double style ◆29:ひとやすみ




ゼロが会場に着いたときには、ゴンはギドの独楽をひたすら避けてるところだった。

激しくぶつかり合うたくさんの独楽。ゴンはそれを紙一重で全てかわしていく。ギドも観客も、唖然とそれを見ていた。



そしてその攻防が一時間も過ぎようとしたとき

独楽を避け、跳んだ先で逃げ場を失ったゴンは"絶"状態で独楽の一撃を食らった。



右腕と肋骨を折る大怪我だった。





「全治4ヶ月だとさ。このドアホ」

「ゴメン」


今は治療も終わり、与えられた部屋で説教をするキルアにぺろっと舌を出して謝っているゴン。

一歩間違えば、"洗礼"を受けた『彼ら』と同じになってしまったかもしれないのに、ゴンはけろっとしていた。


「オレに謝ってもしかたねーだろ!!一体どーなってんだ、この中はよ!?あ!?」

「う、あうっ」

事の重大さがわかっていないと、ゴンのおでこをつんつんつつきながらキルアが言った。



「ゼロも突っ立ってないでさー、何か言ってやってよこのバカに!このバカに!!」

「まぁ、大事無くてよかったですね」

「ちが―――う!!」


「あははは。大丈夫だよキルア。何回か攻撃を受けてみて…まあ急所さえ外せば死ぬことは…」


笑ってそう言うゴンをキルアはじっとりと見つめ、そしてそのゴンの折れた腕にズンッと勢いつけて足を乗せた。

それが骨に響いたのか、ゴンは 「ふおぉぉ〜〜〜〜〜〜〜;」と悲壮な声を漏らしながら、ひどく苦しみ悶えるのだった。


「はは、いくら反省してないからってそれは可哀想ですよキルア」

「ううう、ゼロも怒ってる〜」

「あはははは、そりゃ当たり前でしょう」


顔はにこにこしているがなんとなく雰囲気が怒っているゼロ。


(ちょっと怖い…;)

ゴンは思った。



「もっと怒ってやればいいのに!2人とものんき過ぎ!!特にゴンはアホ!!ドアホ!!!」



そんな風にキルアが延々怒鳴っていると、そこにドアのノック音が響いた。


ゼロが開けたドアの向こうに立っていたのは、ウイングだった。

顔は真顔で、非常に怒っているとすぐに見てとれた。


ゼロが引き留める間もなく、ウイングはつかつかとゴンのベッドに向かって行く。

キルアに至ってはとばっちりを避けてか、引き留めることもせずに知らん顔をするだけだった。





「ウイングさん……あ、その……ごめんなさ」


パンッ!!



謝ろうとしたゴンの先手をとって、その頬に平手打ちを喰らわせたウイング。

乾いた音により一瞬、部屋の中の時間が止まった。



「私に謝っても仕方ないでしょう!!一体何を考えてるんですかっ!!

念を知らずに洗礼を受けた人たちを見たでしょう!!君自身、ああなっていても全くおかしくなかったんですよ!!」

「あ、それオレが言っといた」

まくし立てるように怒ったウイング。みんな考えることは同じだったらしい。


ウイングは一つため息をついてゴンの肩に手を掛けた。


「まったく…この程度で済んでよかった。本当にもう………」


心底心配したような顔を見せるウイングの姿に、今度こそゴンは反省したようだった。



「…ウイングさん……ホントにごめんなさい」


「い―――――え!!許しません!!」

「うぐ……;」


それまでの心配した顔から打って変わってウイングが再び怒りマークを額に浮かべた。

その有無を言わせぬ迫力に、ゴンは言葉を詰まらせる。




「ゴンくんの完治はいつ位になるか知っていますか?」

「あ、それなら…」

と…ウイングの質問にゼロが答えようとしたとき、キルアがウイングに見えないように、ゼロの服の裾を引っ張り制止させた。

突然の事にびっくりしてまごつくゼロに代わって、キルアがウイングへと答える。



「医者は2ヶ月って言ってたけど?」

「わかりました」



「(……キルア?)」


…え?2ヶ月?4ヶ月じゃなかったでしたっけ…。


とゼロがキルアのほうを向くと、キルアは悪魔のようなイタズラな顔で指を口に当てた。

それを見てゼロはふっと笑う。ウイングにはバレないように。



「(全くもう…)」


背後で行われるキルアとゼロのそんなやり取りにも気づかず―――ウイングはゴンと向き合い、びしりと2本の指を立てて見せた。


「……ゴンくん!」

「は、はい!;」


「今日から2ヶ月間、一切の試合を禁じます!!念の修行、および念について調べることも許しません!

…これが守れないようであれば君に教えることは、もう何もありません。………どうですか?」


「わかった!ちゃんと守るよ。約束する」



ゴンの返事に頷いたウイングは、次いでゴンの左小指に『誓いの糸』をかける。


―――『指切り』の誓いのように。



「これを見て常に約束を忘れないように」

「うん」


ゼロはその様子を見て、にこりと笑った。






「キルア君、ちょっと…」

「ん?」


と、ウイングがキルアを連れ廊下へ出て行き、部屋にはゼロとゴンだけが残された。


ゴンはベッドの上で、ただじっと小指の糸を見つめていた。






「ゼロ……」


飲み物でも出そうと、部屋をうろうろしていたゼロにゴンが声をかけてくる。


「うん?…なんですか?ゴン」

歩みを止めて、ゼロはベッドの脇の椅子に座ってにこやかに笑った。



「ゼロ…はさ、その、前から………念、使えたの?」

「………そうですよ」


「そっか……。………あ、ううん、ちょっと聞きたかっただけだよ!…約束もあるからさ…」


ゴンの言葉に思うところがあったのか、ゼロの表情が少し曇る。

それを見てゴンは慌ててぶんぶんと手を振り取り繕った。


今しがたしたばかりのウイングとの約束をこんなにすぐ反故にするのかと、ゼロの瞳に責められたような気になったからだ。

その瞬間にゼロの思考をよぎっていたのはゴンの心配したこととは全く別の事だったのだが―――ゼロはすぐに頭を切り替え、ゴンの気持ちに寄り添う。

ニコリと笑って、ゴンの頭をなでてあげた。



「大丈夫。強くなりたいのはわかりますよ。…でも焦ることはないですから。10段飛ばしよりも一歩一歩…。今は…、今出来ることをしましょう?

………ジュースでも出しますか?」


「うん。お願い」

「はい」


立ち上がって、部屋に設けられた、簡単なものなら作れそうな程度の小さなキッチンに向かったゼロ。


コップにジュースを注いで戻ると、ゴンはベッドの上に座ったまま目をつぶっていた。



(ゴン…)



それが何を意味するのかゼロはもちろん知っている。

ゴンの集中を乱さないように静かに、ベッド脇の台にコップを置いた。


そして自分も、椅子に座ってゴンと同じように目を閉じた。









「おい、ゴン…」

しばらくするとキルアが戻ってきた。


ゼロは目を開けて、キルアに向かって指を口に当てる。

キルアも、そのゼロと…ゴンの様子を見て『それ』を理解したようだった。


ひとつ笑ってから、キルアもまた床に座って目を閉じる。





ゆっくりと静かに、1日が過ぎていった。







つづく


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30話は閑話です。

すもも

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ももももも。