「……『リーパー』?まだそんな奴捜してたか?クロロ」
食事の途中の話題に、今日あったことをその場の仲間たちと報告し合う。
自身の能力の強化のために悪所に出向いて『リーパー』と呼ばれた男と出会ったことをクロロがさらりと話すと、先に食事を終えて拾った雑誌を読んでいたフェイタンにそう問われた。
「つーかいきなり悪所って度胸あんな、お前」
…とは、フェイタンと同じく以前に悪所近くに住んでいたフィンクスの言。
「まあいずれ外に行くためのルート確保も兼ねての下見で」
「そんな事言って、早いとこ強い能力が欲しかっただけでしょ、クロロ」
「………。」
シャルナークに横から突っ込まれ、目を逸らした。
「…で?なんだ『リーパー』ってのは?」
べこべこに凹んだ銅のコップで食後に水を煽りながらフランクリンがフェイタンに尋ねる。
フェイタンは雑誌に落とした視線を上げないままで、「…ああ」とそれに応えた。
「悪所近くの地域では有名だたね。ワタシ昔棲んでいたときよく噂聞いたよ。凄い切れ味の鎌か鉈か、大型の刃物使う暴れ者ね」
「…いや、実物の刃物を使うわけじゃなくて、おそらく念能力だとは思うんだ。変化か強化か。オレが遭ったときは鉄の棒を手にしていた」
とクロロが横から補足すると、「へー。能力見たのかよクロロ」とフィンクスが反応した。
「ああ。よっぽど早くに能力に目覚めたか…。今15…って言ってたな。背格好はオレよりずっとデカかったけど」
「15?そんなはずないね。ワタシの聞いた話だと、かなり昔からいたらしいよ。少なくとも20代半ばか30手前のはずね。別人と違うか?」
「オレも噂ではそう聞いてたんだ。だから変だなと思って。じゃあ誰かの字名を継いだのかな。親か兄弟」
「そんなの、流星街(ここ)ではいる奴の方が珍しいよ」
くだらない、とばかりに「ふう」とため息をついて、フェイタンは雑誌を手に立ち上がりどこかへ行ってしまった。
興味のない話よりも、1人で静かに雑誌を読みたいのだろう。
「あとはたぶんだけど、『三羽カラス』にも遭った。今は二羽の、冴えないハゲタカだったけどね」
「おお。『リーパー』も『三羽カラス』も知らねーけど、『ハゲタカ』なら知ってるぜ。まだ生きてたんだな、あのジジィ共」
フィンクスがそう言うので、クロロは食事の手を止め、「へえ。どんな話?」と続きを促した。
『三羽カラス』も名前だけが独り歩きしていて、実態の知れない能力者だ。
曰く、どんな病人や怪我人もたちどころに回復させる慈悲深い闇医者の名だとか、逆に病気や怪我で動けなくなった者たちの腹を裂いて食べる狂人だとか。
この近場に棲む古臭い爺さんたち数人から、真逆の噂を何度か聞いた。
もしもあの小うるさいハゲタカ共が『"三羽"カラス』なのだとしたら、本当はあの2人の他にもう1人いたんじゃないだろうか?
それが、真逆の噂の真実につながっている気がする。
そしてその最後の1人が、もしもただの医者ではなく"治癒"の能力者かもしれないなら―――その場合はぜひとも『本』の1ページに欲しい。
あのハゲタカ共レベルの爺さんが相手なら、『リーパー』をどうにかするよりも楽に能力を手に入れられそうだし。
そのためにもまずは少しでもいいから正確な情報が欲しいところだ。
何でも良いから教えてくれ、と少々前のめり気味にクロロはフィンクスに尋ねる。
「…いや、つってもオレが知ってんのは、病気や怪我で動けなくなった住人とか、力のねぇガキ共ばっかりを狙って攫って、なんか色々やってるらしいって事だけだぞ?
