二匹の猫と十三匹の蜘蛛 ◆06:腕相撲



「ねぇゼロ。ゼロってさ、何好きなわけ?」



瓦礫に腰掛けていた白い服の猫。

前に瓦礫から落下した事もあってか今日は瓦礫の下の段に座っていた。

その白猫にシャルナークがそんなことを言いながら隣に座る。


白猫の膝を枕に黒猫がすやすやと眠りについている。

白い猫のぬくもりを感じて警戒心を解いているらしく、シャルナークの気配に気づくことも無かった。




「何が好きとは…?なんですか?食べ物ですか?」

黒猫が起きないように優しくその頭をなでて、先ほどのシャルナークの質問の意味を聞いた白猫。


「うん。まぁそんなところかな」

本当は色々聞きたかったんだけど、と思いながらとりあえずシャルナークは頷いた。


「うーん…野菜が好きですかね…?あと、お魚とか?」

「何で疑問系なのさ……」

「ジャズはお肉派ですね。あんまり食べないクセに」

くすりと笑って自分の膝に頭を預けて眠っている片割れを愛おしそうに眺めた白い猫。




この家で蜘蛛達は2匹の猫と共に暮らしていた。

それほど長く付き合っているわけではないが、たしかにあまり猫達の『物を食べている』姿を見ていない気がする。


いつも寝っぱなしの黒猫は夜に1回。

白い猫も1日最低1回。多くて2回ほどの食事しかとらない上に、その量もかなり少量。

そのせいかこの2匹の猫は、念使いとは思えないほどの体の細さ。

考えれば、どちらの念能力も猫達の体力や腕力には関係しないタイプの能力とはいえ、念の戦いではやはり体術も重要になるもの。

強化系はもとより念を覚えている者ならば必然的に体を鍛えることになるし、その体の基本となる食事も大切にする。

それなのにこの猫達の体は一見すれば一般人となんら変わりないほど細い。


白猫のその貧相な腕を眺めてシャルナークはある提案をした。




「…ねぇゼロ。ちょっと腕相撲しない?」




「えー?僕弱いですよ?」

「うん。なんとなくそんな予感はするけど……とりあえずしてみよーよ。オレだって旅団の中じゃ全然弱いよ?」

「うーん……でもジャズも起きちゃいますし…」


ゼロが悩んでいると、それまで黙って白猫とシャルナークの会話を静観していた蜘蛛達が集まってきた。


「いいじゃねーか、やってみろよゼロ」

こういった勝負事が蜘蛛達の中で一番好きそうなウボォーギンが笑いながら言う。

すると他の蜘蛛もそれを促すように白猫に詰め寄った。


「いいね、やてみるといいね。…シャルに勝てたらワタシが相手するよ」

「ククク…それは無いと思うけどね。でも面白そうだ♠」

「待てよ、どう見てもシャルよか細せぇぞコイツ。無理じゃねーか?」

「いや、わかんねぇぞ?放出系は強化系の隣だし……シャルは操作系だろう?」


そんな風にわいわいと騒いでいるのは、蜘蛛の腕相撲ランキングで上位に位置する男たち。

フェイタン、ヒソカ、フィンクス、フランクリン。いずれも余裕の口ぶり。


「大体、ジャズだって団長よか弱えーんだぞ?」

黒猫と腕相撲をしたことは無いが、まえにクロロにキスされて黒猫が暴れたことがあったが、それはクロロには全く効かなかった。

それを思い出すように言ったのは、クロロより腕相撲が弱いノブナガ。


だが自分がこの猫達に負けるとは思えない。

もしかしたら、女性陣はおろか、蜘蛛内で腕相撲ランク最下位のコルトピよりも弱いのかもしれない、そんなことを思った。



「とにかくやってみれば?」

「そのほうが早いわよ。シャルくらいが相手なら力量もちょうど測れるんじゃないかしら?」

「うん。やってみなよ、ゼロ」


案外クロロより腕相撲が強いマチの言葉と、その言葉に続いたパクノダとシズク。

パクノダとシズクはシャルナークより弱い。

まぁ仮にも女性であるということを考えれば当然ともいえる。

だがそれでも間違いなくそこらへんの男よりは確実に強いだろうが。



少しの間首をかしげて悩んでいた白い猫。

早くやろうといわんばかりにシャルナークが手を出したので、しぶしぶ今だ眠ったままの黒猫の頭を床に下ろして近くの瓦礫を台に腕を差し出した。


いままで遠くから本を片手にそれを覗き見ていたクロロも、白猫が用意したのを見て傍に寄って来た。


クロロが座ったのは言わずもがな眠る黒猫の隣なのだが。


自分が傍に寄っても起きない黒猫の様子に、満足そうにその頭をなでていた。

黒猫はそれを白猫の手を勘違いしているのか、少し嬉しそうな顔をして丸まっていた。



