二匹の猫と十三匹の蜘蛛 ◆03:白い服の猫




舞い落ちるガラスの破片が光を反射し、きらきらと煌く。





黒猫にパクノダが手を伸ばした瞬間、天窓を突き破り一本の光の矢が廃墟の中に飛び込んできた。


そしてその窓から、1人の男が突然――――そこに現れた。



あの風貌は、まさに黒猫。

あの髪も、あの服も。

首に光る十字架の首輪も。


唯一決定的に黒猫と違うのは、上から下まで真っ白だったこと。



白い服の「黒猫」が、暗い廃墟へと舞い降りた。







着地した白い服の黒猫が顔を上げた。


(((何で泣いてんの!!?)))


白い服の猫はその目に溢れんばかりの涙を溜めていた。今にも泣き出しそうな子供のようだった。

「ぅぇ…ひぐっ…う〜っ……、ジャズをいじめる人は…僕が許しませんからぁっ!!!」

言った後で、鼻をすする。

ぽろぽろと涙をこぼし、仔犬か仔猫のようにぷるぷるしている。

蜘蛛は目を点にした。



「……………なに?こいつ?」

「見た目は……白服の…猫だがなぁ……」

まず口を開いたのはシズク。ノブナガも呆れ顔であごヒゲをなでている。



「そ、そこのひとっ!!」

白い服の猫はズビシ!とばかりに黒猫を捕らえているヒソカを指した。

「……なにかな?」

「…ジャズをっ…は、離してっ…くくださいっ!!」


いやに控えめ。


「…離さなかったら?」

クロロが問う。


「ぶっ殺します!!!」

泣きながらそう言ったと同時に、その両手を上に掲げた。


「うげっ!!マジかよっ!?」

黒猫がヒソカに抱かれたまま声を上げた。



この白い服の猫は、泣くと見境が無くなる。

こと、黒猫の身に何かあったときはその傾向も強くなる。

長年の付き合いで黒猫はそれを知っていた。

そしてこれから白い服の猫がしようとしていることも。



「もう泣いても許しませんからーっ!!いけぇっ!"流星衝(スターランサー)"!!!」

両手が光る。上空に放たれた無数の光の矢が、豪雨のように廃墟内に降り注ぐ。

「うおっ!?あぶねっ!!」

ウボォーが叫ぶ。



降り注ぐ矢の一つ一つは、コントロール性能も悪く、蜘蛛1人1人を的確に狙うものではなかったが、降って来るスピードと量が尋常ではない。

矢そのものはそれほど高い攻撃力を持ったものではない。しかしスピードの分、それなりの攻撃力が加算されている。

そんなものをいくつも食らえばさすがに大怪我をする。当たり所が悪ければ致命傷にもなりうる。



「ひゃ〜、すっごいね!」

「当たたら致命傷確実ね」

シャルナークとフェイタンが矢を避けながら言った。


矢の発信源…白い服の猫を止めようにも、矢が邪魔でうかつに近づけない。

しっかりと狙いを定められたものなら避けながら近づくことも容易なのかもしれないが、

上空から降り注ぐあまりにも無差別すぎる矢とその矢の量にいくら蜘蛛でも避けるしかなかった。



「…テメ、このっ!!ゼロ!!オレがいんの忘れてんじゃねーよ!!!」

黒猫の叫びに、白い服の猫が一瞬ビクついた。


ほんのわずか、光の矢の雨に間があく。

それを蜘蛛が見逃すはずは無かった。




マチの糸に両手を取られ、横からフェイタンの体当たりを食らって倒れこんだ白い猫。

倒れる前に放った最後の矢が、廃墟内に降り注いだ。

その矢の一本が、白い服の猫を捕らえ静止を余儀なくされたフェイタンの腕をかする。

それでも、フェイタンはその猫を離さなかった。


「…やっとつかまえたよ」

白い服の猫にまたがって、その白い首をきつく絞めた。

「……ぁはっ……ぁ……」

満足に呼吸もできずに白い服の猫があえぐ。

フェイタンにとってこんな優男を絞め落とすなど、わけない。






あの、むかつく黒猫と、同じ顔の猫。

アレはなぜか、団長のお気に入りだから手を出さなかったが…こいつなら……誰も手をつけていない今なら……



死んだってかまわない―――――


この顔を、殺せる……



ニィッと無意識に笑みがこぼれた。





「フェイタン、やめろ」

クロロが口を開く。