人攫いのハゲタカ共、っつって。周りのジジババから恐がらせの話をよく聞かされたぜ。んなもん誰がビビるかって感じだったけど。
…ま、その後で実際に病人の腹割いて中身持ってくトコも見ちまったこともあるけどな」
「そっか…」
と…目に見えて肩を落としたクロロの姿に、なぜか罪悪感を感じたフィンクスは「いやいや、まだあるぜ」と付け加える。
「悪所って流星街じゃ"外"に一番近い場所でもあるだろ?そこにいる臓器売買の闇ブローカーと繋がってるとかそういう話だけどよ。長老共がすげー疎ましがってて、近いうちに悪所ごとでっかい大掃除をするかもって、もっぱらの噂だ。
…つっても、議会のジジィ共も出来もしねー事ピーチクパーチク騒ぐの好きだから、また口だけかもしれねーけど。
もし本当なら、長老の能力もえげつねーのはえげつねーし、その『リーパー』だか『カラス』だかもやられちまうかもしれねーぞ?能力が欲しいってんならそれこそさっさと仕留めちまった方が良いと思うぜ」
そう言ってさっさと平皿の粥をスプーンで流し込むように平らげ、「…足りねっ」と吐き捨ててフィンクスもまた立ち上がる。
「もういっちょなんか探してくるわ。フランも行こうぜ?」とフランクリンに声をかけて、「いや、オレは十分だ」と断られていた。
そうしてフィンクスが逃げるように去って、場に残ったのはフランクリンの他、クロロとシャルナークだけだ。
「……で?どうすんのクロロ?」
また行くの?悪所(あそこ)、と暗にシャルナークに言われ、クロロは「…ああ、うん」と頷いた。
「『三羽カラス』の真相も知りたいし、『リーパー』も上手くすれば手懐けられると思う。長老たちの動向も気になるけど…、とはいえ昨日の今日で刺激するのもなんだし、まあ、また折を見て行ってくるよ。
出来ればそれまでに何か甘い物が手に入れば良いんだけど」
「あ、もしかクロロ、長老たちのとことか何か盗りに行くつもり?だったらオレ、缶詰が欲しいんだけど。一緒に盗って来てよ」
「ならオレは酒が欲しい。もしあればで良いからついでに頼むぜ」
「…好き勝手言うなぁ…」
「ま、良いじゃん良いじゃん。よろしくー」
と、無責任に笑顔で手を振るシャルナークを見て、クロロはシャルナークと同じ翠緑の瞳を持った男の顔を思い出した。
子供っぽい笑みで嬉しそうに飴玉を頬張った、『リーパー』と呼ばれた青年……のような少年。
……レヤードって言ったっけ。
「…甘い物、好きなのかな?」
流星街ではもちろん、甘味は誰にとっても特別な味だ。
物資の少ない悪所ならなおさら……いや、逆に"外"に近い悪所では手に入りやすかったりするのだろうか?
飴玉1個であんなに喜んだのだから前者だと思うが、…試してみる価値はあるか。とクロロは『次の手』を決め。
それから2週間後に、クロロは再び"あの場所"へと赴いた。
「レヤード」
あの男が「縄張り」と言っていた場所を、注意を払いながら徘徊して。乾いた泥山の向こうに気配らしきものを見つけて声をかけた。
向こうもこちらの気配を警戒していたらしく、急に名前なんて呼ばれたせいか最初は少し訝しげな表情で、泥山の影からそっと様子を見られた。
