Troublesome visitor (in BLEACH) ◆2-07:レッツ☆黒崎家




一護の奴にゴーインに腕を引かれてやって来たのは、どうにも学生の独り暮らしには到底見えねー風貌の家だった。

いや、親父が門限でどーとか一護の奴が言ってたから、独り暮らしじゃねーのは最初から分かってたことだが。


両開きのでかいガラス扉と、その上に掲げられる看板―――字は読めねーが、どう見てもなんかの店だ。

入り口正面に見える店内の掲示板にあるポスターのイラストや全体的な清潔感から言ってサロンか診療所の類。



「…お前の親、何やってる親だ?一緒に暮らしてんのは…、両親と……お前の3人か?」

「親父がココで町医者やってんだよ。あとは……、双子の妹が2人」




オレの問いかけに一瞬……だが、言葉を切った一護。…親父と妹……、母親がいねぇのか。


…それ自体はまあ特段珍しい事でも…ねーんだけどよ……。




「……お前さ、そんな家族と一緒ってんなら、なおさらなんでオレみてーなの連れてきた?オレとお前とで揃ってたら余計ホロウ共に狙われやすくなんだろ?

ゼッテーお前の家族に迷惑かけることになるぞ?いいのか?大体お前、オレの事家族になんて説明する気なんだよ?」


「そ…、それは今何とか方法を考えてる!」

「…今って。ハァ…。勢いだけでお前、なんにも考えてねーんじゃねーか…」



―――ってオレが言うと、一護はぐっと言葉に詰まる。


いや、ルキアの持ってるあのケータイ?で時間と場所がある程度察知できるなら守るのは苦でもねーだろうけど、あの女はというとここに来る道中でなぜか「では私はこちらなので〜」とにこやかにフケやがった。


そりゃ、死神の力を失ったとかいうあいつより、実際に大剣振り回せる一護のが戦力としては重要かもしんねーけどよ。

一護に「いいのか?」と聞いたら「あいつの居所は分かってるからいーんだよ」だと。はあ?

あれだけ仕事手伝ってもらってるだのなんだの一緒に居なきゃなんねーような事言っといて、なんでお前ら2人同じトコに住んでねーんだよ。そっちの方にオドロくわ。


「おい!」っつって呼び止めたが、ルキアはさっさと行っちまうし。



つーわけで、ホロウの探知は今のところオレの"円"のみ。


逆に気配を"絶"った方がホロウ共からは見つかりにくくなるのか?と思ったんだが、訊けば一護の奴は霊力だのなんだのを察知する能力にはニブいらしくて(ついでに訊いたら気配を絶つことすら苦手らしい。…一体何が出来んだコイツ?)

結局のところホロウへの警戒はオレがやってる状況だ。



……とはいえ、ゼロの『追尾する光の矢(レイ・フォース)』ならともかく、オレの『闇食い(リバイアサン)』は基本的に守りには不向きだしな。

あの公園の広さでならともかく、こんな狭い家ン中でホロウとヤリあおうっつーのは、リバイアサン抜きにしてもかなり無理があるだろ。


そもそもオレのリバイアサンだってあの見た目だ。あいつの姿形が総じて―――特に女に評判良かった試しはねぇし。

妹ってのが幾つか知らねーけど、ホロウから守るどころかオレのリバイアサンで失神させる自信すらあるぞ?考えるだけでめんどくせぇ。




「……………やっぱオレ、戻る」


「はあ!?お前、ここまで来て何言ってんだよ!?」

「いや、驚くとこでもねーだろ…。"仕事"の標的っつーならまだしも、無関係のガキ巻き込む羽目になったらどうにも目覚めが悪ィもん。戻るわ」

「いや!ま、待てって!ここまで来てお前逃がしたらルキアの奴に何言われっかわかんねー!

