※中編に引き続いてえろいので注意
「…あ。」
しゃがんだ格好で部屋内部を観察していたシズクが、ふとそんな声を上げる。
ケイリュースの濃いピンク色の瞳と目が合ってしまったからだ。
じーっと見つめてくるケイリュースの瞳には、撮影中でちかちかと光るクロロの携帯が映っていたのだが、距離があるためその携帯の位置間近のシズクとも目が合った格好だ。
「なんだ?ケイ。こんな時に何見てんだ」
「…ボス居るデス。ダンチョー」
と、ケイリュースがピッとこちらを指さして来て、「ヤバッ」と最上段で見ていたシャルナークが漏らす。
それと同時にウボォーギンが「あ?」とばかりにケイリュースと目線の高さを合わせるように、その身体の上に折り重なって―――
身を乗り出したせいで尻に硬いモノが押し付けられて、その感触にケイリュースは「ンぅ、」と悩ましく顔をしかめていた。
「…って、お前らそこで何やってやがるっ!?」
「バレた。逃げるぞ」
「…バレたの、誰のせい?」
「団長のせいだね!!間違いなく!」
柱の影で隠れて覗いていたのがウボォーギンにまでばっちりとバレてしまい、シャルナークとクロロ、シズクの3人は脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「待ちやがれ!!」とすぐさまウボォーギンはケイリュースの身体を跳び越えてバスタブから飛び出し、部屋の入り口まで走った。
逃げる一瞬にその迫りくるウボォーギンの逞しい肉体の中心でそそり立つ、フレームアウトしておきたいブツまでが携帯カメラに映りこんでしまい、クロロはその端正な顔をしかめる。
「くっ…、オレの携帯が腐る…!」
「あはっははははははは!!」
「天罰ですね」
「うるさい」
シャルナークの爆笑の声と、クロロとシズクそれぞれのセリフを廊下に残し、3人の姿はすぐに見えなくなった。
全裸であったし、ケイリュースを置いて追いかけるのも気が引け、ウボォーギンは部屋の入り口までで3人を追うのを諦めた。
3人が消えた先に向かって大声で「後で覚えとけよお前ら!!」と吼えて。
「………ちっ。せっかくイイ気分だったのに興醒めだな。なぁ、ケイ?………ケイ?」
バリバリと頭を掻いて戻ってきたウボォーギン。ケイリュースを見れば、バスタブの中にペタリと座り込んでケイリュースは悲しそうにバスタブのふちに頬を乗せていた。
「うう…」
「…泣くなっての」
―――イイところで邪魔が入って、お前も残念か?と穏やかに笑って、ウボォーギンはケイリュースの頭を押し付けるように撫でた。
そして床に投げ捨ててあった自分の服とケイリュースの服をまとめて抱え上げ、「もう上がるぜ」とケイリュースに声をかける。
興が醒めてしまったのは確かだし、続きをやるにしてもさすがに場所は変えたかった。
「う、う…上がるデス?……シナイ、の…?やめるデスカ…?」
「何だよ、やっぱヤリてーか?けどどうせヤルなら別のとこで…、ん?」
そう言った瞬間に、バスタブのふちを支えにカクカクと脚を震わせ立ったケイリュースの口に、はむ、とウボォーギンの先端が収まってしまう。
しかし口いっぱいに頬張ったにもかかわらず半分も咥えることができず、困った顔で見上げてきた。
「おい、ケイ…」
呼びかけられるとケイリュースは眉根を寄せた状態でぎゅっと目を閉じ、拒絶の言葉を拒否するかのようだ。
ウボォーギンの丸太のような脚の1本に掴まり立ちした格好で、ケイリュースは「んむ…、むう…」と時折苦しそうに、それでももにゅもにゅと腔内で舌を動かしていた。
「(…ま、別にいいか)」
場所は変えておきたかったが咥えちまったモンを変に止める理由はねーし…、とウボォーギンはそのままケイリュースの好きにさせる。
下手ではなかったし、それよりもケイリュースの口に自分のナニが収まっているその様を見下ろしていると、性的な気持ち良さとは別に何とも言えない征服感で満たされて興奮する。
