ジリリリリリリリリリリリリリン
「ン?」
「ただ今をもって受付時間を終了いたします」
あ、れ?あれってサトツさん?
けたたましく鳴ったベルの音をたどると、見知った素敵ダンディーの姿が…。
何やってんですか、サトツさん…;
「ではこれよりハンター試験を開始いたします」
そう言ってサトツさんがスタッと高いところから降りてくる。
…うーん。
実はサトツさんも受付やってたとか?でもあの丸い人しか見なかったけどな…。
「当たり前の話だが誰1人帰らねーな。ちょっとだけ期待したんだがな」
「え?こんな最初で帰るんだったらはじめから試験受けになんて来ないと思いますよ?レオリオ」
「まー、そりゃそうだけどよ」
レオリオとそんな話をしていたら
「おかしいな…」
と、クラピカが神妙な顔で辺りを見回し始めた。
なに?なんですか?…あれ、周りのみんなが走りはじめてる?
「おいおい何だよ!?やけにみんな急いでねーか?」
「やはり進むペースが段々早くなっているようだ!」
「前のほうが走り出したんだよ!!」
「うわ、それはまずいですね!」
「まじかよ!?なんでだ〜!?」
周りの速度に合わせて、僕らもわたわたと走り始める。
どういうことなのかよくわからず、クラピカやレオリオと一緒に首をひねっていると―――列の前を行くサトツさんが、おもむろに理由を口にしていた。
「申し遅れましたが私一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」
「え?」
「はあ!?」
「ちょっと待てよ!『二次』……?二次ってことは一次は?」
受験生達がざわめく中、誰かがサトツさんにそう聞く。サトツさんは特に振り返ったりなどせずに、前を見たまま扱く平静に言葉を続けた。
「試験はもう始まっているのでございます。二次試験会場まで私について来ること。それがこの一次試験の課題でございます」
「あー…、なるほど。こんな感じなのかー。やりがいありそうだなぁ」
サトツさんの言葉に納得して、僕は呟く。
サトツさん何やってるのかと思ったら、試験官だったんですね。
それにしてもサトツさんは、どんなときも紳士然としてるなぁ。僕もいつかはああいう素敵な大人になりたいです。
「でも変なテストだね」
「さしずめ持久力試験ってとこか。望むところだぜ、どこまででもついて行ってやる」
ガ―――――ッ
「あ」
走りながらレオリオが意気込んだその瞬間に、僕らのわきをスケボーに乗った男の子が涼しい顔ですいーっと横切っていった。
「おいガキ、汚ねえぞ!そりゃ反則じゃねーか!オイ!!」
「反則?何で?」
スケボーに乗った猫目で銀髪の少年が、怒鳴ったレオリオにさも当然の疑問のように聞いてくる。
…あーあ、猫目くん。その言い方は火に油…;
「何でって…、はあ!?おまっ…!!これは持久力のテストなんだぞ!!?」
思ったとおり、レオリオは猫目の子に向かって大爆発。
なだめようとしたら、前を走ってたゴンくんが僕より先にレオリオへと顔を向けて、言ってきた。
「違うよレオリオ。試験官はついて来いって言っただけだもん」
「ゴンこら!!お前はどっちの味方なんだよ!?」
「あはは。まぁまぁレオリオ、落ち着いて」
ゴンくんの言う通り、サトツさんは「ついて来い」って言っただけで「持久力のテストです」とは一言も言ってないですしね。
「……ねぇ君、年いくつ?」
スケボーに乗りながら、走るゴンくんを観察していた猫目の子が、ゴンくんにそう尋ねてきた。
「オレはもうすぐ12歳!」
「……ふーん。…やっぱオレも走ろっと」
ゴンくんの元気な返答を聞いて、猫目の子はスケボーを跳び降りゴンくんと並んで走り出した。…まぁ、同い年くらいですよね。この2人。
いいお友達になれるといいですね〜。
と、のほーんとしてたらクラピカに突っ込まれる。
「…ゼロ、なにのほほんと走っているんだ?」
「キモイぞ」
「えっ!?ひどいですレオリオ!!キモくないです!八つ当たりはやめてください!」
「オレ、キルア」
「オレはゴン!」
「オッサンの名前は?」
「オッサ…これでもお前らと同じ10代なんだぞ、オレはよ!!」
「「「うそぉ!?」」」
「あ―――!!ゼロ!!ゴンまで…!!ひっでぇ!お前らもう絶交な!!」
ぜ、絶交って…;
いまどき使いませんよそれ…。
って…あぁ!!クラピカが全力で走り去っていくのが見える!気持ちはわかりますけど。
むー。さて、もう一体どのくらい走ったんだろう。何時間この地下道を走ったのかわからないけど、一行にゴールらしきものは見えません…。
そして僕、夢中で走っていたらいつのまにか皆とはぐれちゃいました。
いや、別に一緒に行くとか約束はしてないけど、心配だなぁ。
レオリオはどっちかというと一般人ぽかったし…脱落してないといいんだけど…。あ。
気がついたらサトツさんの背中がすぐ傍に見えた。
「サトツさん」
「おや、ゼロくんではありませんか。お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです。サトツさん、試験官だったんですね」
「ええ。恐れながら一次試験官に任命されました。ゼロくんもやっとハンター試験を受けられるんですね。
ゼロくんなら心配は要らないと思いますが、今回の試験も一癖も二癖もある試験官達ばかりのようですから、頑張ってください」
「はい。ありがとうございます。サトツさんからそんな応援を受けたら、僕は必ずライセンスを持って帰らなくちゃいけないじゃないですか」
「ははは。健闘を祈っています」
サトツさんは相変わらずとてもやさしい。……っと、うわっ、すごい階段!
