朝。
「ん…んっ……」
ゆっくりと体を起こしたゼロ。
体がぎしぎしと傷む。
「ん…珍しいな、ジャズがこんなに疲れてるなんて……」
シンプルなホテルの一室、そのベッドの中。
ジャズと交代して…いつもなら裸で目覚める朝なのに、今日はジャズの黒い服を着たまま。
まるで仕事の後に疲れてそのままベッドに潜り込んだような格好でゼロはその日目覚めた。
どことなく体から疲労感が抜けてない。ゼロはもう一度ベッドに体を横たえた。
ジャズに何度呼びかけても、返事は無い。よほど深い眠りについてるらしかった。
よっぽど難儀な仕事だったのかな?などと思いながら仰向けに寝なおすと――――
首に違和感。
手でなぞると、金属的な感触と首に巻きつくリボン。
それを外し、見上げてみると……
それは銀の十字架のついたチョーカーだった。
ゼロはくすりと笑う。
(…まだ…つけててくれたんですね……)
それは昔、自分がジャズにあげた物。
いつもゼロを守ってくれるジャズ。
そのジャズにも、神の加護がありますように―――と、ゼロからジャズへプレゼントした物。
いつもバッグの片隅に入っていたから持っていてくれてるのは知っていたが、今でもずっとつけてるなんて思ってなかった。
ゼロはゆっくりと起き上がって、それを大事にバッグへとしまいこんだ。
部屋の隅においてあったバッグの脇に自分の2本の剣と"寝る"前に着ていた服が置いてあったので、とりあえずそれに着替えることにした。
(後で新しい服、買ってこよう)
などと思いながら着替えていると、テーブルの上のメモが目に入る。
見ると書きなぐったような、ジャズの字。
同じ体を使っているのにどうしてこんなにも自分の書く字と違うのだろうと思いながら、そこに書かれた文字を読む。
"クモに気つけろ"
意味がよくわからなくて裏返してみたが、裏には何も書いてない。
たったそれだけしか書いてなかった。
(何が言いたいんだろう…?)
考えてもわかるはずは無く。
何度かジャズに問いかけてみたが、起きる気配も無い。
(まぁ…いいか)
何のことかよくわからないが、ゼロはとりあえず"何か「クモ」に気をつければいい"と納得してメモを置いた。
「ところで一体今いつなんだろ…」
バッグから自分のケータイを取り出して電源を入れ、日付を確認する。
―――――9月3日
………。
「ぇえ!?」
9月3日。
何度確認しても、9月3日。
半年前、彼らと待ち合わせたのは9月1日。
あわててゼロはメールセンターに問い合わせた。
十数件のメールが届いていた。
ゼロは青くなりながらメールを確認する。
まずキルアとゴンから、新しくケータイを買ったというメールが1件ずつ。
それ以降は、キルアから"早くこい"だの"何やってんだ"とせかす内容のメールが3件。
レオリオからは、"いつまでたっても連絡が無いから"と、どことなく心配したような内容のメールが2件。
クラピカからは、"ゴンたちからゼロが来ないことを聞いたがどうしたんだ?"という内容のメールが1件。
ゴンからは、来ないことを心配するメールと、ケータイを買って以降の自分達の状況を逐一知らせるメールが何件かきていた。
お金が全然足りないから、腕相撲で稼ぐことになったこと。
その腕相撲で275連勝したこと。そのときにすごい女の子に出会ったこと。
レオリオが『纏』を覚えたこと。
そして、賞金のために幻影旅団を捕まえることになったということ。
――――幻影旅団。
特A級の犯罪者集団ということはゼロでも知っている。
それがどれだけ危険なことなのかも。
神妙な面持ちで、最後のメールを開けた。
――――――――――――
件名:ゴンだけど
――――――――――――
本文:旅団を捕まえる資金のために
ライセンス、質に入れちゃった。
――――――――――――
ゼロはそれを見た瞬間に勢いよく噴いた。
「あーっ!!もう、何考えてんですかーッ!!」
そしてそれはもうソッコーで、ゴンが知らせてくれた番号に電話をかけた。
