double style ◆58:仲間




「また、いつでも会いに来いよな、ゼロ。…ジャズもな」


土産もってこいよ、なんて軽い冗談言いながら………楽しそうに笑ったジンの顔が、ひどく懐かしい―――――








ずっと、会いたかった。




ジンに会いたかった。

ゼロを助けるために、またジンに会いたい。




なのに―――


オレに"その能力"は無くて…






もう…ずっと会えないと


アイツももう救えないと……思った。












けど、それは本当は違って。



お前は、もう見つけていたんだな………。







大切にしてた思い出と重なる優しさは、もうすでにアイツのそばに………




こんなにも近くにあったのか………
















「ジャズ…」

「ん…」


オレは少し眠っていたらしい。呼びかけられて目を覚ました。


オレを起こしたのはジンの息子―――ゴン。

後ろにキルアもいた。



「…なんだ?」

「オレ達…これからたぶん出かけることになるけど、ジャズはどうする?…1人でもへいき?」

「んん…? どこ行くんだ?」


「あ、うん。ジャズが寝てる間に色々あって…、キルアと話したんだけど、オレ達これから旅団の奴らを捕らえようと思って……」


言いづらそうにゴンが言う。気遣ってくれてるのがわかった。


だけど…



「旅団を捕まえるって?……なんでだ?」


理由がわからずに聞き返す。

途中で少しベッドに体を起こして、2人に向き直った。


「あー、そっか。ジャズは知らないんだもんな。 …クラピカ…金髪の奴だけど、クラピカが旅団を追ってるんだよ。仲間を奴らに殺されててさ」


キルアがぽりぽりと頭をかきながら説明する。



「…仇討ちか…」


「うん…。オレ達クラピカに協力しようと思ってるんだけど…。」

「…お前らだけでどうにかできる連中じゃねーのはわかってんだろ?」



奴らに捕まったときのこと忘れたのか、と聞くと2人は渋い顔で黙った。


オレでさえ1対1でマトモにやりあって勝てるかどうかわからねぇような連中が、13人も寄り集まってる。



「…半端な気持ちならやめとけ。お前達程度の腕じゃクラピカの邪魔になるだけだ」


クラピカはおそらく、こいつらの中では一番やる。

たしかに『ゾルディック』のキルアもやるほうだとは思うが、"念能力者"としてならクラピカのほうがずっと上だ。

奴のオーラがそう言っていた。


きっと『仇』とやらのために自ら『制約』と『誓約』をかけてるんだろう。



仲間のために、…命を懸けた。







しばらく黙っていたゴンとキルア。

オレがまたベッドに戻ろうとするとそれを止めるようにゴンが口を開いた。


「オレ……さ、みたんだ」


「…何をだ?」





「旅団の奴らの1人が、泣いてたんだ。……ジャズは覚えてないかもしれないけど……仲間を殺した奴を絶対許さないって…………泣いたんだ」


「ハァ!?なんだって!?……それって、旅団の奴らが言ったんだよな!? どーいうことだよ!?…クラピカの野郎、旅団の奴を殺したのか!?」




「うん……。クラピカにとってあいつらは『仇』だけど、あいつらにとってもクラピカは『仇』で……。

オレそれを見たとき無性にやるせなくなって……。


オレ、止めたいんだ。 …旅団も。クラピカも。


オレ達だけじゃ無理なのはわかってる。でも…………止めたいんだ。

止めなくちゃ…じゃなきゃ……こんなの………。


………だからジャズ、お願い。力を貸して…」




ゴンとキルアはずっとオレの顔をうかがっていた。


アイツが蜘蛛に傷つけられたって、こいつらもわかってるはず。

だからこそ、こんな悲痛な顔を見せる。





「……オレは怪我人だぞ、一応」




「うん、わかってる…。でも別に直接戦うことだけが目的じゃないし…戦うって事以外でも出来ることはあると思うんだ。

ジャズは…どうする…?



