double style ◆48:脱出と邂逅




「まったく。やっぱたいしたこと無いね」

「でもまだお宝も手に入って無いじゃん」


気球に乗ってアンダーグラウンドオークションの会場を後にする7人の蜘蛛。


手はずどおりオークションに来ていた客と警備の連中は皆殺しにした。

だが競売品はかけらも見つからなかった。





「ジャズを捕まえた時のほうが断然おもしろかたね」

「それは言えてんな」

フェイタンがぼそりと呟いた言葉に他の6人も頷く。



ここ最近で一番の収穫だと思った。

うわさに違わずとびきり美しい男だった。その上おそらく自分達と同じくらいに強い。

ある程度思考が読めそうで、でも何を考えてるのかわからない。

その念能力も含めて、興味の尽きないミステリアスな男だった。


ホテルでの逃げを決心したときにみせた、極上の笑み。

クロロにキスしたときの悪戯っぽい妖艶な微笑。




欲しいと、思った。


あの顔を、自分だけに見せて――――





「あーあ、もっと早くに会ってればなぁー」

シャルナークの言葉が、夜空に消える。


ウボォーギンから何度も話を聞いていたが、あれほどの人物とは思わなかった。

クロロに手をつけられる前にちょっとでも彼の目に止まっていれば、少しはいい思いが出来たかもしれないのに。


「ウボォーが止めるからだぞー」

ちょっと恨めしく言ってみた。



前にウボォーギンから、これからジャズに会いに行くとの話を聞いたときに自分も会いたいといったことがあった。

だがそのときはウボォーギンにジャズと遊べなくなるから、とそれだけの理由で止められた。


「わぁるかったって、拗ねんなよ」

ウボォーギンが少し困ったように笑って言った。



「まだこれからいくらでもチャンスはあるね」

別にベタベタって訳でもない。

隙を見て奪えばいいと、フェイタンが言う。




蜘蛛の巣にかかった以上、そうそうは逃れられまい。


もう、アレは蜘蛛のもの。





「それよか団長にオークションの経過報告したほうがいいんじゃねーか?」

フランクリンのもっともな意見。


ウボォーギンがクロロのケータイへと電話をかけた。




「…ああ、団長か」

『…どうだった?』

「それが襲撃そのものはうまくいったが、品がねぇんだ」

『……品物が無い?』


微妙にクロロの声が疲れているのは気のせいだろうか。

そう思いつつもウボォーギンは通話を続けた。


「ああ、金庫の中には何も入っていなかった。

唯一事情を知ってたオークショニアによると一度金庫に入れた品を数時間前にまたどこかへ移したらしい。

――――まるで予めこういう事態が起こることを知ってたみたいに」

『ほお…』


「あまりにタイミングがよすぎる。オレ達の中にユダがいるぜ」

『いないよそんな奴は。ジャズもずっとオレの前にいるしな。

…それにオレの考えじゃユダは裏切り者じゃない。

ちなみにユダは銀30枚でキリストを売ったとされてるが――――オレ達の中の『裏切り者』はいくらでオレ達をマフィアに売る?』


「………」


『メリットを考えろ。マフィアにオレ達を売って『そいつ』は何を得るんだ?金か?名誉か?地位か?

…それで満足したと思えるような奴がオレ達の中に本当にいるのか?』


「…………さすがにそんな奴はいねぇな」

『だろう?それともうひとつ解せない点がある。密告者がいたと仮定するとあまりに対応が中途半端だ。

A級首の蜘蛛が競売品を狙いに来るって情報が本当に入っていたら、もう少し厳重に警備しててもいいんじゃないか?

お前達の話を総合………ん、ちょっと待て』

「…あ?どしたよ団長?おい、だん…、………。」



「どうしたの?」

「何か?」

ウボォーギンが不自然に言葉を切ったのでシズクやフェイタンがウボォーギンを見た。


「いや…、ん。」

言うより聞かせるほうが早いと思い、ケータイを耳から離して他の奴らにも聞こえるように差し出した。

ウボォーギンの比較的近くにいたフェイタン、マチ、シャルナークが耳を近づける。


『…たとえ裸のままでもオレが目を放した隙に逃げるだろ、お前は。

オイ、てめぇ…クロロ!ざけんな、はなせっつーのに!!