「あー…。誰かと思ったら、キミぃ…。えっとぉ…、クロロ!そーそ、クロロって言ってたよねぇキミ。アハハ、覚えてたぁあ〜!」
「うん。ありがとう、覚えててくれて」
「フヒヒ!そーだよぉ?オレがヒトの名前覚えてるとかぁ珍しーんだから、感謝して欲しーなぁあ〜?
…でぇ?クロロさぁー?あんなにオレ、忠告したのに、なんでまたココ来たの〜?
来た時はなんかちょーだいって言ったけどぉ、ちゃんとォ、なんか持って来てくれたぁ〜〜?じゃないと〜、お前でもやっぱり殺しちゃうかもだよぉ〜〜?」
先日と同じように引きずっていた鉄棒を、誇示するようにブンと振って肩に掛け、こちらの顔色を伺うかのようにニヤニヤと前屈みに寄って来る。
相変わらず獣みたいな奴だな、と思いながらクロロはポケットを探り、前と同じ―――だが包装の違う飴玉を二つ、レヤードの目の前に出して見せた。
「また飴だけど。違う味が手に入ったから持ってきた」
「ほんとォ〜?オレ、アメ好きだよ〜?…くれたりするぅ??」
首をかしげて上目遣いに尋ねてくるレヤードに、クロロは「もちろん」と笑顔でその飴玉二つのうち一つを渡した。
「レヤードと食べようと思って持ってきたからね」
「アハハ!なにそれぇ!キミ、ホント変わってるね〜。でも貰うぅー。ありがとね〜」
貰った飴玉を握りしめ、レヤードは近くの乾いた泥山にひょいと座った。そして「クロロも座ればぁ〜?」と隣のスペースをちょいちょいと指差す。
持っていた鉄棒は体の前へ―――脚の間に収めるように抱えつつ、器用に飴の袋を開けてそれを口に放り込むレヤード。
クロロもまたその隣に座って、同じように飴の袋を開け、口に入れた。
「アメぇ〜。おいしいねぇえ〜」
口の中で飴を転がして、機嫌良さそうに足をブラブラ揺らしながら、クロロに向かって笑みを見せる。
見た目からして粗暴かと思えば変に子供っぽいので、なんとなく調子が狂う。
同い歳頃には到底見えない、大人並みの体格の良さも相まってなおさらアンバランスな危うさを感じさせた。
「美味しいものは、誰かと食べるから美味しいんだって」
「ふへぇ〜〜、そうなんだぁ?クロロはぁ、ハクシキなんだねぇ―――。確かにィ、おいしーもの食べてる時ってぇ、テンション上がってすごくイイ感じするけどぉ〜〜…。
お前と同じもの、こーして一緒に食べてるってのはー、なんかぁ、それよりもっとイイ感じがするかも〜〜?…フヒッ!なんだろうねぇ、この気持ち〜〜?」
「…"幸せ"ってヤツかもしれないね」
「しあわせ…。幸せかぁ……。ふーん…」
「レヤードはそういう、一緒に美味しいものを食べるような仲間、いないのか?」
「ん〜〜?なかま…。ん―――。オレはずっと1人……だけど…」
「…親も?」
「親…ぁあ〜〜〜!…アッハハ!ねーねー、さっきからさぁ、それぇ…何の探りィ〜〜?……ねぇ。」
ヘラヘラした態度から一変、笑みを消し、クロロの襟をグッと引き寄せて切れたナイフのような鋭いまなざしで見据えてくる。
…まずったな、獣並みの嗅覚だ。
頭の出来はともかく、勘は鈍くないらしい。とクロロは質問の選択をミスしたことを悔やむ。
「もしかお前さぁ、『カミヤリ』に言われて来た?オレの事落として来いとか言われた?
