前に白猫が破った天窓から、柔らかな色の光が真っ黒な「家」の内部に落ちている。
見上げて、天窓から見えるのは真っ青に澄み切った空で。
それはまったく自分とは相容れない色だとフェイタンは強く確信する。
差し込む光の筋を避けて、影の部分だけを歩いた。
闇を踏むたびにそこはきしきしと音を立て、静かにほこりが舞う。
誰もいない家の内部。
この廃墟に巣食う蜘蛛はおろか、いつも居るはずの黒猫までもがいない。
一音もない、本当に静かな空間。
…こういう場所は嫌いではない。
ただ、ここが真の闇ならばもっと―――――――
ふと、フェイタンは顔を上げた。
差し込む光の中、真っ白な1匹の猫が瓦礫にもたれ静かに眠りついているのが見えたから。
ゼロ、という名の白い猫。
白い服は光を反射し、白猫自身が発光しているかのように闇の中淡く光る。
それはいっそ神々しいほどで、きっとこの真っ白い猫はあの澄み切った空から羽を休めるために降りてきた天の使いなのだと、そんな気にさせる。
フェイタンはそっと白猫に近寄り、隣に座った。
柔らかで艶のある髪に指を通す。白猫の髪は絡むことなくフェイタンの指をすり抜けた。
ふわふわと髪をいじりながらフェイタンは白猫の寝顔を眺めていた。
自分とはまるで正反対の色を持つ白猫。
光の中で眠るその白い猫と、闇を生きる黒い蜘蛛。交じり合うことなどきっとこれからも無いと、そう思った。
白猫の髪に触れるフェイタンの手に、白猫の手が伸びた。
触れられる前に手を引っ込め顔を覗けば、白猫が眠たそうに目を開けていた。
「…あの〜、フェイタン…」
「………何か?白猫」
「いや、こっちのセリフですし…;何してるんですか…?」
珍しくお昼ごはんを食べて"家"に戻ると、中には誰もおらず、みんなお昼ご飯を食べに出たのかな、なんて思いながら僕は瓦礫に腰掛けていた。
おなかもいっぱいだし、天窓から暖かい日差しが差し込んでいて暖かくて、僕は眠くなってうとうとしていた。
どのくらい眠っていたのかはわからないけれど、しばらくして何かが僕の髪や首に触れているのを感じて目を開けた。
振り向けば、いつの間にか戻ってきていたフェイタンと目が合った。
僕の問いには答えず、じっと僕を観察していたフェイタン。
ふっと視線が外れたと思うと、一度離れたフェイタンの手がふたたび僕の髪に伸びた。そしてまたふわふわと髪を弄び始める。
「あの…; ……フェイタン…何してるんですか」
僕がもう一度聞くとフェイタンはしれっとした表情で答える。
「…別に。意味なんか無いね」
「いや、あの…意味が無いなら止めてください……; 気になって眠れないんです…」
でもフェイタンは僕の言葉を無視してサワサワと髪をもてあそんでいる。
本当になんなんだろう?一体何が楽しいのかな。
フェイタンの視線はいつもと同じく冷めたままだ。
全然楽しそうにも見えないけど……
でも、フェイタンの手が僕の髪から離れることは無かった。
「だからっ……あ、あの…くすぐったいです!やっ……やめてください!なんなんですか!」
「…別に。暇なだけね」
興味なさそうな顔なのに、フェイタンは僕の髪を名残惜しそうに指に絡めていた。
本当に何なんでしょうか?困ったなぁ。
「暇だからって僕で遊ばないでください………」
「……ふん、お前のアホ面見てると苛め抜きたくなるだけよ」
「ア、アホ面なんかしてません!!フェイタンのバカー!!」
ひどいです!!ジャズに言いつけてあげますからー!!!
びえーっと泣き出して部屋を出て行った白猫。
それを眺めて、フェイタンは1人呟いた。
「……バカはお前の方ね、ゼロ………」
いつになったらお前は、ワタシのキモチに気づく?
つづく
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言葉にしないとわかんないよ!というお話。フェイタンはそういうの絶対口にしなさそうですけど
すもも