その上で、ひたひたと筋に当たるケイリュースの暖かな舌の感触とその色っぽい苦悶の表情がなおウボォーギンを掻き立てた。
全身の血がズクズクと下半身に集まるのがわかるほどだ。
一度は萎えかけ頭を下げていたのに、どんどん大きく、硬くなっていくそれ。
脇に抱えていた2人分の服をばさりと床に放り、目に涙を浮かべてコフコフとえずくケイリュースの頭を「無理すんなよ」と同じ手で撫でた。
するとケイリュースはぷあ、とウボォーギンのモノから口を離した。
ケイリュースの唾液か、それとも先走りの体液か。透明な液体が、ウボォーギンの先端から赤い舌の覗くケイリュースの口にまでトロリといやらしく絡みつき垂れていく。
「ウボォーギン…、は、シナイ…?ワタクシ、最後…まで、したい…デス…」
言って、今度は横合いから幹に吸い付き、薄い唇と柔らかな舌で必死に舐めて奉仕するケイリュース。
「帰るの、シナイ思った…。っは…ワタクシ、棄てられるの…シタ、アナタ、に……。また、思ったデス…、ん」
「ん…?」
息を荒く吐くものの、その表情は悲しげで。ウボォーギンを見上げることなくケイリュースは奉仕の合間にため息のごとく呟く。
一体なんだよ。また別の男の話か?とウボォーギンが片眉をピクリと引き上げる。
「ワタクシを好き、言うアナタ…でも戻ってこない…。デモ、デモー、ウボォーギン、戻って、来たデス…、ウレシイ…。スレイ、スレイは…戻ってこなかったの…、ワタクシ、を…、棄てたデス…」
「…こんな時にも「スレイ」か?なんで今そのハナシすんだ?……ああ…、もしかしてさっきヤリ損ねたからか?」
状況が状況だっただけに、さっきのアレを『棄てた』って責められてもな、と頬を掻くウボォーギン。
しかし相変わらずケイリュースはそんなウボォーギンの言い分も気に留めず、熱心にウボォーギンのモノを舐り続けていた。
まるでその行為で以って、ウボォーギンを引き留め、繋ぎとめようとしているかのようだった。
「ワタクシ、わたくし…ソウ。好きなヒト、もう棄てるサレルのは…ワタクシ、もう嫌デス…。ずっと、一緒、いて…ウボォーギン…。スキ…。ワタクシ、アナタ好き…。一緒欲しいデス…。抱くのシテ…。犯すして…。棄てるのスル、サレルくらいなら…、殺す、が…イイ…。
ワタクシ…、ワタクシを……殺す、して…ウボォーギン…」
ぽつぽつとそう言って、ケイリュースは顔を上げる。
口まわりを唾液か先走りかで汚すものの、見上げる瞳からはぽろぽろと綺麗な涙が零れていた。
「そうか…」と呟いて、もういいぜとばかりに屹立したそれからケイリュースの頭を引きはがした。
拒絶されたと思ったのか、なお一層悲しそうに目を細め、ケイリュースは力無くバスタブに座り込もうとする。
そのケイリュースの細身を、ウボォーギンはその脇下に手を入れてグイッと抱き上げた。
「泣くんじゃねぇよ、ケイ。こんな良いモンオレなら簡単に棄てやしねぇし、…簡単に殺しもしねぇよ。抱くのはいくらでもしてやるけどな。…だから泣くんじゃねぇ」
「…う…?」
抱き上げたケイリュースの身体を両腕でしっかりと抱き止め、涙で濡れた目尻からまぶたの上までをべろりと舐め取った。
「うぅ」と嫌がって顔を逸らすケイリュースの額に続けてキスを落としながら、ウボォーギンの大きな手はケイリュースの下半身をまさぐり、臀部のカーブから細い脚を膝までなぞっていく。
脚を腕にかけて持ち上げ、次いで逆の脚も同じように腕にかけた。そのまま両の手のひらはケイリュースの小さな尻を抱え上げて。
「ん…、う…」
舐められた顔を手で拭っている間になんだかよくわからない格好にされてしまったせいか、ケイリュースが少し困ったような顔を見せる。
うぼぉーぎんの胸板があっておなかがあって、わたくしの脚ここにあって、うぼーぎんの腕があってここを通って、……どこいったです?