クロロはぁ、そーゆー奴じゃないって…思ったんだけどぉ…。オレの勘、外れたかなぁ??けっこー自信あったんだけどぉー?」
薄汚れた獣の、特徴的なまでに美しい翠緑瞳。クロロもまた自らの黒い瞳で、表情一つ変えずにレヤードのその瞳を見返す。
怖気づきもしないその黒の瞳をどう思ったのか、レヤードはクロロの襟から手を離し、再び「ふひ、」と尖った犬歯を見せて笑った。
「お前の言う通り、オレは独りだけどぉ……『カミヤリ』みたいにさぁ、無駄に群れてる奴らより、オレ1人の方がずっと強ぇからさぁあ??
1人だからって嘗めてると、痛い目見るかもよォ〜〜?『カミヤリ』にそう言っといてよぉ〜〜。ゴミみてーな手下ばっかけしかけてないで、たまにはお前も1人で来いってぇー。…ヒャハハッ!!」
どうやら『カミヤリ』の手下だと思われたようだ。
そういえばここらで一番の勢力だったな、と以前に『ハゲタカ』が零していたのを思い出す。
『カミヤリ』も、もしや手下を使ってオレのような懐柔策でも取ったことがあるんだろうか?
「…変な質問で気を悪くさせてごめん。でもオレは『カミヤリ』の仲間なんかじゃないから」
「ふ〜〜〜ん?そぉ―――」
クロロの言い分ももう聞く気が無いのか、レヤードはクロロの方を見ることなく、ただ正面を向いてガリガリと口の中の飴を噛んでいた。
―――完全に失敗だ。少し性急に行き過ぎた、とクロロは自省のため息を小さくつく。
「クロロはぁ、アメくれたからねぇえ〜?今日は見逃してやるからぁ、もー行きなよォ?」
「……ごめん。今日はそうする。じゃあまたね、レヤード」
立ち上がり、最後にそう声をかけると、レヤードはクロロを見ずに「うん〜〜。バイバぁーイ」と手だけを振ってくれた。
その声の調子からは、『"また"なんて来なくていいよ、これっきりで』という副音声が聞き取れたが――――
1週間の間をおいて、クロロは再びレヤードの元を訪れた。
「…あぁ〜〜…また来たのクロロぉ?懲りないねぇえ〜〜〜?それとも『カミヤリ』にさぁ、怒られたぁ??」
鉄棒を抱え、乾いた泥山に腰掛けたレヤードに、高い位置からそう声を掛けられる。
「だからオレは『カミヤリ』の仲間じゃないって。ただ単にレヤードと友達になりたかったんだ。信じてもらえるまではまた来るよ」
「なにそれぇ…めんどくさぁあ…。そーいうの、もーいいからさぁ…」
「それでこないだのお詫び…ってわけじゃないけど、これ」
そう言ってクロロは、少しよれた横長の箱を取り出してレヤードに見せる。
12枚入りのクッキーの箱。
「アッハ!!何それすっご!よく手に入ったねぇ!?」
と不信感丸出しの態度から一転、パッと表情を明るくさせ、レヤードは泥山からクロロの前へと飛び降りてきた。
こういうところは扱いやすいんだけどなぁ、と思いながら、今度は地雷を踏み抜かないようにしないとなと言葉を選ぶ。
「あげる」
「オレに!?ホントに!?なんで!?……あ―――〜〜、もしかご機嫌取りぃ?」
「違うよ、…って言いたいけど、まあそんなところかな」
「アハハハ!素直〜。そーゆーのは嫌いじゃないよ―――?」
「そう?良かった。じゃあ、受け取ってくれる?」
警戒を抱かせないように自然な笑顔を装ってクッキーの箱を差し出す。
レヤードはそのクロロの笑顔に対して少し目を細めて首をかしげ、それから、どういう意味なのかニヤリと笑って遠慮せずにそれを受け取った。
「…まー、貰えるものは貰うよォ?こんなイイ物、ありがとねぇクロロ〜〜」
「うん。どういたしまして」
「でもォ…、クロロはなんでそんなにオレにこだわるの〜?こんなイイのまでフンパツしてさぁ。クロロぐらい要領良い奴ならぁ、もっと付き合いやすい奴集まりそうじゃん〜〜〜?なんでこんなトコまで来て、オレ〜〜?」
と、レヤードは周囲のゴミ山の成れの果てのような乾いたヘドロの山を指し、言う。
ニヤニヤと含むように笑うレヤードのその顔を見て、クロロは『ああこれは早速試されているな』と思った。
下手な嘘は逆効果か…、といくつかの真意は伏せつつ正直に話すことにした。
「なんて言うか…、レヤードみたいにオレぐらいの歳で念能力者っていう奴を見たのは初めてだったから、びっくりして。
こんな悪所で生き抜こうと思ったら強い仲間は必須だろ?それでレヤードの事もっと知りたくなって…。色々聞きたかったんだけど、この間はなんだかそれが噛み合わなかったみたいでごめん」
「ふーん…??オレが念能力者だから、クロロはオレと知り合いたいの?…ってかー、クロロってぇ中央のヒトだよね?なんでわざわざさぁ、中央の方の棲みやすいトコから出てこんなトコで生き抜こうとか思ったわけぇ?」
「いや…、ここで生きたい…って言うのは少し語弊があったな。……"外"に行きたいんだ。そのための仲間を探してる」
「―――"外"ぉ!?外ってぇ…、それってぇ、流星街の外ってことォ!?アハハ!やっぱクロロ、すっごいこと考えるねぇえ―――!」
―――『やっぱ』って?
「だからレヤードの力が欲しくて。オレ1人のままじゃ『カミヤリ』の縄張りは越えられないからね」
「フヒッ!褒められてんならぁ、悪くないねぇえ??でもォ、外出るだけなら、案外難しくなかったりするよォ?
たしかにぃ〜、クロロ1人じゃ『カミヤリ』は無理そだけどぉお??でもー、別に『カミヤリ』の縄張り突っ切らなくても〜、大回りで出れば、出れるっしょ〜〜?
中央のさぁ、ジジィ共が管理してる道とかもあるって聞いたことあるぅ―――!」
「そこを使うには長老たちの許可がいるし、そこを使ったら、"外"に出た後も行動が制限されるからね」
「…フヒヒ…。嘘は言ってないけどぉ…ホントのことも言ってない感じィ…。オレ、そーゆーのわかるよぉ??……当たってるぅ?」
「当たってる…って言ったら、どうなるの?」
「んん〜〜〜?…別に、どーもしないけど〜?クロロの好きにすればいいんじゃない〜〜?外とかァ…オレは別にキョーミないしィ―――」
「……レヤードはこんなところで一生を終えたとして、それで満足できるの?」
「アハハハッ!!なにそれぇ!?オレは別にぃ、良いよぉお??オレはここ以外の場所とか知らねーからぁ、羨ましくもないしィ…。ここ以外での生き方も知らねーしィ!
まいんち好きな事、我慢しないで好きなだけやってぇ…、あ、食べ物が手に入らないときとかは、あ゛―――も〜〜〜!!ってなる時あるけどねぇえ?
