……きろ。
…い。……ろって。
―――うるさいなぁ。なんだよ。誰?まだ寝かせてよ…。
『オイ起きろっつってんだろ、このへなちょこがぁああー!!!』
ばちぃいん!!
「痛ァッ!!!」
んぇ!?はっ!!?えっ!?あ?えっ、何!!?
目覚めると目の前には大勢人がいました。
………なんでみんな僕を見てるの……?
んん…と伸びをして、頭の中を整理してみました。
僕はきもちよく寝てた。
ジャズ…が、たぶん起こしてくれた?
頬(と手)がひりひりする…。
………。
僕が起きないからジャズはほっぺたをひっぱたいて起こしてくれたようです。それで僕が声を上げて…。
…ってことは―――――なに僕、独り芝居してるのッ!?
なんという恥!!大恥だよ!ジャズのアンポンタン!!しかも「へなちょこ」っていったね!!言うなっていつも言ってるのに!!
そりゃ僕は君より弱いよっ!(比べられないけど!)気にしてるのに!!バカ!!
「あんた、大丈夫かい?」
「えっ?あ、だだだいじょうぶです;」
座ったまま頭を抱えてあわあわしていたら、鼻の大きな人に手を差し伸べられた。
…にこやか〜に笑う人だったけど、………なんか妙に胡散臭そうな人だなぁ…。
この人も試験受けるんだろうけど…16番の番号つけてるし…。
とりあえず差し伸べられた手を放っておくのも失礼なので、僕はその手を取って立ち上がった。
「オレはトンパってんだ。アンタはルーキー……ぇ…あっ!!?おおおお前っ!?ジャズ=シュナイダー!?……あ、あれ?でもお前確か試験には一度合格したハズじゃ…?」
「ジャズ=シュナイダーは弟の名前です…。僕はゼロ=シュナイダーっていいます。よろしくお願いしますね」
「あ、あ…ああ。よろしく…。なんだ兄弟だったのか…?そ、そっくりだから間違えたよ、悪い悪い」
「いえ、全然。よく言われるんで大丈夫です」
「そうか。君のほうは試験初めてだよね?オレは10歳から35回もテスト受けてるから、わからないことがあったら何でも教えてあげるよ!気軽に聞いてくれよな!」
「…はあ、ありがとうございます…;」
ビシッと得意満面な顔でトンパさんは言うけど……、10歳から35回って大丈夫かなこの人……;
『…チッ。嫌なツラ見ちまったぜ…』
なんか相棒がつぶやいてますけど…。
『知り合い?』
『……………………まぁな』
なんですかそのたっぷりの間は。嫌なヤツなんだね…。
『「新人つぶし」のトンパだ。シカトしろ。関わるな』
『手は出さない約束でしょ?』
『……手は出してねぇ』
減らず口だなぁ。
「…ど、どうかしたかい?」
「あ、いや〜〜…、35回も受けてるなんてすごいなぁと思いまして…;」
『すごくねぇだろが』
『うるさいな、わかってるよっ;』
パニクってることくらい自覚してますっ!
「そうか。ま、そうだろうね。……あ、そうそう」
そういってトンパさんは缶ジュースをさしだしてきました。
「お近づきのしるしに君にあげるよ。お互いの健闘を祈って乾杯しよう!」
「はい、ありがとうございます。…でも気持ちだけで十分ですよ?「新人つぶし」のトンパさん?」
にこやかにジュースごとそう言葉を返すと、トンパさんがギクッとしたように青ざめた。
「えっ?どどどういう意味?」
「どういう意味も何も、アナタのことはジャズに聞いてますから。ジャズがトンパ、というヤツに会ったら、よ・ろ・し・く・言っといてくれって。」
取り繕おうとしてるんでしょうが、全部顔に出てますよ、トンパさん。
僕がにーっこりと笑顔で言うと、トンパさんはいよいよ黙った。
「あ、わ、悪かったな…じゃ。」
トンパさんもなにかしらジャズに対して嫌な思い出があるんでしょうね。
青い顔でシュタっと片手を上げてさっさと人ごみに紛れて行った。
でもきっとまたヨソで新人にちょっかい出すんだろうなぁ…。異名が『新人つぶし』って…; 感じの悪い人だなぁ。
『人の事より自分の試験の出来でも心配してろ。オレはしばらく寝るぜ』
『はいはい』
僕が返事を返すと、ジャズの意識がすうっと薄れていった。
おやすみなさい、ジャズ。
……ふぅ。それにしてもずいぶん人が増えたな。何人くらいいるんだろう?
さっきの札配ってた丸い人はちっこいから見当たらないし…。トンパさんにでもちょこっと聞いとけば良かったな…。
丸い人を探そうと、すたすたとエレベーター付近に歩いていく。
きっとあの辺で番号札配ってるんだろうと思って。
…のはいいんですけどなんか回りの視線が痛いです…。なんでだろ?
「ぎゃあぁ〜〜〜っ!!」
わ、なんだ!?