……と周囲を見回した後、やっぱり理解できなかったのかケイリュースは自分の身体を見下ろしたまま固まってしまった。
油の切れたブリキ人形のように突然ギシッと動かなくなったケイリュースのピンク頭が何故だか可笑しく感じられ、ウボォーギンはフンと鼻を鳴らして笑った。
そして気つけの代わりに、抱きかかえたケイリュースのその尻の間を硬くそそり立った自身で押し上げる。
後ろの口に濡れた先端が押し当てられると、ケイリュースはびくりと身体を揺らし、驚いたように目を開いてウボォーギンを見上げてきた。
「ア……、あ…っ?…あ、う…。うぼぉー、ぎん…?」
「…なんだ?欲しいんだろ?」
眉を下げ、泣きそうなほどに目を潤ませてフルフルと身震いするケイリュースにそう問いかける。
それを聞いたケイリュースは途端にくしゃりと目を閉じて、愛おしそうにウボォーギンの胸元に額を寄せてきた。
脚をウボォーギンの腕に持ち上げられた格好で尻の位置を下げられていたために体勢的にはかなり苦しい。
ウボォーギンの胸と距離を開ければ少しは楽だが、しかしそれでもケイリュースはウボォーギンの太い胴に手を回し背中を丸めて、頭だけでも、と盛り上がった胸筋になんとかそれを擦りつけるようにしてその身体に縋ってくる。
「……おい。なんか言え、ケイ」
愛しい心が伝わってくるようで若干こそばゆいが、気分は悪くない。
楽しそうに笑みを浮かべたまま、少し意地の悪い口調でウボォーギンがそのケイリュースの頭に向かってそう言う。
再び顔を上げたケイリュースは、その瞳に涙を滲ませつつも可愛らしく微笑んで。
「…ウン、―――好きっ!…一緒、一緒シテ?ウボォーギン!ワタクシ、アナタ好き…。アナタ、ウボォーギン…、いっぱい欲しいです!」
そう言って、花やらハートやらを目に見えるくらいに色濃く周囲に飛ばしながら、「シテ!してっ!」と身体を縦に揺すり催促をしてくる。
『…お前やっぱ馬鹿だぜ』とそんなケイリュースを見て失笑を漏らしたウボォーギン。
とはいえ自分は最初からその気だし、ケイリュースも笑ってくれるならむしろせいせいした気持ちでヤレるってなもんだと、小ぶりな尻を抱く両手に力を込めた。
「おーし。じゃあくれてやるぜ」
「ぁ……、アッ!?あぁっ!…んッ、ァあああッ!!」
言ってウボォーギンはケイリュースの中心へ硬く反っていたモノを押し付けた。
両手で口を拡げつつ、ゆっくりと、しかし止まることはせずに一気にケイリュースの中へと押し入る。
「アアッ…熱っひゅ…!ん…っ、う、うぼ…!ぁう、ううっ」
風呂で暖まっていたせいかそれとも別の理由か。
滾るほどに熱くなっていたウボォーギンのその大きなモノの圧倒的な存在感に、苦しさと快感とで、ぶるぶるとケイリュースの身体が打ち震えた。
立ったままの格好ながら腰を少し落としてぐりぐりと奥を抉るように突き上げると、ケイリュースは続けざまに短く喘ぎ声をあげる。
目に涙をいっぱいに溜めながらもとても気持ちよさそうなその善がり顔に、ウボォーギンは気分よく笑って。
もっと見せろとばかりに自身を奥まで埋め込んだままで何度も激しく腰を揺さぶった。
「ああーっ、やぁーあぁっ、ヤメテ…、ヤメテ。ワタクシ、ッア、あ…、ソコしんじゃう、デス…、うぼーぎん…っ!やめて…!」
「へ…、やぁーだね」
ぺろりと舌を出して、意地悪くケイリュースを見下ろす。ふにゃぁあ、とおかしな悲鳴をだらしない表情で上げるケイリュースをフン、と再び鼻で笑い。
揺する間に自身の先走りのせいか動きやすくなってきたので、ウボォーギンはケイリュースの尻を少し持ち上げて、ずるぅっとそれを引き抜いた。
