いくつものテレビモニターと、それと同じだけの数の小さな「機械」が並ぶ狭い部屋。
一つのモニターとその機械の前に、1人の青年が立つ。
「じゃあ…お先に行ってきます」
「うん!ちょっとだけお別れだね、ゼロ!」
「オレらが行くまで待ってろよ」
「はい、もちろんですよ」
頭の後ろで腕を組んだ銀髪の少年・キルアと、元気に手を振る黒髪の少年・ゴン。
彼ら2人に向かって片手を上げて挨拶をして、僕は正面のある機械に目を向けた。
実際に死を伴うという世界一危険なゲーム、"グリードアイランド"
僕の恩人が作り上げた、世界最高峰のゲーム。
それを僕は―――僕"たち"はこれからプレイしようとしてる。
『いったいどんなゲームなんだかな』
『さあ…、楽しみですね』
頭の中に聞こえた"相方"の声に、にっこりと笑顔で返事を返した。
大きな期待と、少しの不安を心に持って、僕は目の前の機械に片手を乗せる。
「んっ、」
ゲーム機に手を乗せて、『能力』を使う要領で力をこめる。
――――と、僕のオーラに反応したゲーム機が突然バチバチと火花を上げ光りだした。
「な、…これは……!?」
『…おい、待て!手ぇ離せゼロ!!』
「―――え?」
ここまで僕らを案内してくれたグループリーダー、ツェズゲラさんの動揺した声と、もう1人の僕―――ジャズの声が頭に響いた。
何か様子がおかしいのかと思ったが、正直僕の意識があったのはそこまでで。
バチィッ!!
「うわっ!?」
「「ゼロ!!?」」
ゴンとキルアの叫ぶ声もむなしく、今この瞬間まで目の前に居たはずの青年の姿は、ぷっつりとその場から消えうせていた。
パシャンッという水のはねる音で1人の男が目を覚ました。
また庭の池掘りに鳥でも飛び込んだのかと思いつつ、けだるい体を起こす。
布団から抜けて障子を開けて、「ああ今日もつまらんほど平穏な空。」と、乾いた笑いを青色の空へと向けた。
いつもとかわらない、平穏で、退屈な空。
しかし、グーッと伸びをしながら庭に視線をおろすと、そこにはいつもとは違う"色"がひとつ。
「……なんやろ、アレ。」
大きな池掘りの真ん中に、見知らぬ男が1人浮いていた。
「…………旅禍?」
「……ん…」
永い眠りから覚めるように、ゼロはふと意識を戻した。
ゆっくりと目を開けて、見知らぬ部屋の天井を眺める。
ここはどこだっけ…。
天井を見ながらぼんやりと考えていると、突如、横から声がかかった。
「やっと気がついたん?」
「…え…?」
視線を横にずらすと――――銀髪に黒い装束。目の細い男が、自分の顔を覗くようにしてそこに座っていた。
「え、と…?」
「…何や、なんも覚えてへんの?キミ、ボクんとこの庭の池に頭突っ込んで倒れてたんやで?」
「あ、頭突っ込んで…?;」
「……ほんまに覚えとらんのや〜。…ま、ええわ。せやけど助けてあげたんはほんまのコトやし、お礼くらいはくれてもええのと違うの?」
「あ、はい。ありがとうございました。えーと…」
と、布団の中の男は少し困ったような表情で、体を横たえたままでじっと自分を見上げてくる。
……なんやろなァ?
「―――あァ、もしかしてボクの名前?」
ぽっと考えが及んで、銀髪の男はそのままそれを口に出す。
すると寝たきりの青年はうれしそうに微笑んで、
「はい。教えてください」
と、一言。
なにがうれしいのやら。
男の癖に、ずいぶん綺麗に笑う子やなァなどと思いつつ。
「ボクは市丸ギン」
そう応えた。
「"いちまるぎん"さん…。そうですか…助けてくださってありがとうございました、市丸さん」
寝たままの格好ながら、ぺこりと頭を下げて礼をする青年。
「いやァ、そこまではせんでもええよ。最初はボクも、キミの事ドロボウかと思ぅててん。ほんでキミの目ぇ覚めたら出るトコ出したろ思てたトコロやし」
「え。」
「…まァでもキミの目ぇ、綺麗やし。金目当ての泥棒ゆうことはないんやろ?