たとえ明日誰かにやられて死んでも別に…、死んだら死んだで、まーいいやぁ〜〜〜。今日はぁ、クッキーも手に入ったしね〜〜〜!!ヒャハッ!」
「そう…。そうか」
「納得したらぁ、クロロはもー帰るぅ??」
……なんだそれは。帰れって事か?とクロロはため息をつく。
想像していた以上に猜疑心が強いようだ。―――いや、そうでなければ"こんな場所"で1人、生き残れやしないか。
こうなったら懐柔策は諦めて、シャルナークの言う通り皆を集めて生け捕りにして"盗む"か。…などと、そう思って。
「…わかった、今日は」と言いかけたら「あ、ごめんごめーん。違ぁ〜〜〜う!」とレヤードの方からクロロを引き留めてきた。
「今のは、帰れって意味じゃなくってねぇ?」
「ふーん?……じゃあ何?」
「一緒にさぁ、食べよお〜?」
そう言ってクッキーの箱をクロロへと差し出し、優しそうに目を細めてレヤードは笑う。
……別に失敗はしていないのだろうか?よくわからない奴だ。
それからもクロロは、何度か時間をおいて懲りずにレヤードへと"エサ"を与えに来た。
押して駄目なら引いてみろとばかりに、話すのは他愛のない事ばかりを選んで、長居はせずに少し話して去る。
与えるものも飴やビスケット、缶詰。大したものではなかったけれど。
案外これが効いたようで、3か月ほど経った頃には、クロロが「帰るね」と言うと悪所の片隅から安全な場所に出られるまで、レヤードはクロロの後をついてくるようになった。
「……最近さ、クロロなんか楽しそうじゃない?」
と、ある日の朝食の後、シャルナークにそう言われた。
「そうか?」
「時々、何持ってどこ行ってるわけ?」
「みんなにはまだ内緒だぞ?…犬にエサをやってる」
「犬ってw」
「えー、なに?そんなのどこで飼ってるわけ?オレにも見せてよ?」としつこくついてくるシャルナークを「それはまだ秘密」と振り切って、その日もまた行くことにした。
「(少しずつ懐いてきてはいるけど、手懐けるにはもう一押し足りない感じか…。何が決め手か全然わからないんだよな…。時間もかかりすぎているし…)」
もしこれ以上が無理そうなら別にあいつにこだわらなくても、別のルートを回って他の能力者を当たってみるか。
と、とっておきの板チョコレート2枚を持って「これでダメだったら最後にしよう」と向かったその日の悪所―――
「(…血の匂い)」
レヤードの縄張りに近づくにつれ、明らかにいつもとは雰囲気が違うことに気付く。かすかに香る血の匂いと異様な殺気。
レヤードのものか、それとも別の誰かのものか。
警戒を強めつつ、それでもクロロは逃げ隠れもせずに歩き続けた。レヤードがいつもパターン的に徘徊している辺りを重点的に。
見慣れていたはずの乾いたヘドロの山々は、ところどころ無残に切り崩され、うっすらと砂煙を上げ。
ゴミのようなものに紛れ、点々と散らかる人の腕や指。血痕。そして、死体のような塊が視界に入る。
さらに少し行くと、あの『ハゲタカ』と呼ばれた老人2人が死体を持ち上げあくせくと走り回っている姿を見つけた。
「…ひひ。たまらんね。これだから『リーパー』の周りはたまらんのよ」
「そうだ。あいつは殺すより生かしておいた方が金になる。ふひひひ…。やはり間違ってはいなかったな」
そう言いながら、死体を挟んで卑しく笑う老人2人に、クロロは「おい」と声をかけた。
「おや。……ひひひ、また来たのかい坊や。しかし運がいい。もうちょっと早く来ておれば、お前もこれらの仲間入りだったのに」
「ひひひ。そうだ、美人の坊やはきっと死体でも高く値が付いたぞ?儲け損ねた。ひひひひ」
と、老人2人はそれぞれ、抱えた死体とクロロとを指差して笑う。
それを無視して「何があったんだ?」と訊けば、「教えてやる道理はないが…」と渋る。
なので、「これをやる」とレヤードと一緒に食べようと思って持ってきていた板チョコレートを1枚、老人の1人に投げて渡した。
「ほほ、こりゃあ良い物だ。奮発したな坊や。…なら仕方ない、ギブアンドテイクだの。……『カミヤリ』と『リーパー』が一当たりしたんだよ」
「ここらは『リーパー』の縄張りだが、『カミヤリ』の縄張りのど真ん中を突っ切って、外にも中央にもつながっておる。目の上のたんこぶという奴だ。ひひ」
「外…。"興味ない"なんて言って…。外までの道、結局持ってるんじゃないか…」
オレにも悟らせないなんて、なかなかあいつも嘘が巧い。とクロロは小さく舌打ちする。