それにさっきも言ったけど、お前にあそこ戻られてもホロウが出るたび俺があそこに呼び出されて迷惑なんだよ!!こっからどんだけ離れてると思ってんだ!」


「うっせーな…。ルキアもう居ねぇだろ。ここからだって文句言うほど大した距離でもねぇ。

そもそも、オレのリバイアサンがまた暴走するってんならともかく、ホロウ程度なら何匹来ようがこっちは相手にもなんねーんだ。迷惑っつーならなおさら放っとけよ。

家族を巻き込む道理にはならねーだろうが…」


「そ…、そりゃそーだけどよ…!一度関わったからにはそう簡単に放ってなんておけねーだろ!

手の届く距離なら、誰だって護ってやれるから言ってんだ!家族も、お前の事も!!

いいからもう黙って家入れよお前!話なら後でいくらでも聞いてやるから!!」


「……マジで度を超す熱血野郎だな、暑苦しい…; お前それ自分で言ってて恥ずかしくねーのか…?」

「うるっせぇ!!てめーが訊いたんだろ!!」



またしてもドン引きなオレに、一護が顔真っ赤でキレてくる。


そうしてヤイヤイしてたら突然、医院と併設の住居の方の玄関ドアがバンッと開いて、中からおっさんが飛び出してきた。



なんだ?と思う間におっさんは勢いよくオレ達のところまで走って来て―――飛び蹴りを一発、一護の上体に見舞った。

一護にはまだ腕を掴まれたままだが、それでも1歩、オレは巻き添え食わねーように後ろに下がっといた。



「―――遅いっ!!今何時だと思ってる、この不良息子が!!我が家の夕食は7時って決まってるだろうが!!」

「こんの…!!親父てめぇ、何しやがる!!まだギリ7時前だろーが!!大体、実の息子足蹴にする父親がどこにいる!?」

「やかましい!我が家の鉄の団欒を乱す者には血の制裁を下すのみだ!いつも言ってるだろうが!!わかったらさっさと家に入れ!!遊子と夏梨も待ちくたびれて――――、っと。……誰だ?新しい友達か?」


「あ〜〜………。ドウモ」



一護と言い争いしてた黒髪の偉丈夫(…まあ一護の父親だろう)が、ふと、横で黙って見学してたオレの存在にも気づいて、そのアクティブな動きを止めた。

目が合っちまって、仕方なくオレはジュースのペットボトルを持ち替え片手を上げる。



「わ、夏梨ちゃん見て見て!お兄ちゃんがすごいカッコいい男の人連れて来た!」

「ぇえ?一兄、なに?ホスト通いとかしてんの?それともクラブでバイトでも始めたの?」



…なんて、さっき一護の父親が飛び出してきた玄関ドアから、栗毛の少女と黒髪の…少年みたいな少女がちょろりと顔を出す。


あれが一護の2人の妹って奴か?

挨拶のつもりで上げた手をゆらゆら振ってみると、2人ともビクッとして顔を引っ込めちまった。失礼なガキ共だ。




「あ、ああ〜…っと……、こ、こいつは、その!ジャズ=シュナイダーっつって、えと…そう!そこの通りでとある少女を襲う悪漢を一緒に成敗して意気投合したっていうか!