「じゃあいいか?」

そう言ったのはいつの間にか審判役に納まっているウボォーギン。


白い猫とシャルナークは互いに手を組み合った。






ぴたりと空気の流れが止まる。




泣き虫の白猫が初めて見せた、真剣なまなざし。


見惚れるほどに美しく整った顔に、蜘蛛達はどきりとした。








「…レディー……ゴッ!!」

ギシッ

シャルナークと白い猫。互いに逆方向に引っ張ろうとする、その力が音を立てる。



白猫のその細い腕からは想像できないほどの力がかかってくることにシャルナークがまず驚いた。

この猫の腕力そのものはたいしたものではないのだが、それ以上にこの白い猫は………


「オーラの使い方が上手いね…♦」

ヒソカが呟く。

他の蜘蛛も同じ事を思った。



この白い猫は力のかかる部位に恐ろしいまでの的確さでオーラの配分をしている。


たしかにこれほどの"オーラの使い手"なら、この細い体で天空闘技場を制することも可能かもしれない。

そんな風に思いながら蜘蛛は勝負の行方を追った。


しかしやはりシャルナークも蜘蛛の一員。そこらへんの念能力者と一緒にされては困る。

精一杯力をかける白い猫よりはまだほんのちょっと余力があった。


じりじりと白猫の腕が倒される。




「……んッ……ふ…ぅっ………」


口をきゅっと結んで声を漏らした白猫。

その声が妙に蜘蛛達の頭の芯に響く。というかむしろ腰に来る。


ふるふると必死に耐える白猫の顔を正面から、しかも間近で見るハメになったシャルナーク。



(…うわ、これヤバイ……かなり来るかもっ…)




首の後ろがピリピリする。

このまま白い猫を押し倒してその甘い声を思う存分聞きたい衝動に駆られる。




(って……オレは団長とは違うからっ…;)



自分は盗賊。

欲しいものは奪うのが常であってもここは紳士的に行きたい。(?)


だめだ、微妙にパニクってるぞ自分…!!


そんなことを思いつつシャルナークは動きそうになる体を必死に押し止めて、まずは腕相撲で白猫を負かした。





「ふぁっ……。…あーぁ、負けちゃいました……」

お強いですね〜、なんていいながら腕をプルプルふるってにこりと笑った白い猫。


その勝負の途中、どれだけ自分の姿が蜘蛛達の心をかき乱していたか知りもせずに白い猫は無邪気に笑っていた。


そんな白い猫の可愛らしい笑顔を見て、シャルナークはもう何も言えなくなった。




(もうオレの心をかき乱さないでよ………;)



本当に本気でキミが欲しくなるから。









「…そ。じゃあ次はボクとしよっか、ゼロ?」

白猫の背後からするりとその細い体を抱き上げて言うヒソカ。

他の蜘蛛は一発で予想できた。ヒソカの言っていることの、その「しよう」という言葉の意味が。


「なに言てるね、ヒソカ。ヘンタイは独りでベッドに帰るといいね。白猫はワタシがもらうよ」

「そうだよ!……って、何言ってるのさフェイ!!」

さらりと言ったフェイタンの言葉にうっかり同意しそうになったシャルナークは1人、ノリツッコミをしていた。



「シャルよりは弱いのね?じゃあ次は私としましょうか?腕相撲」

順位的にはシャルナークの下に位置するパクノダが、『腕相撲』という部分を強調して言った。


このままでは白猫の貞操が危ない。そう思って。

マチとシズクも力強く頷いてそれを促そうとした。


しかし………


「いや、待て。オレが先にやる。……ジャズと先にな」

クロロが、その会話に割って入ってきた。

眠っていた黒猫をしっかりと抱きしめて。




「ようはジャズのエロ顔も見てーんだな、団長……」

あきれたように言うウボォーギン。


「ちょい待て!!つーかそりゃあまりにも直接過ぎやしねーか!?ウボォー!?」

うっかり聞きながしてしまったあとでノブナガが突っ込んだ。



蜘蛛達が騒いでいるその理由がよくわからず、ただ首をかしげる白い猫。


まだまだ猫達……いや、13匹の蜘蛛にとっても受難は続きそうである。








つづく


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おかしい…。始めはご飯ネタを元に間接チューでもやろうかとたくらんで書き始めたのに…

すもも

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ももももも。