天空闘技場を上り始めて、一週間がすぎた。
「うわ、ファイトマネーが見たことも無い数字になってる…」
「つい一週間前までは無一文だったのになー」
ゴンたちは一週間で、150階までやってきていた。
「ゼロってどこに居るんだろね?」
「180階で待ってるみたいだぜ。勝っても190階には現れないらしーよ」
「へぇー。お金たまりそー。…ズシもさっきテレビに映ってたね」
「見た見た。あいつまだ50階に居たな」
一週間前に知り合った少年、ズシ。
キルアは、50階でズシと戦ったときのことを思い出した。
何度殴っても、倒せなかった。それに―――――
「キルアがすごく嫌な感じがしたって言う…"レン"って一体なんだろうね?」
"レン"
ズシとの対戦の後、ウイングが言っていた言葉。
―――――言ったはずだよズシ。『レンはまだ使うな』と―――――
ズシが構えたとたん、兄であるイルミと同じ"イヤな感じ"がした。アレは一体なんなのか。
"レン"
いくら考えても、疑問の答えは出ない。
「多分…もっと上の階に行けば同じような奴が居るかもしれないから……」
「それよか、ズシかゼロに聞くほうが早いんじゃない?ゼロもズシと同じ流派なんでしょ?」
そういえばそんなこと言っていたような。
「よっしゃ、ゼロを探せ!!」
「うん!!」
180階で二時間近く探してみたものの、ゼロが見つからなかったので結局ズシに聞くことにした。
50階まで降りてズシを探していたら、比較的すぐに見つかった。
「"レン"はヨンタイギョウの一つっす。ヨンタイギョウとはシンを高めシンを鍛える全ての格闘技に通じる基本っす」
「「は!?」」
ズシの言ってることが全くわからない。キルアとゴンは思った。
((ゼロに聞けばよかった!!))
「テンを知り、ゼツを覚え、レンを経て、ハツに至る。要するにこれ全てネンの修行っす!!…以上っす!!」
「わかんねーよ!!」
「うわぁ、もう150階に来てる…」
いつもモニターに映り、注目されているゴンとキルア。あんな子供達が毎回一撃勝利を重ねていると思えば当然だ。
たった一週間でゴンとキルアが150階まであがってきたことを知り、ゼロは150階に彼らを探しに行くことにした。
…全くどこにいるか見当もつかない。受付で聞いた彼らの部屋にも居なかった。
一体どこに行ったのか?
180階で勝利して、190階で受付だけ済ませ対戦には行かない。不戦敗で180階に戻り、また対戦を重ねる。
そうしてゼロは、ハンター試験の前にここにいたときも荒稼ぎしていた。今も、ゴンとキルアを待つためにそれを繰り返している。
このまま彼らは200階に入るのだろうか。
自分は……どうすればいいのか。
ゼロは決めあぐねていた。
しばらく探し続けていると、モニター内にズシを発見したのでなんとなく50階まで降りてきた。
「"レン"はヨンタイギョウの一つっす。ヨンタイギョウとはシンを高めシンを鍛える、全ての格闘技に通じる基本っす」
「「は!?」」
角の向こうから覚えのある声が聞こえたのでそちらに足を向ける。
「あ、やっぱりいた」
ズシと…、ゴンとキルアもいた。けれど………
四大行。―――念の基本。
なんでゴンとキルアがそれを―――?
声をかけようとしたとき、後ろから、いつのまにかそばに来ていたウイングさんに止められた。
「―――ズシ!貴方いつから人に教えられるほど物を修めたのかな?」
そういってウイングさんが出て行く。僕も後ろからついていった。
「「あ!ゼロ!!」」
ゴンとキルアに、片手を上げて挨拶をする。
僕は彼らに教えてあげられない―――――
心が痛むのをおさえて、精一杯笑ってみせた。
「ゴン君、キルア君。昔の訓示に『物事は中途半端に知ることで、何も知らないよりわからなくなる』とあります」
ウイングさんが諭す。
まだ、彼らではいけないんですか?
僕は彼らがどれほどの人間か知っているのに――――
僕は彼らに教えてあげられない―――――
「でもオレは今知りたいんだよね。それは兄貴の強さの秘密にもつながるから!」
「……君のお兄さんもネンを使うわけか」
「ああ。…ねぇ、今教えてくれよ。
オレだって半端に知るよりキチンと理解したい。あんたがちゃんと教えてくれれば、オレも下手に我流で覚えようとはしない。
…………それに、あんたに聞かなくても…ゼロに聞くって手もあるんだぜ?」
「………………わかりました。私の宿へ行きましょうか」
ウイングさんの宿で、
ウイングさんは―――――
「燃」を説いた。
「ありがとうございました!」
ゴンは礼をして出て行ったけど、キルアは納得しつつもなんだか釈然としない様子だった。
僕は…ウイングさんのもとに、残った。
「さあ、ズシ、今日の行を始めましょう」
「……師範代。どうして2人にウソ、ついたんすか?」
ズシがウイングさんに聞いた。
「違うんですズシ…。あれも…ウソじゃなくて…」
僕が言った事に、ズシがきょとっとしていた。
門下生でない者に『念』は教えられない。
念は凶器にさえなりうるもの―――凶器以上の力―――だから。
それゆえ、方便で説くのが『燃』。
「…ゼロさん、貴方のことは先日ネテロ会長から聞きました。貴方の弟さんが会長の弟子で、貴方はその弟さんから念を学んだのですね」
「…はい……」
「貴方が彼らを推薦するならば間違いはないでしょう。ただ…私はまだ、彼らを知らなさすぎる。……いましばらく、時間を下さい」
「でも…、彼らはすぐにも200階に到達してしまいますよ?………"洗礼"を…受けるかもしれない……そうしたら……だから…」
「……貴方の気持ちもわかりますよ…。大丈夫、それまでには決めます。……だから、泣かないで下さい…」
ウイングさんの言葉に、僕はハッとなった。
いつのまにか、涙がこぼれていた。
「ゼロ先輩……」
「…僕が教えてあげられれば………」
涙を拭うと、ウイングさんは黙って頭をなでてくれた。
数日後、ゴンとキルアは200階へ…到達した。
つづく
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そろそろヒソカにも会いたいです。
すもも