強い快感に再びケイリュースの背が丸まる。口から垂れた涎が、ぱたぱたとケイリュースの腹やその中心で勃っていたモノにまで零れていった。
「っは…、離したくねぇってよ。スゲェ吸い付きだぜ?ケイ…」
半分ほど引き抜いた状態でそう言うとケイリュースはウボォーギンの胸に額を寄せたままフルフルと力無く頭を横に振る。
「んっ、あっ、は、はずかし…っ、わたくし…、ンッ」
「…ッハハ、犯せとかヤッてくれとか簡単に言うくせに、なんだそりゃ?お前の中の『恥ずかしい』の基準がわかんねーよw
…顔上げな、ケイ。こっち見て啼けよ、どうせなら。その恥ずかしいっつー顔、オレに見せてみろ」
「…はっ、ふ、…ぁ…。 あぁぅ…っ!!」
ケイリュースがその朦朧と酔ったふうな顔を上げた瞬間、再びウボォーギンはケイリュースの中へ硬くそそるモノをゆっくりと押し込んでいった。
ぽかんと開けた口から赤い舌を見せて、だらしなく涎を垂らしながら喘ぐケイリュース。
過ぎた快楽にとろんと潤むピンク色の瞳が妙に愛おしく感じられて、それと見つめ合ったままで身体を揺さぶり、何度も抜き挿しを繰り返した。
「(………やべ、すげぇイイな。気持ち良いなんてもんじゃねぇ…)」
身体を上下に揺するたびに、「ゥン…、ひゅん、んっ、ア…」と小鳥のように啼いて身を震わす。
きゅうきゅうと締まって脈動するナカもそうなのだが、それよりも恍惚とした表情で快楽に浸るケイリュースのその顔や姿になによりの性的興奮を覚える。
―――今まで抱く女といえば、自分のこの見た目と、ナニのデカさに悲鳴を上げる女ばかりで。
とはいえ自分がそこまでモテる容姿でもないのは知ってるし、そもそも同意の上で女を抱いたことは無いので、泣きわめかれるのが常なのだが。
ケイリュースは男だし苦しさで言えば女よりもっと苦しいだろうに、それでもこんなに悦んで善がってくれるとなるとそれだけでウボォーギンの快感も増した。
嫌がる女を無理矢理ってのもそれなりに愉しいが、…まあ愉しいだけだ。
性欲処理以上の何物でもないので、セックスというものに対してそれほど積極的な興味はなかった。
……でもコイツは違うな。何度抱いてもイイ。
自分を『好き』と言ってはばからない相手との行為が―――、自分の名を呼んで…善がって、縋ってくれるその姿を見ながらヤるのがこんな気持ちのイイモンだとは。
こんな格好だから抱きしめてやれないのが残念だな、とウボォーギンはケイリュースを見下ろしながら目を細めた。
「…あ、ア、うぼぉーぎん……んっ、あ」
「……気持ちイイかケイ?…オレもイキそうだ」
「ぅん…、うんっ、イッて、シテ…、出して…っ!」
「…お前の羞恥心は結局どこ行ったんだw やっぱり馬鹿だな、お前…っ、ぐ、」
「馬鹿ひゃにゃ…イッ!?ん、アアッ!あっ、…あっつぃ…っ!」
何か叫んでいたケイリュースの身体に深く腰を打ち付けて、ウボォーギンはそこで動きを止める。
膨大な熱を注ぎ込まれる感覚にケイリュースの中が一気に収縮して、なおさらウボォーギンから精を搾り取るかのようだ。
「…ひぃ、んん…ぁ、あっ…うぼーぎん、」
「んー…?」
息を切らしてくたりとウボォーギンの胸板に頭を擦りつけるケイリュース。
その奥をゆるゆると掻きまわして余韻を愉しんでいたウボォーギンだったが、自分の腹につんつんと当たるケイリュースの、その存在にふと気づく。
さすがに後ろを犯されるだけでは達するのに足りなかったのか、ケイリュースのモノはタラタラと蜜を零すものの硬く勃起したままで。
「…なんだ、お前イッてねーんじゃねぇかw」
「う、うぅ…」
「しょうがねぇなァ」
と言いながらも満足気に笑ったウボォーギン。
