美形のお兄さんと共に部屋の両隅に設置されていた鍵を2人で同時に回して扉を開き、僕たちは塔の中へと踏み入った。
塔の中ではたびたび最初の扉と同じような、2人で鍵を回すタイプの扉とそれに伴う鍵探し、そして他にもいくつかの凶悪な罠が僕らを阻んだけれど――――
お兄さんもどうやら相当な念能力者だったって事もあって、特に大きな問題が起きる事もなく、僕ら2人はそれらを無事クリアしていった。
そしてそうやって塔を降りて行って、何時間か過ぎた頃。
もういくつめかも忘れた扉を、やっぱり2人で同時に鍵を回して開いた時。
それまで鍵を回すタイミング合わせ以外にまったく会話らしい会話が無かった僕らの間の沈黙が、突然破られた。
「ねぇ、キミなんて名前?」
細い道すがらそう尋ねられて、そういえば名乗ってなかった事を思い出す。
「ゼロですよ」
ヒソカさんのような害意が微塵も感じられなかったので、うっかりと言ってしまった。
「ゼロって、"始末屋ゼロ&ジャズ"のゼロ?」
「ぅいっ!?」
反応しきれなかった。
「違うの?そうでしょ?キミの相棒の顔、知っているよ。そっくりだから一目でわかったよ」
「え…、なん…?」
「そうでしょ?」
その有無を言わさぬ目で見ないでください…;
「そう、…ですけど……。や、じゃなくて…、なんですかその"ゼロ&ジャズ"って…!?"始末屋ジャズ"じゃないんですかっ!?」
聞いてない。聞いてないよジャズ!
たしかに僕はジャズのかわりに仕事こなすこともあるけど、僕は「手伝い」って名目でしか働いたことがない。しかも安全で簡単な一部の仕事だけ…。
何で僕の名前まで正式名称(?)に入っているの!?初めて聞いたよ!!
「カマかけただけなんだけど」
「ゲフッ!!?」
「"始末屋ジャズ"っていってもしらばっくれそうだったし。でもジャズの顔を知ってるのは本当だよ」
墓穴掘ってたみたいです…。
「ホントにそっくりだよね。兄弟なの?」
「う…;ふ、双子です…」
「ふーん。…キミも念使いでしょ?二次試験、ばっちり見させてもらったよ。キミ、放出系でしょ?」
「うっ…;」
その無表情な顔で、でも、じろじろ見定められた。
「あの、アナタのお名前は…?」
おそるおそる聞いてみた。
ジャズの顔を知っているとなるとこの人もよほど裏の人間。名前くらい知っておきたい。
「…今はギタラクル」
「…今は?」
「ハンター試験のあいだはね」
「じゃあ本当は何なんですか…?」
聞き返すと、ギタラクルさんはじっと僕を見てくる。
聞いてはいけなかったんだろうか…。
無表情で、こ、怖い…;
「あ、ああの、ややっぱりいいで」
「イルミ」
「ふぇ?」
その顔に見られてるのが怖くなって拒否しようとしたら、ギタラクルさんはその言葉をさえぎって答えてくれました。
「イルミ=ゾルディック」
「ゾルディック…って、あの、伝説の暗殺一家…!?」
「うん」
ぅわっ!初めて見た!!
そんな怖い人達ともかかわってるのかージャズは。
…僕、本当に手伝いでよかった…;
「でも試験の間はギタラクルって呼んでね。呼ばないと、殺すよ?」
「は、はい、わわかりました!」
やっぱり怖い…;
イルミさん…いやギタラクルさんと会話があったのは、そのときだけ。あとはもう、タワーを攻略すべく僕らは黙って歩き出した。
だって喋ってるとなんか聞いちゃいけないこととか訊いちゃいそうで怖いんだもん…;
ゴォン…
重苦しい音を立てて、ドアが開く。
開けたそこはいくつものドアが並ぶ、ホールだった。
アナウンスが響く。
「1番と301番、三次試験通過第2号!!所要時間、7時間3分!」
あ、ここゴールなんだ。
ゴンたちは…いない…か………………………………。
………。
…目の端に会いたくない人が見えるんですが気のせいでしょうか。
………うん!気のせいですよ!きっと!!
出来るだけ遠くのほうに移動しようと踵を返したら、両腕をとられました。
ギタラクルさんと、……ヒソカさんに。
「勝手にどこ行くの?ゼロ?」
「ボクらと楽しくお話ししないかい?」
「…ご遠慮したいです……」
「だめだよ。キミ、なんでイルミと一緒に来たのか、吐いてもらうよv」
「妬いてるの?ヒソカ」
「もちろん」
僕は2人の手を振り払って、2人のほうに向き直って言った。
「たまたまですよっ!たまたまっ…、おんなじ道に落ちただけですからっ…!」
「色々ゼロのこと、聞かせてもらったよ、ゼロの可愛い口から。ヒソカの言うとおり面白い子だねー」
えぶっ!?
…っちょ、意味深な言い方しないでくださいイルミさん!
そんなに色々なんて喋ってないじゃないですか!!
「……ふぅーん…」
ヒソカさんがイルミさんの発言にピクリと反応する。
目…、ヒソカさんの目が怖い…;
しかも睨まれてるのはイルミさんではなく、僕。
何でですか!?
「…ボクと話すのは嫌なクセに、イルミにはなんでも話すわけ?ゼロは」
「あああの…なっ何でも話してませんッ…から!!」
ヒソカさんの目が怖くて僕はそれしかいえなかった。
「ゼロの秘密はオレのもの」
イルミさん―――!!!(半泣き)
イルミさんのその発言を聞いて、ヒソカさんは目を細めて殺気を放ち始める。ひいい!
「…………………へ――――――…。そんなにボクと戦りあいたいわけ?イルミ」
「それは面倒だから嫌だなぁ」
「……………。じゃあこうしよう。…ゼロ。」
「ひぃっ…!」
「イルミに話したこと洗いざらい吐いてもらおうか」
そう言ってヒソカさんは僕を壁際に追い詰めてくる。
目が本気だ…。僕、ここで死ぬかも。
「うっ…。う…」
あまりの緊張感に、僕は言葉が出てこなかった…。
「吐かないなら、……キスするよ」
「正直に言っちゃえば?ゼロ。始末屋ジャズの相棒だって」
ヒソカさんの発言から間髪いれずにあっさりと答えた。
僕じゃなくて、イルミさんが。
「………イルミ。キミ、本気でボクに喧嘩売ってるだろ?…ボクはゼロの口から聞きたかったのに」
「オレはヒソカとゼロのキスシーンなんか見たくなかっただけだよ」
「……本気でいつかキミとは決着をつけたいな」
「そう?ゼロを賭けてっていうならオレも譲らないけど」
ひぃい…。
なんか訳のわかんない話になっていませんか…!?
これ、僕のせいなんですか…?
ゴン、キルア、は、早く来て……;
そんな僕の祈りもむなしく、ゴンたちは制限時間ぎりぎりまで現れなかった。
つづく
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すもも