…な、なあ!?だよなぁ、ジャズ!?」


「…あ?」


オレのことどう説明するつもりかと一護を見てたら、一護は腕をオロオロと動かしながら、変に上ずった声でそんなしどろもどろな言い訳を展開し始めた。


一護の父親は胡散臭そうな目でそんな一護の言い訳を聞きつつ、「ほーぅ?それで?」と先を促す。

明らかに一護の挙動がおかしいわけだが、一応聞く気はあるのか。懐の深いおっさんだな。



「そ、それで…その、なんていうか、こいつ、ホームステイ先を探してるらしくてっ!その、うちで少し面倒見てやれないかなぁ〜…なんて思ったりなんかしたりして…!!」

「ウチはそんなボランティアに登録した覚えはねぇけどなぁ」


そう言って、ん〜〜?と一護の父親がやおらに顔を近づけてオレをじっと見てくる。

嘘がないかどうかの探りか知らねーケド、こっちに訊いてこられてもフォローに困るからとりあえず目をそらしておいた。つーか距離が近すぎんだよ。



「だ、だめならとりあえず今日だけで良いんだ!泊まるトコねーっていうし、これからホテル探させんのも時間的にアレだし、その、な…!?」


「(…一護、お前それだいぶ苦しィー…)」

「(うっせぇ!つかお前も少しぐらいハナシ合わせろよ!!)」



あんまりにもしょっぱい言い訳で、もう完全に嘘なのはバレてるような気もする。

が、一護の父親はあっけらかんと「別にダメとは言ってないだろ」と返してきた。


おお、意外。




「は!?良いのかよ?!」

「なんで言って来たお前が一番驚いてんだよ。―――だが!その代わーり!!」



…と、急に胸張ってデカい声で叫んだ一護の父親。

そしてビシィイッと効果音が付きそうなほどの勢いでオレの目の前に指を立てて、また暑っ苦しく迫って来た。



「ウチの娘には手を出すなよ。お前のよーなチャラチャラと軽そうな風体の外国メンズなんぞに大事な娘はやれん!!

遊子と夏梨には、おとーさんのよーな背が高くて!顔も良くて!包容力豊かで!気風が良くて質実剛健、あとこう…何か大きな夢を持った、それでいて誰よりも妻と家族を愛する立派な男じゃなきゃ結婚は許さん!!」