…いや、"持っている"というだけで、もしかしたらレヤードは本当に"外"には興味が無かったからかもしれないが。
「ふひひ…。『リーパー』の縄張りにある道はここらで一番歩きやすい道だから、流れ者がよく通る。内からも、外からもな」
「ひひ…、そうだ。歩きやすい、というだけで、通りやすいわけではないがな。『リーパー』がそれらを獲物に巡回しておるからの」
「そんな『リーパー』の肥えた縄張りを、『カミヤリ』はどうにかしたくてたまらんのよ」
「そうだ。それこそ昔から。あの小僧が『リーパー』の名と縄張りを継ぐ前からな」
「名を継ぐ…。ってことはやっぱり『リーパー』は2人いたのか」
これでフェイタンの言っていたこととも話が繋がったな、とクロロは思った。
「ひひひ。そうだ。先代がこの流星街から出て行って、空白になったこの土地にあの小僧が棲みついたというだけの話だがの。
先代『リーパー』に能力で以って殺されかけ、奇しくも自分を殺しかけた男と同じ能力を目覚めさせたあの小僧がの」
「そしてわしらがその小僧に『リーパー』の名をくれてやったというわけだ。名前にはすでに恐怖という権威がついていたのでな。ひひ」
「それがまた『カミヤリ』は気に入らない。子供の内にと、目をかけ手をかけて仲間に引き入れようと色々したが、それもことごとく失敗したんだよ」
「あの小僧は誰にも従わない。誰にも懐かない。幼いころからずっと獣だ。わしらですらずいぶんと手を焼いたな?」
「ふひひ…。それはまた懐かしい話だ。…だからこそ坊やが未だに死体になっていないことには驚いているがね」
「そうだな。その手腕、ぜひ聞いてみたいものだ。『カミヤリ』ならその情報、よっぽど高く買ってくれそうだからの」
「ひひひ。そりゃあ良い。『カミヤリ』は焦っているからね。あの小僧が大人になって、よっぽど力をつけつつある今は特に」
「いずれ『カミヤリ』を見限って小僧をリーダーに慕う輩が出てもおかしくない。ま、あの小僧は「リーダー」なんてできるようなガラではないが」
「だから『カミヤリ』は、あの小僧が「独り」でいるうちに、自陣に引き入れて飼い殺しにしようと躍起だ」
「飼えればよし、殺せてもそれはそれでよし、とな。ここ最近はよく来るね、手下どもが武器を持って」
「臆病な本人はなかなか姿を現さないがね。最近は中央議会の長老共までからも援助を受けてるって話だよ、『カミヤリ』は」
「悪所が1グループに統括されれば、中央もそれはそれで、めちゃくちゃな今よりは御しやすくなるだろうからね。ひひ」
「だがわしらにとっては混沌としていた方が儲かるでな。わしらは『リーパー』の味方だよ。時折質のいいエサを与えてやっておる」
「中央からすればこんなわしらも目の上のたんこぶのようだがの。ひひひひ」
「……ねぇえ――――?なんかさぁー、オレの話、してな―――いぃ―――――??」
老人たちの止まらぬ話の途中に、聞きなれた誰かの声が場に響いた。
老人2人は「いかん!『リーパー』だ!」「いかんいかん!血濡れの死神が来おった!」と死体を放り投げて大急ぎで泥山の影に逃げていき、クロロだけが場に残った。
声のした方を見上げれば、乾いたヘドロを積み上げた山の上には予想通りにレヤードの姿が―――――
「…フヒッ…!うひひっ…」
「……レヤード……?」
右手には血まみれの鉄の棒、もう一方の手には見惚れるほどに鮮やかな切り口をした女の首を持ったレヤードが―――
今まで見てきたあいつとは別人かと思うほどに、その特徴的な美しい翠緑を"黒く"歪め、レヤードはクロロを見下ろしていた。
その瞳と目が合ったとき、クロロはぞくりと背筋が粟立つのを感じた。
「ふひひ…。…ねーねー。クロロぉ…。お前さぁあー、今日はぁ…、なにィ?持ってるぅ〜〜?」
ぶん、と女の首をクロロの前へ投げて寄越し、いつもの調子でレヤードが訊ねてくる。
尋常ならざる殺気を纏い、顔も体も、真っ赤な返り血にまみれた"死神"の様相で。
ヘドロの山から飛び降りて、ズルズルと鉄棒を引きずり近づいてくる。
「フヒヒヒ…。いまさぁあ?ちょっとテンションヤバくてぇえ…。来てくれたのはうれしーけど、…でもっ!もー無理だからぁっ!!さっさと逃げて、もー来ないほーがイイと思うなぁあああ!!」
「…でなければどうなるんだ?」
「うひっ!!えへへェ!誰でもいーからさぁあ?殺したくなってっからああ!!―――例えお前でもォ!!」
そう叫んで、レヤードは鉄棒を振りかぶりクロロへと襲い掛かって来た。
「アハハハハ!!お前殺したらどんな気持ちになるかなぁクロロぉ!!
