朝日が昇って、―――午前9時半。
飛行船内にアナウンスが響く。
「皆様大変お待たせいたしました。目的地に到着です」
飛行船は高い塔の上に着陸した。
飛行船を降りた40名のテスト生の、その真ん中に、あの番号札を配り歩いていた案内人が立った。
「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。さて、試験内容ですが、試験官の伝言です。
"生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間"」
参加人数40名。第三次試験がスタートした。
「クラピカ、ゼロ知らない?」
案内人と飛行船が塔から去った後、小走りに駆けながらゴンがクラピカとレオリオの元へやってきた。
「いや、私はまだ見てないが…その辺にいるんじゃないか?」
「えー。クラピカやレオリオと一緒にいるんだと思ってた」
「ゼロとは昨日途中で別れたんでどこに行ったかは知らねーぞ?」
「そっかぁ…」
「おい、ゴン!」
クラピカ、レオリオと話していたゴンを、キルアが呼ぶ。
「何?キルア。ゼロ、見つけた?」
「あれ、そうだろ」
キルアは、遠ざかっていく飛行船を眺めているゼロの後ろ姿を指差した。
「あ、ほんとだ」
「バカっぽいよなー」
「お――――い!ゼロ――――!!」
ゴンはゼロの名を呼びながら今度は彼の元へと駆けていった。
「あ、ゴン」
「おはよっ!ゼロ。具合はもういいの?」
「はい。ぐっすり寝たら元気になりました。もう全然平気ですよ!」
ぐっ!と力こぶをつくるマネをするゼロ。昨日の、倒れる前まで見せていた笑顔だったので、ゴンは安堵した。
「まぁ、無理はすんなよ。つらかったらすぐ言え。な」
ゴンの後からレオリオとクラピカ、キルアの3人もゼロのところへと歩いてくる。
「おはようございますレオリオ、クラピカ、キルア。もう大丈夫ですから!今日もがんばりましょう!」
ニコニコと笑って言うゼロ。
そのゼロの顔を見て、キルアは早朝の男を思い出していた。
ジャズ、とネテロに呼ばれていたゼロにそっくりなあの男のことを。
ゼロに聞きたかった。「あの男はお前の何なんだ」と。
(何だよこれ…。やきもち…妬いてるみてぇ…)
そう思うと恥ずかしくて聞けなくなった。
「キルア?」
ゼロにそう呼ばれてハッとした。
なんとなく、自己嫌悪で黙るキルア。
「あの…;どうしました?昨日の事…、まだ怒ってますか?」
「きっ、昨日の事なんて別にっ…そんなん怒ってなんてねーし……」
「そうですか?それなら僕、嬉しいんですけど…」
「……ぅー」
何が嬉しいんだよっと突っ込みたかったが、なんだか話が噛み合わない気がして結局また黙り込んでしまう。
訳が分からず、「えと…;」と苦笑いを浮かべるゼロと、口をとがらせてそっぽを向いてしまうキルア。
変な沈黙が下りかけたが、空気を読んで割り込んだゴンによってそれは破られる。
「えっと、それよりさ!ゼロもキルアも、どうやってここを降りるか考えようよ!」
「あ、はい。そうですね;」
「うむ。制限時間もあるしな。72時間あるとはいえ時間は無駄に出来ん。手分けして脱出経路を探そう」
「そーだな。外壁をつたって降りるってのは無理みてーだしな」
先ほど外壁をつたって意気揚々と降りて行った男が、飛んできた複数の怪鳥に襲われて食われて落ちていってしまった。
外からのアプローチは無理。となるとどこかに隠し通路か何かが用意してあるのだろう。
手分けして探そう、と
5人は別れた。
「あ」
「どうしたゴン?」
「これ」
歩いていて何かに気づいたゴン。駆け寄るキルアに向かって足元を指し示す。
指差しながら床の一部をもう一度足で踏み込むとズズッと床が沈み込んだ。
「おおっ!」
「ね?」
ゴンとキルアはお互いの顔を見合わせて、にっかりと笑った。
「こっちにもあるな」
「ここらへん、集中してるね」
「全部で五つか。ちょうどいいんじゃね?」
「皆呼んでこようよ」
「だな」
ゴンが見回すと、少し向こうにゼロが見えたので、まず彼を呼んだ。
「ゼロ――!ちょっと来て!」
「はーい?なんですかー?」
ゼロはゴンの呼びかけに気づいたようで、手招きをしたら走ってくれた。が。
「ゴンくん、どうし」
ズボォッ!!
「「あ」」
キルアとゴンの目の前でゼロが床に消えた。
一瞬だった。
キルアとゴンはとっさに手を伸ばしたが、その手がゼロに触れることは無く、彼は塔に吸い込まれていった。
「「ゼロッ!」」
ゼロの落ちた床は下からロックされ、もうビクともしなかった。
「…いったた〜……」
ゴンに呼ばれたのでそばに行こうとした瞬間、足元の床を踏み抜き、妙な浮遊感に襲われた。
何が起こったのか理解するよりも早く、目の前の世界が暗転した。
目の前が暗くなる一瞬前に、ゴンとキルアがとっさに手を伸ばしてくれたのが見えたので自分も手を出したが、あと一歩届かず2人と別れることになった。
「落っこちるなんて…、情けないなぁ…」
フ――――、と長いため息と一緒にそんな言葉を吐き出すと、
「待ってたよ」
なんて言われたのでギクッとした。
……ひぃいっ!!なんか見た目がすごく痛いヒトがいるっ!!痛いっ!痛いっ!!見てるだけで痛いっ!!!
なんか変な針みたいなものを体中に突き刺したヒトがそこに立っていた。
「ここ、2人じゃないと進めないらしいんだよね。協力してよ」
「ひっ……。は、はひ……。」
手を伸ばされたのでうっかり後ずさってしまった。
うわ、僕印象悪い!
いや、だって…、怖いものは怖いもの!!いつか刺さりそう!いやだ!痛い!!(混乱中)
後ずさった僕を見て、その見た目の痛いヒトは動きを止めて、押し黙った。
その人はちょっと思案して、頭の針に手を伸ばし………
ずるるっ…。
い…?
ひ、ひいぃあ!!針を抜い…痛!!ギャッ!!イヤッ……イヤアアアァアア!!!
半泣き状態でパニックになる僕を無視してその人は体に刺さった針をズルズルと針を抜いていく。
「これでどう?」
腰を抜かしてへたり込み、思い切り目を瞑ってさらに視界を腕でガードしていた僕にその人は尋ねてきた。おそるおそる目を開く。
…………………………………う、うん?……だ、誰……?
先ほどのゴツくて痛い顔はそこには無く、なんとも美形のお兄さんがそこに立っていました。
「立てる?」
「…はぅ……。さ、さっきのひと?ですよね……?」
その人の手を借りて僕は立ち上がった。
「そうだよ。さっきも言ったけど、ここ、2人じゃないと進めないらしいんだ。協力してくれるよね?」
そう言って美形のお兄さんはじーっと僕を見つめながらも、背後の扉を指差した。
無表情なのに有無を言わせぬようなお兄さんのその目線に、僕はただコクコクと頷くしかなかった。
つづく
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ありきたりですがイルミ兄さんと絡んでみたり。
すもも