「…あ、はい。」



何を言ってるのか理解が追い付かなくて、とりあえずの相槌を打つ。


…が、"それ"はそばで見てた一護も、玄関ドアに隠れてこっちを見ていた一護の妹たちも同じだったらしい。

「な、何言ってんの、お父さん!?」とか、玄関から再び顔を出しつつ、栗毛の方の妹が顔を赤くしながら突っ込む。


けど一護の父親はオレ達がもれなくヒイてるのにもまったく気づかず、…いや、それともあえてのスルーなのか?今度は玄関口の妹たちに向かってテンション高めに走り出した。


「遊子ー!夏梨!もうこうなったらむしろ2人ともおとーさんとケッコ…」

「だまれクソ親父!!」


口を突き出し、抱きついてのキス体勢で走り込んでく一護の父親の顔面に、黒髪の方の妹がやたらフォームの綺麗な跳びヒザ蹴りをかます。

実の娘から激しい拒絶を食らった一護の父親は、「や、やるな夏梨…」と親指立ててグッジョブしながら轟沈した。……何なんだこのおっさん。




「………お前んち何?スゲー賑やかだな」


地面に潰れた死体を指差して一護にそう訊いたら、


「賑やかのはアレだけだ。放っといてもう家入ろうぜ」

と、半分呆れ、半分キレ気味に言われた。


一護はそのまま、玄関先にうつ伏せに横たわる父親をまたいで家に入って行き―――その一護に腕を引かれたままのオレもまた同じようにそれに倣う。

そして最後に家に入った黒髪の方の妹が玄関にがっちゃりと鍵を掛けて、一護の父親は見事に締め出しを食らったわけだ。


…容赦ねーな。同情もしねーけど。








家に入ると一護からまず靴をスリッパに履き替えるよう言われ、そして一護の後についてリビングまで案内を受ける。


テーブルにはすでに家族4人分の温かい食事が並べられていて、どことなく居心地の悪さを感じるが―――

そこへ栗毛の方の妹がもう一組食器を持ち出してきて、オレの分と思わしき席を用意しはじめた。



「ねぇおにいちゃん、こっちのお兄さんの分のご飯どうしようか?今日カレーだし、よそっちゃっても良いかな?」

「おう、悪いな遊子。お前もメシまだだよな?ジャズ」

「…おお。馳走になっていいなら…。つーかこれ、お嬢ちゃんがメシ作ったのか?」

「あ、うん。うちお母さん居ないから……」

「……そうか。小せぇのに立派だな」



寂し気に笑った栗毛の妹の頭をポンと撫でてやる。オレ自身、笑えてるかもわからねーんだが……。



――――と…その時ふと、リビングの一角にでかでかと飾られていた栗毛の女の肖像が視界に入って、オレはそっちに顔を向ける。


優しげに笑う、どことなく目元が一護に似てる気もする美人の写真だった。





「……これ…、もしかしてお前らの母親か?」


「う、うん…。そうだよ」

「あのヒゲが遺影引き伸ばして張り付けてんの。恥ずかしいから止めろって言ってんだけど」



写真に見入ったままで尋ねると、近くにいた栗毛の妹と……声からして黒髪の方の妹がそう答えてくれた。

声の調子を聞く限りじゃ、2人とも一応割り切ってはいるんだな。…母親を亡くしたことも。


…まぁ、オレみてーなわけのわかんねー奴の前で、早々そんな感情を出すわけもねーだろうけどな…。




「……アホみてーな遺影だなって思ってんだろ」

「思わねーよ、別に。………ただ、綺麗な母ちゃんだなと思って」

「あ…?そ、そうか…?」



オレの素直な意見を聞いて少し照れた一護。


その顔をふっと笑っていたら、「わかるかー!?ウチの真咲は近所でも評判の美人母さんだったんだぞー!!」とリビングの窓がバンッと開いて、またあのクソやかましい一護の父親がテンション高めに乱入してきた。