クロロとジャズが争ってるような声が聞こえる。

クロロの声はあくまで平静だったが、ジャズがとにかく声を荒げていた。


「裸!?裸って何!?」

「大体想像はつくけど……;」

「団長、手早すぎね」



シャルナークが『裸』の一点に反応する。

フェイタンとマチは団長のしていることが想像できて、あきれた。


ウボォーギンはケータイを持ち直し、恐る恐る聞いてみた。

「……何してんだ団長?」

『聞きたいか?』

さらりと返すクロロ。

ウボォーギンはなんだか冷や汗が出た。



「…いや、いい……(怖いから)」



『そうか。じゃあさっきの話の続きだが…』

クロロは何事も無かったかのように話を続けたが、ウボォーギンにはしばらく後ろでジャズが吼えているのが聞こえていた。

やがて疲れたのか、静かになったが。




「…にしても団長怖すぎね。いつの間にそんな事になてたよ?」

通話を続けるウボォーギンを尻目にフェイタン以下6人が騒ぎ出す。


「アタシらが出てってからでしょ?」

「…またジャズがアホやらかしたんじゃねーか?団長に冗談なんか通じねーのに…」

ジャズを知るノブナガが以前自分がやられたことのあるジャズの『アホなこと』を思い出してぼそりと言う。


「うあー!オレ、残るべきだったー!」

「まあ過ぎちまったモンはしょうがないだろうが」

頭を抱えて叫ぶシャルナークをフランクリンが微妙な顔でいさめる。

「ヒソカでも止められなかったんだ…」

しみじみとシズクが言った。


「そうだよ!なんでヒソカは止めなかったんだよー!」

シズクの呟きにぴくりと反応したシャルナークはヒソカに八つ当たりを始めた。


「団長とジャズに共謀されたら誰にも止められないんじゃない?」

「まさに最強タッグだな…」



夜空にあきれたため息が上った。



















そして深夜。


「っつ…くそ、クロロの野郎ムチャしやがって……」

すこしふらつくようにジャズが真夜中のヨークシンを駆けていた。



全ては逃げるための算段。

2人きりにさえなれれば、逃げる手段はいくらでも思いつく。

油断を引き出すために、ジャズはクロロを誘い、体を許した。


最初は嫌味なまでに全く隙を見せない男だったが、それでも何度か体を重ねていくと気が緩む一瞬が出来てくる。



――――射精の瞬間。



ジャズはそれを狙うために何度もクロロに付き合ったのだ。

周到に隠で姿と気配を消したリバイアサンで背後からクロロを一発ぶん殴り気絶させた。

ジャズの腕力はそれほど高くは無いが、リバイアサンのパワーは生身のウボォーギンといい勝負が出来るくらいに高い。

それでもクロロほどの使い手ならすぐに気づくだろうが、自分が逃げるには十分なくらいの時間を稼げる。



蜘蛛のような鍛えられた念能力者と比べればだが、もともと持久力には欠けるジャズ。

戦闘直後によく眠くなるのはそういう理由もある。


一つの体で2人分の生活をしているうえ、昔から食事を摂らなかったせいで今でも少食。

体が軽い分スピードには自信あるが、体力にはいまひとつ難がある。



駆けていた足もだんだんと歩みに変わった。



「……ちょっと…疲れたな………」

立ち止まって壁にもたれた。





疲れた。





抱かれることなど慣れている。

ゼロに代わって痛みを受けるのが自分の役目だから。



でもさすがに、あれほどの男に何度も抱かれれば体力の無い自分なんかひとたまりもない。

意識を飛ばしてしまえば楽だったが、それでは当初の目的が果たせない。

引きちぎれそうになる意識を必死につなぎとめ、ジャズは待った。何度目かのその瞬間を。



そしてリバイアサンの具現化・操作、挙句に隠まで行って脱出した。

ジャズの疲れは限界に近い。

とっとと自分のホテルに帰って眠りにつきたい。




「ったく…しつけーんだよクロロの奴…」

あんないい女共はべらしてるくせに、相手にされてねーのかと突っ込みたくなるほどクロロは執拗にジャズを求めた。

まぁ確かに気の強そうな女共だったし、そのおかげで逃げられたとも考えられるのでなんともいえないが。




明日の朝一でヨークシンを離れよう。

