silver fang 試験編◆07:マラソン第二幕




「ぐぎゃう!!」

「?」


キルア様の他3人と軽い挨拶を終えたところで品の無い悲鳴が響く。

見れば先程何かをわめいていた男の顔面に深々とトランプのカードが刺さっていた。

悲鳴は男の断末魔だったようだ。


「くっくっく…、なるほどなるほど」

パラパラとトランプを弄びながら、派手な格好をした男が言う。


「これで決定。そっちが本物、だね◇」


と、試験官を指差した。








「……なんでしょうね、あの変態は」

視界に入ったその男の姿を見て、一番に出た感想がそれだった。


「あははっ!変態って間違っちゃいねーけど…。お前、結構言うなぁ」

「そうでしょうか?」

「…はは…;」


オレの呟きが聴こえたのか、キルア様が愉快そうに笑う。

横の子供は(―――名前はゴンといったか)控えめに苦笑いで濁していた。

…なぜだ。あれは誰が見ても第一印象で「変」だと思うが?





「…彼は受験番号44番、ヒソカ」


クラピカと名乗った金髪の少年が、奴を見据えながら誰に言うでもなくそう答える。



「去年の試験で受験生20人を再起不能にし、試験官を半殺しにして失格したのだそうだ。

どうやらどちらが本物の試験官かで揉めていたようだな」


「ほう?見た目も派手だがやる事にも自制がないな」

「お前がそれを言うのかよアゲハ…」



独り言を言っていたら、呆れたような表情のキルア様から痛いツッコミを貰ってしまった。

…く。聞かれてしまっていたらしい。




「キルア様。私は決してそのような」

「ゴン、こいつ怒らせたら本当ヤバイんだぜ?メイド殴るし物壊すしマジでバーサーカーだから。気ィつけろ?」

「あはは…;それはなんとなく知ってる…;」

「聞いてください!!」


オレの言い訳は軽く無視され、キルア様はそのままゴン少年と楽しそうにやり取りをなされる。


…というか備品は壊した事あってもメイド殴った事はありません。

―――そもそも何故それを知っておられるのですか。(いや、バレバレだろ… byキルア)




そんな感じで多少の揉め事はあったが、「それでは参りましょうか」との試験官の声にてマラソンは再開となった。

















「…霧。」


ぬかるんだ湿原を走り始めて、10分もしないうちにあたりに霧が立ち込めてきた。

霧はどんどん濃くなって、あっというまに周りの受験者達の姿もかすみがかってしまった。


この分ではすぐに一寸先も見えなくなってしまうだろうな。

まぁオレには円もあるし、このまま霧が濃くなったとしても試験官を追うぐらい簡単なのだが…。



しかしこの背後の殺気はどうにかならないものか。





「ゴン」

オレの横を走るキルア様が、その隣のゴン少年に声をかける。

つられてオレもキルア様を見た。



「ゴン、もっと前へ行こう」

「あ、うん。霧も濃くなってきたし試験官を見失うとマズイもんね」

「違う、そんなことよりも早くヒソカから離れたほうがいい」

「え?なんで?」

「あいつ、殺しをしたくてウズウズしてるから。霧に乗じてかなり殺る気だぜ」


と、キルア様は少し後ろを走っている先程のヒソカという男に視線を移す。

忌々しく放たれる殺気はもちろん、すべて彼のものだ。



「キルア様、ご命令さえいただければ私が排除行動へ移りますが」

「排除!?ちょ、アゲハさん!?;」



オレのセリフを聞いたゴン少年がえらい驚いていた。


何かヘンか?旦那様やゼノ様を相手にしろというわけではなし。

奴ぐらいならまだ何とかなると思うが…。



「そーなの!?」

「はい。倒せないまでも何とかするくらいなら、今の状況でも問題なく可能です」

「いや排除はまだ必要ないよ。こっち来たわけじゃないし、それで試験官を見失ったら本末転倒だし。こっちにまで攻撃してきたらね」

「承知いたしました」




「ふえ〜;なんかすごい会話だね、キルア」

「そうか?ゴンもさ、力が無いなら無いでああいう奴のニオイ、早く見分けられるようにならないと命がいくつあっても足りないぜ?