ピルルルルッ
「わ」
「ん?」
「お?」
突然鳴り響いた音に、ゴン、キルア、レオリオが反応する。
サザンピースオークションのカタログを買った帰り、
これからホテルに戻り旅団の目撃情報を伝言メッセージで募集しようという話をしていたときに、ゴンのポケットの中のケータイが鳴った。
「誰だよゴン」
キルアにそう聞かれ、ゴンもケータイを取り出し画面を見た。
「……あ!!ゼロだ!!」
「おっマジか!?」
「ゴン、早く出ろ!」
「うん!!」
ずっと待っていたゼロからの連絡。
9月1日の集合日よりも2日遅れてやっとゼロから連絡が来た。あわてて電話に出る。
「もしもし!?ゼロ!?いままでど」
『ゴンですか!!?いつもいつも何考えてるんですか君は!!』
喋ろうと思ったとたん、ゼロの大きな声が響いた。
突拍子も無くゼロに怒鳴られたゴンが目を点にした。レオリオとキルアも、自分達のところまで響いたゼロの声に驚く。
『メール見ましたよ!!ライセンス売っちゃうなんて…ああもう!!』
電話の向こうで荒れるゼロの声。ゴンがハッとする。
「ちっ違うよゼロ!売ったんじゃないよ、質に入れただけだし…」
『おんなじじゃないですか!!いくらで質に入れたんです!?』
「あぐ…;…あの、い、1億……」
『い、いちお………』
ゼロの言葉が途切れた。
ゴンはなんだか自分がとてもいけないことをしているように思えてきて冷や汗が溢れてきた。
するとキルアがゴンからケータイを取り上げ、怒鳴る。
「ゼロのほうこそ今まで何やってたんだよ!!オレらがどんだけ心配してたと思ってんだ!!」
『あ………ごっ、ごめんなさい………あの………その…』
キルアに怒鳴られてゼロがどもった。キルアが黙って聞いている。ゴンとレオリオも電話に耳を近づけた。
『その……すみません…;』
「何、理由は?」
強い口調で言う。
『う〜〜……あの、ジャズに……監禁されてたん…です……』
「はぁ?監禁!?なんだよそれ、大丈夫なのかよ!?」
"監禁"などという物騒な言葉に、ゴンとレオリオは顔を見合わせた。
『大丈夫ですよ。すみません、いままで連絡取れなくて』
「これから来れんの?っつか、今どこ?」
『あ、え―――と……』
がさがさとなにか探している音がする。キルアたちは返答を待った。
『あー、今ヨークシンです。…んと、これからご飯食べて色々準備したら合流しますよ。多分昼すぎくらいになると思います』
「そか、じゃあオレ達のホテル教えるからそこに来てよ」
『はい』
ホテルの場所を伝えて通話を切って、ゴンにケータイを返す。
「にしてもよかったね!」
ゴンが素直に喜んだ。
「そだな、ゼロがいれば旅団捕まえんのも少しは楽になりそうだし」
念使いとしても、確実に自分達より強いであろうゼロ。
頼もしい味方がちょうどいいときに現れてくれたと3人は思った。
「後はクラピカさえ連絡取れれば全員集合できるね!」
「だな」
「じゃ、ホテルに戻って情報提供求める伝言流すか」
「おう」
レオリオの提案にゴンとキルアも頷いて、歩き出した。
「ふう…」
通話を切って、ゼロはため息をついた。
とっさに出たウソ。
監禁されてたなんて言ってしまった。ジャズが起きてたら怒られたろうな。
また、嘘が増えていく。
念能力者として、早々簡単に話せることではないとはいえ、彼らにつく嘘が増えていくのはやはり心苦しい。
彼らを信用していないのかと問われれば、自分は首を横に振る。
けれど―――――。
いつか必ず話そうとは思ってる。
でもあと一歩の勇気が出ないのは、ただ単に僕が臆病なせい―――?
(ごめんなさい…)
とりあえず朝食をとって、服を買いにいこう。
みんなの顔が見れたら、話せる決心がつくかもしれない―――――
そう思って、部屋をあとにした。
つづく
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とりあえず50話突破おめー
すもも