仮に、キミが泥棒やったとしてもや。今日一日ボクに付きおうてくれたら、なんも事情聞かんと見逃したってもええよ?」
「はあ…」
「…見たトコ、なんか訳アリやろ?キミ。」
旅禍風情が。と心の中で呟いて、市丸はドス黒い色の笑みを口元ににじませる。
しかしその男の反応はというと…。
「うーん…まあ…訳アリといえば訳アリ…になっちゃうのかもしれないですね…」
すいません、とこぼしながら屈託なく笑う男のその表情に、市丸はおもいきり肩を透かされた。
「……ぷっ…ははっ。おもろい子やなァ、キミ。―――名前は?」
「あ…、僕、ゼロっていいます。」
―――――ちょっと…、気に入ったわ。
「―――で、ゼロ?それはエエとして。まず着物、どないする?着てた分しか持っとらんやろ?あの、現世の着物みたいなん」
「へ?」
「遊んでくれるんやろ?ボクと。それとも裸のまま出るか?」
「あ…」
そういえば布団に入ってて気づかなかったが、布団の下の、この感触はおそらく全裸。
まあ、一度水に浸かってびちゃびちゃになったこの体をそのまま家に上げるわけないか、と自己完結し。
わざわざ拭いてくれたのかな、いい人だな、と思いながら、同時に"現世"ってなんだろう?とも思うゼロ。
「キミの服濡れたままやけど…、それ着る?風邪引くよ?ボクので良ければ貸そか?」
「あ、貸してもらえるならうれしいですけど…」
市丸さんの着てるの、足元ヒラヒラしてて動きづらそうだなぁ………とは…、貸してもらう身では言えることじゃないか。
そんなことを少し考えてからゼロはハッとしたように、にへ、と愛想笑いを市丸によこして自分の考えをごまかす。
市丸はそんなゼロの考えもお見通しなのか、はたまた何か別の意味があるのか、薄い笑みを口元に浮かべ立ち上がった。
「ほおか。ほな、そこで待っとってや。似合いそうなん見繕ってくるわ」
「はい、お願いします市丸さん」
スラッと襖を開けて隣の部屋へと消える市丸の背に、ゼロは布団に横になったままで会釈をする。
そして誰も居なくなった部屋で、ゼロは再び天井へと視線を移した。
……それにしても変わった家だなぁ…。
乾いた草のいいにおいがする。
ネテロ会長の部屋のタタミと匂いも触感も変わらない、不思議な空間。もう「ゲーム」の世界に入ったんだろうか?
僕自身も、部屋の存在感も。
なにもかも「現実」と変わらないリアリティにあふれていて、これは本当に「ゲーム」なのか不安になる。
『実際に死ぬかもしれないゲーム』という触れ込みはあながち嘘じゃないのかもしれない…。
掌を閉じたり開いたりしていて、「あ、そういえば…」と"あること"を思い出す。
『…ジャズ?ねぇ、いますか?ジャズ?』
早速とばかりに頭の中で自分の"相方"に呼びかける。
だがしばらく待ってみても、その呼びかけに返事は無く。
「…って、あたりまえかぁ…」
ふぅ、と息を吐き出してゼロは1人ごちた。
ここは元いた現実じゃない、『ゲーム』の中の世界なのだから…。ジャズが自分の中に"再現"されていないのは当然のことなのかもしれないけれど。
「はぁ、不安だなぁ…」
ジャズがいない旅だなんて初めてだ。ゲームに入ったらこうなるんじゃないかとは最初からうすうす気づいていたけど、実際になってみるとやっぱり不安だ。
せめて早くゴンやキルアと合流しなくちゃ。
「はあ…」
「―――ゼロ。なんで溜め息ついとるの?」
「…あっ;」
今後のことをいろいろ考えてため息をついていたら、いつのまにか市丸が横に戻ってきていた。
くすくすと笑われて、ハッと意識を戻したゼロ。
市丸の手元を見上げると、そこには鮮やかな青地に薄いピンク色の花びらが刻まれた美しい布があり。
それを目にしたゼロの口からは『はは…』という乾いた笑いが自然と漏れた。
「…えと……; なんか、派手ですね…; 僕、市丸さんみたいな黒の無地のでよかったのに」
「そんなんゼロには似合わんよ。カワイイやろ、こっちのほうが」
「いや、カワイイとか…。それじゃなんだか扱いが女の子です…」
「(まァ、実際女物やけどねv)まあエエから。ゼロにはこっちのほうが似合うよ?着てみ?」
すこし疑問に思いながらも、ゼロはその場に身を起こした。
目の前に、ずい、と差し出された布。手にとって広げてみる。
「えーと…あの…これ、どうやって着ればいいんですか?僕、こういうの着たことないんですけど」
「ほな、ボクが着せたろか?…ホラ、早よ立ち」
「立…って、でも僕、裸だし…」
「ええやん。男同士やろ」
「はあ…まあ……そうですけど……。なんか恥ずかしいです…」
「そやけど、キミのコトはじめに脱がしたんもボクやv」
「うっ…;」
「な?そんなに気にせんと早よ立ちィやv」
にこーっと笑う市丸に気圧され、ゼロはしぶしぶ了解して立ち上がった。
「やっぱりゼロ、青似合うわぁ〜v」
「そ、そーですかぁ…?」
市丸の一言に、鏡に映った自分の姿を改めて見たゼロが思わず口から不満を漏らす。
かわいらしい花びらの舞うその民族衣装は、知識のない自分から見ても女物としか言いようがない。
(だまされてる…!僕きっとだまされてる…っ!)