敵わない相手とは極力戦闘を避ける。常識だろ?」


「うーん、ニオイ…。ニオイかぁ…」


キルア様の一言を聞いてから、くんくん、とゴン少年が鼻をヒクつかせはじめた。

…いやいや。


「ゴン様、そういうニオイではありませんよ」

「ふーん…?でもつまりこのまま走ってたらヒソカが危ないってことだよね」

「まあそうだな」

「わかった」


キルア様の忠告を素直に聞いたかと思ったら、ゴン少年はすかさず後ろへ振り返った。




「レオリオ――――!!クラピカ――――!!キルアが前に来た方がいいってさ――――!!!」



何かと思ったら大声で、今は遠く離れた場所を走っている先程の2人に呼びかけていた。



「はやく前においでよ―――――!!」

「どアホー!いけるならとっくにいっとるわい!!」

「そこをどうにかがんばってさ――――!」

「無理だっちゅーの!!」



「緊張感のないやつらだな、もー」

「本当ですね」



あんな大声で言ってしまっては、こっそりとした忠告が意味をなさないと思うんだが。




「どうしようキルア、無理だって」

「そりゃ無理だろ。…ホントしょーがねー奴だな、ゴンは」

「へへ…;」


苦笑いしながらポリポリと頭を掻くゴン少年。天然なのか?

呆れた表情でゴン少年を見ていたキルア様は、次いでオレの方に視線を持ってきた。


…なんだろうか?



「アゲハ」

「はい、なんでしょうかキルア様」

「お前、オレの言う事もちゃんと聞くんだよな?」

「もちろんでございます」


オレがそう言うとキルア様は満足そうに口元を上げられた。



「そ。じゃあ…ついてってやってよ、あいつらに」


親指で後ろを指すキルア様。あいつら…、とはやはり先程のふたりの事だろう。



「え…、でもキルア…」

「いーんだよ、ゴン。コイツ、さっきも言ったとおり簡単にはやられないし。それにもしあいつらと一緒にはぐれたとしても、オレ的には家の監視が無くなって大助かり。な?アゲハ〜?」

「…わかりましたキルア様。必ず戻るようにいたします」



―――あまり信用されていない(もともとオレはイルミ様の側付きだし、"嫌われている"といった方が正しいか?)のは承知の上だったが、あえて言葉を逆説的にとらえて了承の言葉を返す。

キルア様は面白くなさそうに目を細めていた。


しかし、それも見なかったふりをしてオレはくるりと踵を返した。

そして後方の、「彼ら」のオーラ目指して走り出す。



「あっ、アゲハさん!?」


「ゴン!お前まで行っちゃったら意味ないだろ?」

「でもさ…」

「いいからいくぞ。この霧、はぐれたらアウトだぜ」














「ヒーヒーフー、ヒーヒーフー、」


荒い息をついて湿地を駆けているレオリオ。

隣にはクラピカの姿があった。



「息が上がってるぞレオリオ。大丈夫か?」

「ヒーハー、オレはまだまだいけるぜ!それよりも列を見失うなよクラピカ」

「わかっている。…ん?」


『うわ、ちょ、何だよ!?』

『あぶね!おいコラ!?』


濃い霧の中、前方から混乱する声が聞こえた。

一体なんだ?と前方を走る受験者達の影を見ていると……




「っと、うわ!?」

「ぎゃっ!?アゲハ!?」


霧の中から、いきなり見知った顔がヌッと現れて驚いた。




「アゲハさん!?」

「なな何しに来やがった!?」


クラピカとレオリオを見つけ、アゲハはザザァッと立ち止まる。

そして2人についていくようにまた前へと足を向け、走り出した。



「何しに来たとは挨拶だな、レオリオとかいったか。キルア様の命でお前達の護衛に来た」

「護衛だぁ!?」

「お前達がこんな後ろをチンタラ走っているからだ。まったく面倒くさい。亀か?」

「いちいち一言多いんだよお前は!!」


びしっとアゲハを指差して突っ込むレオリオ。

その横でクラピカは冷静な表情のまま前を向いて走っていた。



「落ち着けレオリオ、舌を噛むぞ?なによりうるさいし」


「うぉおう…、こいつら似たもの同士かよ」



クラピカとアゲハ。


女顔の男ってのは皆こう毒舌なもんなのかね?とレオリオは心の中で呟く。

しかし口に出ていたのか、クラピカとアゲハがそれをあざとく聞きつけて。




「「何か言ったか?」レオリオ」

「ナンデモゴザイマセン…」



なんとも見事な左右からのステレオに、レオリオは脱力するしかできなかった。








つづく




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フレンドリー?なにそれおいしいの?的な

すもも

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ももももも。