ケイリュースの身体を濡れた床に転がし、「じゃあ一緒にイクか?」と空いた手でいやらしく、平らな胸へ愛撫を加えての行為に興じるのだった。
結局その後ケイリュースがダウンするまでたっぷり愛して。
朦朧としたケイリュースの汗と泥と精液で汚れた身体を残り湯で再び、今度は割合優しく落としてやってから共に風呂を上がった。
そこまではウボォーギンも上機嫌だったのだが、『この長っ風呂をどうあいつらに説明するかな…』とふとクロロ達の顔を思い出した瞬間に、自分がされたことまでも思い出して一気にムカついた。
「……あ、ウボォー」
くったりとして眠るケイリュースを胸に抱きかかえて広間に戻ってきたウボォーギンを最初に見つけたのはシズクだった。
「お、おかえりー…、ウボォー…;」
風呂上がりに毛皮を背負うのは鬱陶しいからか、黒のタンクトップ姿のウボォーギン。
口をへの字に結んでのしのしと自分の方へと歩いてくるウボォーギンに、シズクの近くに座り込んでいたシャルナークが恐々と、様子を伺うような声色でそう声をかける。
絶対、覗いてた事なにか言われるなー;と覚悟していたのだが、案外ウボォーギンはシャルナークには何も言わず。
「ホレ、」と横抱きに抱いていたケイリュースをそのままの格好で差し出してきたので、シャルナークは「あ、」と急いで立ち上がった。
手渡されたケイリュースは、身体は綺麗になっていたがやっぱりワイシャツのボタンを掛け違えているし、何より髪の拭き方が粗っぽ過ぎて、絡まってモサモサになっていた。
「何このテキトー加減!?ウボォー!?」
と顔を上げたが、すでにウボォーギンの姿はシャルナークの前に無く。
見回せば、少し離れた場所で椅子に座って本を読んでいたクロロの元へ、再びのしのしと今度は若干の怒り肩で歩いていく大きな背中が見えた。
『うわぁ〜〜〜…;』と顔を引きつらせるシャルナークとは対照的に、シズクは全く気にせずに平静な顔で「あ、ケイ寝てるんだ」とケイリュースの寝顔を覗いていた。
「……おいクロロ。てめぇ携帯出せコラ」
「………。 …なんですか、ウボォーさん?なんか怒ってます?」
明らかに怒気を孕んだウボォーギンの目線と声色。
さらには珍しく「団長」呼びではなく本名での予想外の呼びかけに、一瞬遠い昔の関係に戻ったようなそんな錯覚に見舞われたクロロ。
「幻影旅団の団長」としてではなく、つい素の「クロロ」としての顔が覗いてしまった。
うっかり口を突いて出てしまったセリフに、額を押さえて「あぁ…くそっ…」と小さく漏らしてから、再び「クロロ」は「団長」の顔へと戻った。
「『怒ってます?』じゃねーよ!!携帯光ってんの見たぞ!!何か撮ってたろ!?」
「…ああ、そのことか。最初はどうかと思ったんだが、見てみたらなかなか面白い余興だったのでな」
「何が余興だ!!さっさと携帯貸せ!!」
「…ちっ…」
これ以上渋ったら実力行使で奪い取られそうだ。
ガチギレと言っていいようなウボォーギンのその雰囲気に、クロロは仕方なく本を閉じ、懐から携帯を取り出した。
そして目の前に差し出されていたウボォーギンの手にそれを乗せる。
ウボォーギンは無言でカチカチとそれを操作し、写真リストから動画リストまで内容を確認する。
「…クロロお前、何だコレ…。いくつ撮ってんだ」
見つかって逃げ出す前に撮っていた動画もウボォーギンの怒りを引き出すに十分な物だったが、リストのその後に続く―――逃げた後再び戻ってきたのか、その後の行為までもがしっかりといくつかの動画として残されており、ウボォーギンは怒る通り越して呆れ返る。
「…どうだ。結構見れるだろ?」
「…………。」