恥ずかしくて思わず両手で顔を隠したゼロ。涙が出てるのは気のせいか?
「そない恥ずかしがらんと、よく見せてなv」
「あの…、や、やっぱりこれじゃ女の子みたいですよ…;別のはないんですか?」
「あァ、いじったらあかん。わやんなってしまうわ」
「ぇええ…。でも〜…」
まだ納得いかなそうなゼロをみて、市丸がもっともらしい言葉で彼を諭す。
「ええか?ゼロ。キミ着物着るん初めてなんやろ?みんなこーゆうもんなんや(嘘やけど)」
「でも…市丸さんのは…」
「ボクのは仕事場の制服。せやからゼロには貸せん」
「…そう…なんですか…」
しょんぼりと肩を落とすゼロの頭をぽん、となでて市丸は笑う。
「そう心配せんでも、よー似合っとるよ?」
「あんまりうれしくないです…」
「存外気難しい子やなぁ、ゼロは」
「…普通の反応だと思うんですけど…」
そのままサラサラとゼロの髪をなでていた市丸だが。
ゼロの、その無造作に伸びた後ろ髪にまで指を通したところで、市丸はさらに何かを思いつく。
そしてゼロの了承も得ずに、その思いつきを試すように市丸はしゅるりとその髪を手櫛でまとめはじめた。
「……市丸さん?」
「―――あァ、やっぱりや。この後ろ髪まとめたらもっとカワエエ。首筋綺麗やし。そーしよ?な。」
な?と聞きつつも、返答を待つ気はないのか、市丸はさっさと櫛を取り出してさらさらとゼロの髪を梳かし始めてしまう。
「…いや、あの……; …なんか僕、さっきから市丸さんにうまーく言いくるめられてる気がしてならないんですが…」
「そんなことないよ〜?ゼロ、色白うてホンマに着物よう似合うわ」
「本当ですか〜?」
「ホンマやって」
―――この場で引きずり倒して脱がせたなるくらいに、な。
その薄い唇からは一体どんな声が出るんやろね?聞いてみたいわ。
「え?」
「んvなんでもないよ?」
「はあ」
少し首を傾げつつ正面を向いたゼロの背を眺めながら、クッと口元を吊り上げて市丸は笑う。
聞こえても聞こえてなくてもどっちでもよかったのだが、運良く、というべきかゼロには聞こえてなかったらしい。
まとめた髪を以前慌てた女が忘れていったかんざしでとめ、ポンとゼロの背中を叩く。
「…とりあえずはこれでエエやろ。あとでもっとええかんざし買うたるな」
「はあ…;」
「そんな気ィのない返事せんといて。ボク1人が張り切っとるみたいで悲しゅうなるやろ」
市丸はそういって笑いながら、うにゅ、とゼロのほっぺたを引っ張った。
「ぅう…ひゅいまひぇん…;」
「よし、カワエエから許すわ。…さて。ゼロ、腹へってない?街行こか。」
「え゛…。街って…も、もしかしてこのままですか?」
「せや。せっかくこんなカワエエんに、皆に見てもらえんと着物がかわいそうやろ?」
「うっ…」
『着物が』というところをやけに強調して言う市丸。
この短時間で、目の前の青年の"手綱のとり方"を十分見抜いたようだった。
「ゼロ。キョロキョロしとったらすぐ迷子になるよ?手、繋ごv」
す、と目の前に差し出される市丸の手。その手を見ながら、『やっぱりなんかだまされてる気がする…;』とゼロは心の中でつぶやいた。
つづく
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一護に萌えたから書き始めたのになんで相手が市丸にシフトしてるのか…
すもも