「アーラ不思議。腕が消えちゃった」
声が聞こえた方に走っていく。
騒ぎの中心では、"種も仕掛けもございません"というふうに、ピエロっぽい風貌の男性が1人、にこやかに立っていた。
ピエロさんの足元では、腕を失くした別の男性が悲鳴を上げていた。
「おオ、オ オオレの〜〜〜〜」
「気をつけようね。人にぶつかったら謝らなくちゃ」
場にそぐわないようなセリフを、笑顔で言うピエロさん。
…なんかこのヘンなピエロさん、ジャズと同じにおいがするな…。
闇の世界の住人の。その、独特のにおいが。
「ちっ、アブナイ奴が今年も来やがった」
…と、僕とはちょっと離れたところでトンパさんの声。トンパさんの横には、つんつん頭の小さな少年がいた。
……また新人つぶしですかトンパさん……。
「44番奇術師ヒソカ。去年合格確実と言われながら、気に入らない試験官を半殺しにして失格した奴だ」
トンパさんはピエロさんを指差して、つんつん頭の子にそう説明していた。
ちょ…;試験官を半殺しとか…すごいアブナイ人ですね;
44番。ヒソカさんか。よし、覚えました。
そっか、試験官に手を出すと失格になるんだ。まあ当然だろうケド…。
僕は…ジャズが出てこない限り大丈夫…のはず。いざとなればネテロ会長もいるし…なんとかしてもらえないかな…;
…だ、だめかな…;
「ほかにもヤバイ奴はいっぱいいるからな。オレが色々教えてやるから安心しな!」
「うん!」
『うん!』だって。素直ないい子だなぁ、あの子。
僕の周りはジャズを筆頭にネテロさ…ぁあいややや!ジンさ…いやいや!!
と、とにかくひねくれ者…ああ!じゃなくて!…そ、そんな感じの人たちばっかりだから、心がすっきり洗われるようです〜。…ハハ。
のほほんとトンパさんとつんつん頭の子のやり取りを見ていたら、その子が急に僕のほうに振り返り、
「あの人は?あの、1番の人!」
って僕を指差してきました。
人を指差しちゃいけないよつんつん頭くん…。回りも一斉に僕を見てます。
…あぁ…、1番だったから注目されてたのか…;やっと理解できた…。
とことことその子は僕の前にやってきて、手を差し出してきました。
「オレ、ゴン!よろしく!」
「僕はゼロ。よろしく、ゴンくん。」
小さな手と、きゅっと握手。
そしたら眼鏡をしたこわいお兄さん系の黒スーツの人と民族衣装っぽい金髪の女の子も寄って来ました。
ゴンくんのお仲間さんかな?
「オレはレオリオってんだ」
「私はクラピカ。よろしく、ゼロさん」
「〜〜〜!てめクラピカ!オレは初対面呼び捨てでこいつはさん付けかよ!!」
「はは、よろしくお願いします。レオリオさん、クラピカさん」
レオリオさんと握手して、クラピカさんともにっこり笑って握手。
そういえば僕はいつもジャズから『オレはコマシだが、お前はタラシだ』とか言われるんですけど、この笑顔のせいなのかなぁ…。
……あれ、なんか反応おかしくないですか?
「ゼロ、クラピカは男だよ?」
「え?」
「ん?」
「はっ?」
少し間があきました。
「わああっ!!ご、ごめんなさい!!クラピカさん!!」
恥ずかしい!女の子だと思ってた!!ごめん!ごめん!!ごめんなさい!!!
僕、本日二度目の恥です!!クラピカさん目を点にして固まってます!ぅわっ、うわあぁ〜〜ああ〜〜〜〜(恥ずかしさでパニック)
「ぶふっ!!うはははは、ゼロおまえ、クラピカのこと女だと思ってたのかよ!?ははははおもしれ〜!!」
「レオリオは笑いすぎだ」
わなわなとクラピカさんが震えてる。顔が赤い。怒ってますね…。ごめんなさい…;
「あ、あとさ、オレ達のことは呼び捨てでいいよゼロ。ね、2人とも?」
ゴンくんが一生懸命取り繕おうとしてくれてます。ほんとにいい子だね…。僕は泣きそうです。(心ではすでに泣いてます)
「うん、ありがとう。僕の敬語みたいなのはクセなんだよね。努力はするけど、さんとかくんとかつけちゃったらごめんね?ゴン、レオリオ、クラピカ」
「じゃ、じゃあホラ!仲良くなった記念にジュースで乾杯でもしないか?お近づきのしるしにオレがおごってやるからさ!」
…って僕らの横からまたトンパさんが3人にジュースを差し出してました。
ルーキー皆にこれやってるんですかね?この人は。
「ありがとう!」
「あっ」
うわっ、止める間もなくゴンくん飲んじゃうし!絶対なんか細工してあるよそのジュース!
……と思ったら、とたんにゴンくんはジュース全部
ダバ―――――――。って口から出しちゃった。ぇええ…、汚い…;
「トンパさんこのジュース古くなってるよ!!味がヘン!」
「え!?あれ?おかしいな〜〜?」
ものすごい汗かいてますねトンパさん。やっぱりなんか入れてたんですね?
後ろでクラピカとレオリオもジュース捨ててました。
あはは。この人たちも結構やるね。
つづく
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ちなみにジャズくんとトンパは以前の試験で会ってます。
その試験のとき、きっとかなり痛い目にあわされたんだと思います。
すもも