「何故か?団長?こいつ、ワタシたち殺す気だたね。やり返すのは当たり前ね」

「ジャズまで敵に回す気か。やめろ」

ヒソカに捕まったままだが、フェイタンを睨みつける黒猫。

ゆるゆるとオーラが集まり、初めて見たときの「化け物」が形作られようとしていた。


「……ふん。団長は甘いよ」

首を開放して、猫の上から退いた。白い服の猫は呼吸を荒げ、酸素をかき集めた。




「ジャズ、アイツは何者だ?"ゼロ"と言っていたな。さっきの電話の主か?」

ゲホゲホとむせる白い服の猫を尻目に、クロロは黒猫に尋ねた。

「……そうだ」

「あの顔…兄弟かなにかか」

しぶしぶといった感じに黒猫は頷いた。




ここから遠く離れた天空闘技場。

あの白い服の猫が電話の相手となると、あの電話を切った直後に彼はここに来たことになる。



「…兄弟そろってとんでもない使い手共だな…。フッ、面白い。…ヒソカ、離してやれ」

黒猫は開放されると同時に白い服の猫に駆け寄り、彼を抱き起こす。


「兄貴…大丈夫か?」

「はぁっ、はぁっ…ふぅう〜っ…ジャズ〜……」

白い服の猫は座り込んでまた泣き出した。

「……ヒグッ…ぅえ…無事でよかったです〜…うう〜っ…」

「だから泣くなよ…」

困った顔で、でもどことなく安堵した顔で、黒猫は白い服の猫の頭をなでた。




「兄弟ねぇ…、似てんだか似てないんだか…」

フィンクスが頭をかきながら呟いた。

「性格まで同じだったら迷惑以外のナニモンでもないぞ」

と、ノブナガ。

「そんなの喜ぶの、団長だけね」

眉間にしわを寄せたままのフェイタン。


クロロは真顔のままだった。












「あ、あの…」


恐る恐る、といった感じに白い猫が瓦礫に座るフェイタンに近づく。

睨むようにそっちを見たフェイタン。他の蜘蛛も、その様子を見ている。


「こ、これ…使ってください…」

真っ白いハンカチを差し出す白い猫。

「何故か?」

「……その…さっき…、僕の矢が当たったでしょう…?」

先ほど腕をかすった矢。

「こんなのほっといてもすぐ治るね」


本当にかすっただけだ。血もそれほど出ていない。

致命傷にはなりえない。出血多量になることもない。

三、四日ほうっておけば治る程度の傷だった。


「だ、だめですよ…やっぱり…」

「お前、頭悪いね。これ、お前がつけた傷ね」

「す、すいません…」

白い猫はフェイタンの言葉を聞いてしゅんとした。

でもそれから顔を上げて、フェイタンの傷にハンカチを巻いた。

その間、フェイタンはその白い猫の様子を見ていた。



「…悪かたな」

「…え…?」




白い猫の、真っ白で…綺麗な首にのこる……鬱血の痕。

さきほど自分が絞めあげた、痕。


白い肌、白い服にはそぐわない―――赤黒く変色した、自分の指の痕。



じっと首を見ているフェイタンの視線に、彼が何を考えているのかなんとなくわかって白い猫は優しく笑った。

「大丈夫です…ありがとうございます」

「なぜ礼なんか言う?……お前、頭おかしいよ」

「あ…すみません……」




この白い猫の行動、言動全てが、フェイタンには理解できなかった。



自分は、この猫を殺そうとしていたのに。

何故その自分に対して、こんな顔が出来るのだろう?



フェイタンにとってこの白い猫の行動は、『イカレてる』としか思えないものだった。




「…それ、治ったら…捨ててもいいですから………」

ハンカチを指した白い猫。

「…ふん」

フェイタンはぷいっとそっぽを向いた。

白い猫はそのフェイタンにぺこりと一礼をして、瓦礫に座る黒猫のもとに戻って行った。







―――――変な奴。



それがフェイタンの、白い猫に対する印象だった。







つづく


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一応スターランサーは、念能力・レイフォースの必殺技の一種という位置づけです

すもも

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ももももも。