薄暗い地下道がやっと途切れたと思ったら、今度は頂上が見えない、うねるような長い長い階段が現れた。
ちょ、ちょっと待ってください。コレを上るんですか、サトツさん!?
「さて、少々ペースを上げますよ。ついてこれますかな?」
あんぐりする僕の疑問もお構い無しに、サトツさんはすたすたと歩くように2段飛ばしで階段を上っていく。
くっ……さすがはダンディー。華麗すぎます…。(めまいがするよ…)
「いつの間にか一番前に来ちゃったね」
「うん。だってペース遅いんだもん」
あれ、この声は…。
聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、やっぱりゴンくんとキルア…?くんでした。
「あ、ゼロ!いないと思ったらこんな前に来てたんだ!」
「さっきの兄さんか」
「あ、そっか…自己紹介してなかったね。僕はゼロっていいます。よろしく。えっと…キルアくん?」
「あはは、キルアでいーよ。オレもゼロって呼ぶからさ。それにしてもゼロもさー、こんな試験じゃ逆に疲れない?簡単すぎてさ」
「そう…かなぁ?」
キルアくんからの唐突な問いかけ。
僕は念を知っているから全然何のことないんだけど、知らない人たちにはちょっとつらいと思いますが…。
僕はそう思って後ろで倒れていく人たちをチラッと見た。
「結構ハンター試験も簡単かもな。つまんねーの」
「わぁ、すごいポテンシャルの子供がいるよぅ; お兄さんヘコむよ…」
見たところ念も知らなそうなキルア。凝で見てみたけどオーラは垂れ流しです。
それで試験が簡単だなんて言うなら、基本的な能力がずば抜けてるんだね。…って、こんな子が念を覚えたらどうなるんだろう?
その人並みはずれた潜在能力と、子供ゆえの成長力でどんどん強くなっていくんだろうなぁ。僕なんか簡単に追い抜かれそうだ。
いや、この子達がもし試験に受かったら必然的に念を覚えることになるんだろうけど…。はぁ…。
なんかちょっと寂しいというか、ヘコむというか……。
「キルアは何でハンターになりたいの?」
「あ、うん、僕もききたいな」
「は?オレ?…別にハンターになんかなりたくないよ。ものすごい難関だって言われてるから面白そうだと思っただけさ。でも拍子抜けした。ぜーんぜんつまんねーし」
「………。」
「…そうなんだ……;」
さすが天才は違いますね…;ジャズもそう言いそうだなぁ…。
「ゴンは?」
「オレの親父がハンターをやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」
「へぇー、立派だなぁゴンは」
「なんだよゼロ、それじゃオレ立派じゃないみたいに聞こえるけど?」
「そりゃあキルアみたいなお子様に"暇つぶし"みたいな言われ方されちゃねー。どう聞いてもお兄さんには立派な志望動機には聞こえませんでしたよ?」
「あはは」
「ちぇ。…どんなハンター?親父って」
「わからない!」
「へっ?」
予想外の答えをゴンが元気いっぱいに言うもんだから、思わず僕は目が点になった。
「あははっ!お前それ変じゃん!!」
「そお?オレ、生まれてすぐおばさんの家で育てられたから親父は写真でしか知らないんだ。
でも何年か前、カイトって言う人に出会って親父のこと色々教えてもらえた。」
「へぇ…じゃあ会ったことはないんだ…」
「うん。カイトは自分のことみたく自慢気に、とてもうれしそうに話してくれた。それを見て思ったんだ。オレも親父みたいなハンターになりたいって」
すごくまっすぐな目で言う子だなって思った。誰かに似てるなって…。
できたらいつまでも、ずっとそのままでいて欲しいな。
これからどんな暗い、闇の世界を見ることになっても。まっすぐ、光のように…。
「「ゼロは?」」
「えっ!?;」
今度は突然僕に向かって振られて、あせった。
「『えっ!?』じゃねーよ!ゼロがハンター試験受けた理由はって聞いてんの!」
「あっ; あぁ…そっか; 僕もゴンみたいなカッコいい理由はないよ。
僕の相棒がプロハンターで、ハンターライセンスを持ってて。見ててすごく便利なんだよね。
相棒の手伝いで仕事をするときもライセンスがあるだけで信用度も全然違うし。
まぁ、その分変な連中に狙われたりもするみたいだけど…だから、欲しいんだ。あれ」
あははっと恥ずかしそうに笑って見せた。嘘は言ってない。―――――重要なことを省いただけ。
「「ふーん」」
「でもキルアよりは立派でしょ?」
「あっ!ヒデッ!どっこいだよ!!」
「あれでキルアとどっこいならちょっと傷つくよ…」
「あははは」
「見ろ!」
「出口だ!!」
そうして話してるうちに、いつの間にか目の前に光が見えた。
つづく
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すもも