素っ頓狂なクロロのセリフに対しウボォーギンはこめかみに青筋を浮かべながらも静かに、しかし腹の奥ではぐつぐつと怒りを煮えたぎらせて、関連の動画をすべて削除する。
そして「おらよ、」とクロロの手元に携帯を放って、それを返した。
「……おい、せっかく撮ったのに何故消すんだ」
「消すだろ!!馬鹿か!!ああいうのは他人に見せるモンじゃねぇんだよ、ふざけんな!」
「エロビとか普通に見てそうなお前が言うか…。意外とナイーブなんだな、ウボォー…」
返された携帯画面の、いくつかの撮影データが名前を消したリスト欄を眺めクロロは呟く。
その言葉を耳にして、さすがにウボォーギンも堪忍袋の緒が切れた。
「…クロロ。お前、団長で良かったな。―――ぶん殴られねーだけマシだと思えよ!!」
「待て、ウボォー。お前、足の筋力は拳の何倍か知っているか!」
「知るか!!」
叫ぶと同時にウボォーギンはクロロが座っていた椅子をクロロごと蹴り飛ばし破壊した。
しかし肝心のクロロ本人は難なく横に飛びのけ無傷だったので、ウボォーギンはすぐさまそれを追いかけて、足元をすくうような左右のロー、前蹴りからの踏み付けを経て豪快な横蹴りを連続で繰り出す。
が、クロロはバックステップとともにそのすべてを見事にかわし、最後に大きく後ろに飛びのいて間合いを開けた。
その余裕さにますます怒りを深めたウボォーギンは、それに追いすがるように強く足を踏み込んで飛び込んでくる。
拳を構え、それに集中させたオーラを見る限り、自身の必殺技である超破壊拳(ビックバンインパクト)で殴る体勢だ。
「…ックロロ!!テメェ、1発殴らせろ!!」
「団員同士でマジ切れは禁止だと言ってあるだろ、ウボォー。掟は守れ」
「それとこれとは話が別だろ!!煙に巻くなボケッ!!」
クロロとウボォーギンの追いかけっこの脇で、シャルナークは自身の膝の上に頭を乗せてすーすーと眠るケイリュースの髪を手櫛で整えていた。
「あーあ…。もー、馬鹿はウボォーだよ。なんでシャンプー渡したのにケイの髪こんなにしちゃうんだよ〜」
乱暴に洗われた後、これまた乱暴に拭かれたであろうケイリュースの髪。
あちこち絡まって、モサーっといつもの倍に膨らんだ淡いピンク色のそれを、シャルナークはケイリュースを起こさないように静かに梳きほぐしながら、泣き言を吐く。
「ねえシャル。これもう1回洗った方が早くない?」
と…横からシズクが、ケイリュースの髪を持ち上げながらシャルナークに訊いてくる。
「そうかもね。……まったく、トリートメントまで期待してなかったからせめてシャンプーだけでもって、せっかく用意したのにさ…!
もうウボォーはケイ風呂に入れるの禁止ね!!今後は何があってもオレが入れるから!!」
「ぁあ゛!?なんだって!?……って、おいコラ待て、クロロ!!」
「いや、待たん」
突如放たれたシャルナークの一言に気を取られたその一瞬に、クロロは窓から、建物の外へと逃げてしまう。
それを見てウボォーギンも、「待ちやがれ!!」とやかましく叫んで建物を出て行った。
やっとのことで静寂を取り戻した建物内で、シャルナークはケイリュースのモサモサの髪を見やり、がっくり肩を落として長いため息をつくのだった。
つづく
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番外編:「7日目」コイビト/
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番外編は6日目を飛ばして7日目のお話。またウボォーといちゃついてます
本編4話はこの10日ほど後のお話です。どっちから読んでもたぶん大丈夫です
すもも