………やっぱりだめかな?ゼロ、嫌がるかな……?」




「…何でそう思うんだ?」



オレにそう返されて、ゴンは少し黙って。

それから口を開いた。




「……ゼロってさ、旅団の奴らに傷つけられたんでしょ?……やっぱり……つらいかなって…」


そう言ってゴンは少し俯いた。




「ゴメン、違った…?」






ベッド脇に這い出て、座り込んだままオレはぽすりとゴンの頭を撫でた。


「とりあえず話を聞こうか」

「…!!…ありがとう!ジャズ!!」


「………ああ…」



パッと表情を明るくして駆けて行ったゴンと、キルア。

小さな背中を眺めながら、オレもゆっくりとベッドから立ち上がった。






―――――礼を言いたいのはオレの方だよ。




…お前らみてえなのが、アイツのそばに居てくれて………。















ロビーに向かうとクラピカとレオリオがいた。


「クラピカ!オレ達にも何か手伝わせてよ」


ゴンとキルアがそう言いながらクラピカの下へ駆け寄る。

オレは別段急がずにすたすたと寄っていった。

するとクラピカとレオリオもオレの存在に気づいて、声を上げる。



「ジャズ!もう起きて大丈夫なのか?」

「腕は?大丈夫か、ジャズ?」


クラピカとレオリオはオレの吊られた左腕を心配そうに見た。



「ああ…、使えねーが大丈夫だ。………サンキューな」




―――サンキュ。








「クラピカ、オレ達なんでもやるよ。だから手伝わせて」

ゴンがクラピカに強い口調で言った。

断られるのを覚悟して、でもクラピカに負けないようにゴンは強く言う。


「…賞金は撤回されたんだぞ?」

「わかってる」



賞金って……なんのこっちゃい?


…旅団に賞金ってか?

………まぁ、あいつらお尋ね者だし…ありえん話じゃないか…。




「奴らを止めたい。その気持ちは変わってないよ」


ゴンの真摯なその言葉を聞いて、クラピカが表情を少し変えた。





「……命懸けだぞ」




少し脅すようにそう言う。


まぁ…こいつなりにチビどもを気遣ってんだろ。

ピリピリとクラピカの覇気を感じる。


それでもゴンは力強く頷いた。

まっすぐにクラピカを見て。


それに負けたのかクラピカは椅子のある方へ歩き出した。





「………打ち合わせをしよう」

「うん!!」


オレ達はとりあえずロビーに備え付けのテーブルについた。









「まず奴らのアジトを張る役、中継係が1人」

「…オレがやるよ」


キルアが手を上げた。



「ターゲットはパクノダという女のみ。それ以外は無視していい」

「ん?ちょっと待て、何でパクノダなんだ?お前は旅団を潰したいんだろ?…だったら狙うのはアタマのクロロじゃないのか?」


とか普通に言ったら4人から微妙な顔をされた。



何でよ?

聞くのは当然だろ?




