絶対する…。 …………私こそ、それでいいの…?」

「全然!いいですよ、決まりですね!……じゃあもう気にしないで行きましょう。ゴンやキルアも、もうきっとウイングさんの所にいっちゃってますよ」

「…うー…」

ゼロはあっけらかんとそう言って私の手を引いて歩き出した。





………いつか、ゼロには『ごめんなさい』とか『ありがとう』とか、いっぱい言わなくちゃならないんだけど…。

そういうのも全部こめて、絶対…いっぱい応援するから。



だから……





「ゼロ、絶対勝ってね…」


私の呟きが無事届いたのか、前を歩いていたゼロがくるりと振り返った。

その顔には満面の笑み。



「ええ、もちろんですよリク。だって僕にはあなたっていう勝利の女神がついてくれてますから!」

「……ばか」




見惚れそうなほどの笑顔で恥ずかしげもなく言わないで。



そんなことを思いながら、ゼロと共に、ゴンやキルアやズシが待つであろうウイングさんの宿へと急いだ。







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友達以上恋人未満な関係っぽい感じですが、たのしんでいただければいいなぁ

すもも

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ももももも。