せめてアンダーグラウンドオークションの終わる4日までは。


クモのアジトに滞在中に聞いた話では、奴らの狙いはいまのところアンダーグラウンドオークションの競売品のみ。


グリードアイランドが出品されるサザンピースのオークションは6日から。十分だろう。


またクモに捕まったら今度こそ逃げられないだろうから。





「ふう…」

一息ついて、また歩き出した。








ウォオオン!!

「うおっ!!アブねっ!!!」

突如鳴り響いた轟音。

ジャズの背後から猛スピードの暴走車が突っ込んできたので、脇に飛び込んで避けた。


「アブねーだろが!!オイ、しかもシカトかよ!!」


跳び避けて文句を言ったが、その車はスピードを緩めることなく走り去っていった。

後部座席に乗っていた奴がこっちを振り返ったのが見えたが、それきりだった。





「ねぇっ、ちょっと今の大丈夫なの!?」



暴走車の運転手はクラピカ。

スピードを落とさずに十字路を曲がった先で、人を轢きそうになった。

それを見て悲鳴を上げた助手席のセンリツがその人間の安否を聞いた。


「いや、大丈夫だ。避けてやがる」

後部座席のスクワラも同様に驚いたようでとっさに振り返りその人間の安否を確認した。そしてそれを口に出す。



「ちょっとクラピカっ!!?」

「大丈夫だ。問題ない」


(どこが問題ないのよっ!!全然落ち着いてないわ、この人!!)



センリツはクラピカの、幻影旅団に対する想いを知っている。





底知れぬ深い怒りと憎悪。




クラピカは幻影旅団に滅ぼされたクルタ族の最後の生き残り。

仲間の仇を討ち、仲間の奪われた「目」を取り戻すことが今の彼の全て。


そして今、その旅団員の1人を捕らえているのだ。


いくら平静に見えても心情はそうはいかない。

必死で感情を抑えているというのが、心音を聞き分けることが出来るセンリツには手に取るようにわかる。

それをぶつけるようにクラピカの運転は荒かった。















ヨークシンにあるノストラードファミリーのダミー会社の地下。

そこに、捕らえた旅団員を拘束、監禁した。

「こちらはノストラードファミリーのダルツォルネだ。競売を襲った賊の1人を捕まえたのでお渡ししたい」

クラピカたちの上司であるダルツォルネはコミュニティーに連絡を取った。

賊を捕らえた組織には褒美が出されるとのことだった。



「これからコミュニティーの連中が来る。みんなはもう少し休んでおけ。…念のためそいつには筋弛緩ガスをあと3人分かがせとけ」

地下へと戻り、部下達にそう告げる。センリツたちは上へと戻った。

廊下でセンリツは、自分達とは別方向にすたすたと歩くクラピカに声をかけた。


「あ、クラピカどこ行くの?」

「センリツ、すまない。ちょっと出てくる」

それだけ言ってクラピカはビルから出て行った。




地下ではダルツォルネが1人、捕らえた賊―――幻影旅団の一員であるウボォーギンを眺めていた。


身動き一つ取れない状況、これからマフィアンコミュニティーに引き渡され拷問の末殺されるというのに、この男のオーラには一切の乱れが無い。


自分も念能力者として相当鍛えられてはいるが、ダルツォルネは内心この男を早くコミュニティーに引き渡してしまいたかった。

この男…"あいつら"は危険すぎる。これ以上傍に置いておきたくない。





トゥルルルル


部屋に備え付けてある電話が鳴る。

おそらくコミュニティーの連中が到着したのだと思い、受話器をとった。



『…捕まえた奴を引き取りにきた』

「わかった。地下2階だ」




受話器を置いて、ウボォーギンに向かって言った。


「これでお前も終わりだな」



ウボォーギンはそれを聞きながら天井を眺めていた。

見知ったオーラが、近づいて来るのを感じながら。






つづく


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えろ番外編じゃないのにまだえろい…

すもも

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ももももも。