「あっ!?なんでヒゲ…!?どうやって入って来た!?」

「ふっ、甘いな夏梨!こんなこともあろうかと!父さんあらかじめ窓のカギを開けておいたのだ!」

「なんだって!?」


「それはそうとお前!ジャズっつったな!?なかなか見どころがあるじゃないか!向こうで小一時間、ウチの母さんの魅力をこの際みっちり教授してやるぞ!?」

「……………。」

「客相手にまで何恥ずかしい絡み方してんだ、このバカ親父!?やめろって!!嫌がってんじゃねーか!!」



カラダを腰からくの字に曲げて逃げてるしかめっ面のオレを指して一護が言う。

…が、一護の父親がそんなことでオレを離すわけもなく、オレの肩を抱き寄せたまま、逆に一護の言葉に焦ったかのようにさらに暑っ苦しく迫ってくる。


「い、嫌がってるなんてそんなことないぞぅ!?これからウチに住むならもう客でもないから、この際ウチのルールをしっかりと覚えてもらおうと、父さんはだな…!!」

「な・に・が、『ウチのルール』だ!てめぇが好き勝手したいようにしてるだけじゃねーか!!嫌なら言いなりになってねーで、遠慮なくブッ飛ばして良いからなジャズ!?」


「…いや、まぁ…もう別に構やしねーが…」


一護の奴が父親を後ろから羽交い絞めにして、オレから引き剥がそうと手を尽くす。



その一護をオレは手で制して、自ら一護の父親へと向き直った。




「ただ―――、アンタにはいくつか訊いておきてェ事がある」


「…お?おう、なんだ?何でも聞いてくれて良いぞ!この父に!!」



ビッと親指を立てて自信満々の笑顔をオレに向けてくる一護の父親。

一護は『何を言うつもりなのか』と心配そうに「お、おい…」と声をかけてくるが、無視してオレは傍の男の顔に見入る。






「なあアンタ。……あんた、子供は愛してるな?」

「――――って、何訊いてんだ!?」

「3人とも愛してるよな?」

「無視すんなコラ!ジャズ!?」



後ろで騒ぐ一護をスルーし、目の前の男に重ねて訊く。



一護の父親も、オレの質問内容が予想外だったからか最初は少し面食らっていたが―――

オレが目をそらさずにいたら、一護の父親の方も真面目に応えようとしてかそれまでゆるゆるだった表情を引き締めた。




「…ああ。そりゃもちろんだ。3人とも俺の大事な子供だ。……そん中でも遊子と夏梨は別格だけどなッ!!」


「そうか。……なら妻は?アンタは妻を愛してたか?…死ぬまで…、死んだ今でも愛してるか?」



「…ジャズ…?」




ぽつりと聞こえた、戸惑うような一護の声。




…馬鹿な質問だってのはオレ自身が一番よくわかってる。


目の前にいるのは"あの男"なんかじゃない。一護の父親だ。



こんな質問なんかに、何の意味も無いって事は。





……けど、それでも一護の父親は戸惑い一つ見せず、逆に二ッと歯を見せて笑って―――


「ああ、もちろんだ!」とオレのこのわけのわかんねー質問にもきっちりと応えて来た。




「母さんを愛して無ェ時なんて今まで一瞬だってなかったし、これからもずっとだ。誰に何と言われようと、俺は一生、真咲の事を愛してく。

……だから安心しろ。何を試したいのかは知らねーがな」



そう言って一護の親父は、何を察したつもりか知らねーが、そのデカくて分厚い手でオレの頭をがしがしと撫でてきた。




「…さ!とにかくそろそろメシにしようぜ。お前も座れ。母さんのカレーも美味かったが、うちの遊子のカレーも世界一美味いぞ!しっかり食ってけ!」


…と、続いてオレの両肩をグイグイと押さえつけて、一護の親父はテーブルに新たに用意された席にオレを押し込もうとしてくる。

もう逃げるのも億劫になってしぶしぶ席に着いたら、今度は栗毛の妹がにっこり笑って皿に盛ったカレーをオレの前に差し出して来た。



「んー、じゃあ…、はい。ジャズさんの分」


「……ああ、サンキュ」


「遊子ー!父さんおかわり!」

「ヒゲ早い!まだいただきますもしてないじゃん!」

「予約だぞ!?なんたって今日は1人多いからな!」

「…本人の前で言う事かよ、みっともねぇ。…悪ィな、ジャズ」

「な!?父さんだってそういう意味で言ったんじゃないからな!?父さんはただ遊子のカレーが好きすぎてつい」

「もー、たくさんあるから大丈夫だよ〜。じゃあ、いただきますしよっか」



栗毛の妹のその音頭で、家族4人が各々「いただきまーす」と大きく声を上げた。


冷めた感じの一護はともかく、父親と妹2人の声のデカさにあっけにとられて出遅れてたら、横から一護に「どうしたジャズ?お前も食えよ、うめーぞ?遊子のカレー」と食いながらに言われた。



「あ…、ジャズさんもしかしてカレー苦手だった?そんなに辛くしてないんだけど…」

「落ち込むんじゃないぞ、遊子!遊子の作ったカレーなら、父さん辛かろうが甘かろうがコゲコゲの失敗作でも全部美味しく完食してやるからな!?なんたって遊子のカレーは世界一の!!」

「ややこしくなるからちょっとヒゲは黙ってなよ」

「!!! …母さん!!夏梨が最近父さんに冷たい!!思春期という奴だろうか!?」

「ヒゲうるさい!!」



「まあ…苦手なら無理しなくていいけど、出来るなら少しでも食っといたほうが良いと思うぞ?」



賑やかな会話を背後に、一護が「ほら」とオレの前に置いてあったスプーンをわざわざ手に取り、柄をオレに向かって差し出して来る。




「ああ…、悪い。別にカレーが苦手とか、そういう事じゃねーんだ。……お前の家族、良いなと思って」

「はあ!?……そーかあ?お前、さっきからなんか変だぞ?」


「変じゃねーよ。オレには、家族…なんて……もう誰一人……」





言いかけて、ぞわりとした寒気と冷や汗を感じてオレは思わず首元の銀十字に手をやった。




――――ダメだ。意識するな。


アイツの存在が、ぬくもりがここにない事…



意識したら最後、オレはきっと駄目になる。



だからその先は考えないようにした。





この"ゲーム"をクリアすればそれでアイツにはまた会える。それで済む話だ。



例え、今は触れることさえ叶わなくても―――


例え誰一人いない世界でだって、オレの傍にはまだ…アイツのくれた"これ"が在るから――――











「…だから、父親も妹も居るお前は十分幸せな奴なんだって…、お前はちゃんと知っとけ。…一護」



言って銀の十字架から手を離し、代わりに一護の手からスプーンを受け取って。


さっきの4人の挨拶に倣ってオレもメシを前に手を合わせて「いただきます」と呟いた。

何故か急に静かになった食卓で、家族4人からの視線をひしひしと感じながらオレはオレのために用意されたカレーに手を付ける。





「……あ、美味いな。これ」


そう言ってオレが笑ったら、栗毛の方の一護の妹も嬉しそうに笑ってくれた。








つづく


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すもも

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ももももも。