きっと、お前と会ってからずっと胸に溜まってるこのモヤモヤがぜーんぶ吹っ飛ぶくらい、すっげぇ気持ちよくってぇ―――!!そのあときっと自分がすげぇ嫌になる気がするけどねぇえ!?」
オーラを纏った鉄棒をレヤードはクロロに向かって振り回す。突いて、斬り下ろし、回転をかけて両手で下から振り上げる。
クロロはそのすべてをすんでで躱し、後ろへ退いた。
「そうか。オレもお前に殺されるのは嫌だから、今日は帰るよ。また来る」
「ひへへへへ!!ヒャハハハハッ!!」
周囲のゴミ山を鉄棒で"切り"崩し、吠えるように笑うレヤード。
しかし一目散に逃げたクロロを、それ以上追ってくることは無かった。
「―――ああクソッ…。なんなんだ。なんだあれは」
レヤードの縄張りから離れた場所で、ゴミ山の影に隠れ座り込んだクロロ。
走ったせいでは無いバクバクとした心臓の高鳴りを、シャツの上からぎゅう、と手で抑えた。
……まるで恋のようだ。あの翠緑。
エメラルドグリーンをたたえる澄んだ湖。その水奥に、ドロドロとした底知れない程の真黒の闇が潜んでいた。
自身を見据えた"それ"を思い出すだけで、何とも言えず気分が高揚する。
最初、欲しかったのはあいつの能力だった。それ以外は、どうでも良かった。
単にエメラルドの宝石に比肩すると言うだけならば、クロロはもっと眉目好い男を間近に知っていたからだ。
あんな薄汚い獣よりも、もっとその瞳の色に釣り合う、太陽のように美しげな金髪を持った男を知っている。
だから、"ふたつめ"は要らないと思っていた。
だが――――"あのコントラスト"。
澄んだ翠緑に差した、廃油(タール)のように濁り切った"黒"い光。
光と闇が同居する、あの相反する鮮やかなコントラスト。
あれは、あの光はあいつにしか出せない"色"だ。
欲しかったのは能力。最初そうだったのは間違いない。
だけど今は能力よりも―――あの瞳がどうしても欲しい。
レヤードの、あの決して『美しい』とは言えない"黒い"泥濘の揺れる―――美しい翠緑の瞳。
矛盾するような清濁。
あれが欲しい――――
そう思ってからのクロロの行動は早かった。
月1、2回のペースで運んでいた"エサ"を続けて3日。翌日から会いに行った。
1日目は、「もー来ないと思ってた…」と昨日とはうって変わってちょっと寂しそうにしていたのが印象的だった。
「人を殺すとああなるのか?レヤードは」
「ちょっと昨日のはね、殺りすぎてトンじゃってぇ…。ごめんね?びっくりした…?」
「まあびっくりはしたけど」
そう言ってクロロが笑うと、おそるおそるとこちらの顔色を伺うかのように乾いたヘドロの山の影から出てきて、『悪戯がバレた時の犬みたいだな』などと感想を持った。
昨日残しておいた1枚の板チョコレートを二つに割って差し出すと、レヤードはパァッと表情を明るくさせてすぐにクロロのところへ近寄って来た。
2人で隣同士に座って、それを食べる。
「昨日はねぇ?『カミヤリ』の手下がさ、珍しくスゲー人数で来てさぁ。
そん中から、さらにスゲー珍しく『カミヤリ』の声もしたから、今日こそ決着つけてやろーと思って殺りまくってたらね、テンション上がりすぎてだんだんわけわかんない感じになっちゃってぇ…。
人を殺すのはね、好きなんだけどぉ…。やっぱりぃ、なんでもやりすぎはダメだねぇえ〜〜!ヒハハハハッ!!」
「はは。やり過ぎが駄目っていうか……、まぁいいか。レヤードは人を殺すのが好きなんだ?」
「うん。食うのとね。寝るの。それと殺すの。それしかオレ、知らないからぁ…。クロロは、他に何か知ってるぅ〜〜?」
「まあ流星街(こんなところ)じゃね。でも本はよく読むよ。色々拾ったり、貰ったりして」
「ふぅん…。オレはね、ずっとここで、オレ以外の人間はみんな敵で、ずっとそうだったからさぁ?食べ物奪って、奪いに来る奴らにやり返してさ…。
やられる前にやり返さねーと、こんなゴミん中じゃ、変に叩かれたり斬られたりするだけで明日にはゴミまみれになってこっちが死んじゃうから…」
「まあね。怪我は大敵だよね。こう不衛生だと」
2日目に来た時には、「あえ…。また来たの?」と困惑した感じで迎えられた。
「レヤードに会いたくなって」と言うと、真に受けたのか「ほんとぉ〜?」と素直に喜んで寄って来た。
そうしていつもと同じように、2人でビスケットを分け合って。
会話もそこそこに「帰るね」と座っていた格好から立ち上がると、その日のレヤードはいつもと違って――――
「あ…」
と立ち上がったクロロの姿を、レヤードの翠緑の瞳が捉える。
何か言いたげに見上げてくるそれとわざと視線を交えながら、あえて何も訊き返さずにクロロはただにっこりと笑みを見せる。
「またね、レヤード」
「…うん。またねクロロ…」
レヤードの視線を背中に痛いほど感じながら、それでもクロロは振り返らずにその場を去った。
3日目に来た時にはそれまでと全く違う対応を受け、クロロはレヤードの縄張りに踏み込んだその場で固まってしまった。
「…なんでまた来るの…?」
どうやらその日レヤードはクロロの事を待っていたようで、縄張りに入ってすぐに、だいぶ距離を置かれた状態で疑心暗鬼にそう訊ねられた。
……完全に警戒している目だった。逆効果だったか。失敗した、と思った。
「なんでさぁ…、クロロはオレにそんな、親切にするわけ…?クロロはいっぱいオレに何かをくれるけど、オレはなんにもクロロに返せないよ…?