「ジャズ……お前旅団のリーダーを知っているのか?」


あ…。あー……そっちか。



「仕事上ちょっと絡んだことがあってな。…で、何でパクノダなんだ?」


クラピカは微妙に納得いかない様子だったが、ゴンが説明をつけてくれた。


「パクノダは記憶を読む能力者なんだよ、ジャズ」

「ふーん、そうなのか。で?」


「ジャズが寝てるときにオレ達クラピカから、クラピカの能力について聞いたんだ」


「へぇ…。そりゃあ……頭の良さそうなあんたにしちゃ馬鹿なことしたな。能力を話すなんて」



…いまさらオレも人の事言えねーけどよ。




「……確かにそうかもしれない。だから一刻も早くパクノダを始末する。…ジャズも協力してくれるか?」



クラピカの問いかけに、少し間を作るようにオレは天井に向かって一度息を吐いてから答えた。



「…ゴンにも言ったがオレは怪我人だぜ?…役に立つかわかんねーぞ?」


すこし皮肉っぽく言う。けれどクラピカは 「いや、いてくれるだけでも心強い」 とオレに微笑んだ。




「…ハ、そんな風に言われたんじゃ手伝うっきゃねーだろが」

「ありがとう。助かる」




普通に……本当に普通に、そうやって礼を言われて




「…ふん」


「あ、照れた」

「るせっ」







「で、私と行動を共にする運転手が1人。ジャズは…片手が使えないから……レオリオ、頼めるか?」

「い!?…お、おう」


クラピカに言われてびくりとしたレオリオ。こいつは結構ビビッてるな。まぁ当然か。


医療の腕はたしかのようだが、他はどう見ても一般人ぽいし。

つか、よくハンター試験受かったな、コイツ。裏試験受かるのか?…謎だ。



「平気だよ、クラピカの傍なら安全だから」


キルアがニヤつきながら言うもんだからオレも頷いた。

するとレオリオは必死に弁解を始める。


「おい、ちょっと待てキルアにジャズ!!まるでオレがビビッて一瞬間が開いたみたいな取り方すんな!!」

「…ちげーのか?」

「ジャズッ!!」


どーでもいいがキルアが爆笑してんぞ。



「…クラピカ、オレは?」


オレ達がすったもんだしてるうちにゴンがクラピカに尋ねる。



「……敵の目をくらます役。かく乱係だ」


「ちょっと待った!!それはかなりヤバイ役だろ!また奴らと直接対決しなきゃなんないじゃん」



オレが口を挟む前にキルアがクラピカを止めに入った。どうやらオレと同じ意見だったらしい。

コイツにはいくらなんでもまだ荷が重いだろ。




「それはやり方次第だ」

「は?一体どんな作戦だよ?」

「いたって単純だ。敵がゴンに気をとられてる隙に私がパクノダを捕らえ車で連れ去る。 方法は任せるが…最低0.5秒、出来れば1秒、相手の注意をひきつけて欲しい」



「1秒…」



やっとゴンもクラピカの言ってることの意味がわかってきたらしい。

深刻に受け止めて、顔をこわばらせていた。


「ああ、……ジャズも出来ればそっちを手伝って欲しいが…大丈夫か?」


「……かまわねぇぜ。…あまり期待をもたれても困るが……全面的に協力してやる」

「うむ。お願いする」

オレがふっと笑うと、クラピカもそれにつられたのか少し笑った。





まだゴンは考えているようだった。



「……ゴン、お前がカギだ。出来そうか?」


クラピカがそう確認を取る。

ゴンは拳を握って、事の重要さを再確認するように頷く。


「…まだわからない。考えてみるよ」

「お前1人でやれってんじゃねーんだから、もう少し楽に考えてもいいぞ?ゴン」

「「いや、ジャズは余裕出しすぎだから」」


ぽすぽすとゴンの頭をなでると、レオリオとキルアに突っ込まれた。

……まー、確かに……左腕が、な。





「あと6時間…もしも競売が予定通りならそれまでに旅団は動く。もちろんもう動いた後かもしれないがな」


クラピカがそう言うと、それまで黙っていたゴンが何か作戦を思いついたのか、ふと顔を上げた。




「ねぇクラピカ、オレにも念の刃刺してよ」




………は?何それ?

作戦の話じゃねーのか?




「念の刃を………って…」

「ゴン!話聞いてたのか!?旅団以外の人間を攻撃したらクラピカ死ぬんだぞ!?」

「ふーん、そうなのか?」


つーかそんな大事なこと……


「声がでかい!!」


だよなぁ……。


まぁ肝に銘じておいてやろう。





「でもさ、だったら何でクラピカの胸には念の刃が刺さってんの?」


ゴンの突っ込みにキルアとレオリオは黙って、クラピカを見た。


オレには何の話だかさっぱりわかんねぇ。




「…ここからの話はさらに私のリスクを上げることになる」


じ、とオレとキルアとレオリオを見て、クラピカが言う。



「…ま、そうだろうな。 オレは席を外させてもらう。…もともとお前の能力を聞いてたわけでもねーしな」


オレが立ち上がるとレオリオも立ち上がった。



「オーケー。おい、キルア」

キルアは一つため息をついて、それでもオレ達の後に続いた。







オレ達3人はゴンとクラピカの話が聞こえないところにまで移動した。



「なあ、レオリオ」


キルアが口を開く。



「ああ…わかってる」


キルアもレオリオも、今は離れた場所にいるゴンとクラピカを眺めていた。



「…オイ、お前ら何考えてんだ? やめとけよ。盗み聞きしても得になることは何もありゃしねぇ。アイツのリスクが増すだけだ」

「わかってるよ、そんなことは…だけどさ、やっぱり参加するからには一蓮托生っしょ?」


「………ふーん…そんなもんか? 明らかにクラピカが不利になるだけだぞ?…理解できん」


「……じゃあジャズは聞きに行かないんだ?」


「ああ。さっきも言ったようにオレはクラピカの能力の話から聞いてねーからな。聞いてもどうせわかんねーし。 高いリスクを負ってまで最初から全部を説明してもらう事もないし、時間的余裕もないだろ。オレは遠慮しとくぜ」


パタパタと手を振って2人を追いやった。


初めはなんとなく納得いかなそうに顔を見合わせていたキルアとレオリオ。

でも本当にオレに聞く気が無いのがわかると、2人だけでゆっくりとテーブルに近づいていった。


2人がばれないようにクラピカの座る椅子の後ろまで行ったのを確認してから、オレはふと窓の外を眺める。





空は暗く厚い雲に覆われ、ザーザーと雨が降り続いていた。








つづく


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ももももも。