オレは殺すのしか出来ないしィ…。何かオレを利用したい?そのために親切にするの…?」
「それは…、オレの知ってる親切とは違うな」
「…オレを利用したいわけじゃないの?『カミヤリ』はずっと、そうやって来てたよォ…?」
「言っただろ?オレは『カミヤリの仲間』じゃない。…レヤードと友達になりたいんだ」
―――思えば初めて会ったそのときにも、クロロはレヤードにそう言った。
目的があって、そのための方便で。
だが今回は違う。本心からそう言う。
すると、前は届かなかったその言葉も今度はレヤードに響いたらしい。急に駆け寄って来て、ギュッと抱きつかれた。
身長も釣り合わないような大きな身体で。レヤードはクロロの肩に顔をうずめてくる。
「レヤード。苦しいよ」
「ごんめ…。そんなの言われたの、オレ初めてで…。なんかこーしたくて…。何だろこの気持ち…。わかんねーけどさぁあ?なんかね、なんかぁ、すごくいいねぇー…」
「そうか…。でも「友達になりたい」は前にも言ったよ。どうしたんだ急に」
「んん…?うん……。今までのクロロはさ…、なんかずっとニセモノっぽかったから……。
でも、ここ3日くらいのクロロはね、…今のクロロはぁ、良いねぇええ―――って、話ィ…。オレの勘、やっぱ間違ってなかったんだ…」
「……あのさ、レヤード。その、『やっぱり』っていうの、なんなんだ?時々出るよな?」
そう訊くと、レヤードは顔を上げ、クロロの肩を押し戻す。
そして不思議そうな顔で首をかしげた。
「『やっぱり』?…ええ…。やっぱりはやっぱりじゃな――いィ?」
「そうじゃなくて、何がやっぱりって思うんだ?って…」
「んん〜〜??…ん゛―――。なんかぁ…、なんかねぇ〜〜?お前がオレの運命〜?的な?お前と初めて会ったあの時、お前の黒い瞳…見た時、『あ!見つけた!』って、なんかそーゆーの感じたんだよぉ…。
クロロの目、見たときに…。お前、オレから目ェ離さなかったろぉ?真っ黒い…闇色だけど、強い目…。まっすぐ、オレの事見てさぁ…。今までに遭った誰より強い目してたから…。
お前と一緒に行ければァ…、きっとなんかスゲー面白いことが出来んじゃねーかなぁって…。なんか勘…。オレの勘、けっこー当たるんだァ!
だから、その…、でもぉ……、お前はずっと、なんか嘘ついてるし…、ニセモノっぽくて……間違いだったかなぁ…ってよくわかんなくなって…。ずっとモヤモヤしてたんだけど……。
でもさぁ?やっぱお前だったんだー、って!オレ、きっとずっとお前の事捜してたんだと思う〜!やっとねぇ?ずっと迷子になってた飼い主を見つけられた気分〜??わんわん!アハハハッ!」
顔の前で両の拳を犬かき状に上下させ、レヤードは楽しそうに笑う。
獣だの犬だの呼ばれている自覚があったのだろうか?…いや、それよりも。とクロロは思う。
「そうか…。"ニセモノ"っぽかったか…」
取りつくろったような嘘や言い訳は最初から見透かされていた、というわけだ。だからレヤードは何度もクロロを試していた。
この野良犬も、無警戒な生まれたての子犬じゃない。よっぽどスレた生き方をしてきた、立派な成犬だ。
そんな大きな野良犬からの信頼が欲しければ、こちらもまたしっかりとその目を見て、信頼してやらなければならなかったのに。
道理で決め手に欠けるわけだ。わざわざ遠回りをしていたな、とクロロは自嘲気味に笑みを零す。
「うんうん!そう〜!お前、ずっと嘘ついてたろぉ〜〜?オレ、そーゆーのわかるからぁ。ていうかぁ…、クロロはホント嘘ヘタぁあ〜〜!お前の嘘ならぁ、たぶんオレ、すぐわかるよォ〜?」
「へー。今後の参考にするから、どういう風にわかるか教えてよ」
「んん―――…。説明はむずかし―――……。でもねぇええ〜?
……さっきのお前の言葉はホント。オレとトモダチになりたいってぇ…、ホントに本気で思ってる。………当たってるぅ?」
いつかと同じく訊いてくるので、今度はクロロも「……ああ。当たってる」と静かな笑みを浮かべて返した。
するとレヤードも、きっと本心から、にっこりと笑う。
「フヒヒ…。じゃー、オレとお前で、今日からトモダチぃ―――!よろしくねぇ、クロロ〜〜〜!!」
そう言って再び抱きついてくるレヤードは、まるで元気な大型犬のようだった。ぶんぶんと大きく振れる尻尾をその背後に幻視する。
クロロは少しふらつきながらもその大きな体を受け止め、ぼさぼさにハネたレヤードの黒髪を撫でた。
つづく
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すもも