double style ◆59:居場所




死んだのは、誰だ?



窓の外をボーっと眺めたまま、オレは考えていた。





ゴンが言った言葉。


『仲間が殺された』――――蜘蛛のことを。









クラピカは仲間の仇のために蜘蛛を屠るつもりで。

もうすでに12本足の蜘蛛のその1足がかけたらしい。





殺されたのは、誰だ?








あのとき、蜘蛛のアジトにいたのは7人。


シズク、シャルナーク、フェイタン、フランクリン、コルトピ、ボノレノフ、………ヒソカ。

そこに後から来たのがパクノダ、ノブナガ、マチ、フィンクスの4人。



いなかったのは、クロロと……ウボォーギン。


クロロはそう簡単にやられるタマじゃねぇし…………



ウボォーギン。



たしか『借りを返したい奴がいる』と言っていた。



あのとき、きっとウボォーギンを捕まえたのがお前だったんだな、クラピカ………。


そしてウボォーギンはお前と……………






「…………ジャズ?」



クラピカの声にハッとした。

窓の先から視線を移すと、クラピカ、レオリオ、ゴンが立っていた。

話は終わったらしい。



「あ…、ああ、悪い………キルアはどうした?」

「偵察を頼んだから先に行ったぞ?」


とレオリオが言う。



「そうか……じゃあもうオレ達も行くのか?」


オレが出口に向かって踵を返すと、クラピカがそれを止めた。




「ジャズ……。…旅団と対峙するのがつらいのならば残ってもよかったのだぞ?」

「………なんだよそれ」



どこからそんな話に発展してんだよ?

訳がわからなくて黙っているとクラピカが少し悲痛な顔を見せて話を続けた。



「……お前達の心に負担をかけるようなことはしたくないんだ。

…お前はよくても、ゼロがどう思っているか私たちにはわからない。 蜘蛛の連中のせいで"そう"なったのならばなおさらだと思う。

無理強いをするつもりはない。嫌ならここに残ってくれてかまわない」



その言葉でオレはやっと理解できた。


「あー……なるほど………そう心配しなくていいぜ。そういうこと考えてたわけじゃねぇから」

「しかし……」


ようはそういうこと考えてボーっとしてたって思わせちまったわけだ。

だけどなおもクラピカたちは心配そうにオレを見ていた。




「ジャズ……」


「ん?……そう心配そうな顔しなくても大丈夫だ。お前に協力すると言っただろうクラピカ。

これはオレが決めたことだが……ゼロもきっとそれを望むはずだ。アイツはお前らのことが好きだったし…。


…心配をかけて悪かった。でも大丈夫だ。…行こうぜ」



オレがそう言って少し笑うと、3人は納得したのかホッとため息をついた。





「そうか……わかった。 お前達の意志ならば私たちには止める理由が無いな。だが決して無理はしないでくれ」


クラピカが、オレの背をぽんと叩いて。



「ジャズ、腕が痛んだらすぐ言ってくれよ。面倒見るから、な?」


レオリオは、オレの頭をなでて。



「オレ、絶対何かいい手を考えるから!ジャズの手を煩わせないようないい作戦を!」


ゴンはぐっと拳を……



「…っつーか…おい待て、ゴン。それじゃあオレだけのけ者みてぇじゃねーか」

「あ…そっか」

「「はははは」」











なぁゼロ。



お前の居場所って、本当に心地いいな………

みんなお前を思ってくれてるって…わかるから。





こいつら皆……優しくて、暖かくて………


ジンと一緒に過ごした日々のことを思い出すみたいで…楽しくて…



本当に心地いい場所だよ、ここは…………。

お前がこいつらのこと、大切にしようとしてた理由がオレにも少しわかった気がするんだ…。





お前の居場所は、ここに在るから――――だから、早く戻ってこいよ、ゼロ………




















レオリオの運転する車でオレとゴンと…ある程度変装したクラピカは市内を回っていた。

窓の外は相変わらず雨。



こんな雨のなかでもキルアは蜘蛛を見張っている。

蜘蛛の連中が移動を始めたらしいと先ほど連絡があった。






蜘蛛………か。






「ジャズ…?ホントに大丈夫?」

「んー…?」


レオリオは運転席。クラピカは助手席。

オレと後部座席に座っていたゴンが、心配そうにオレに声をかけた。

レオリオもルームミラーでオレを見ていたし、クラピカも少しオレの方に振り向いた。



「なんでもねぇって。キルアがムチャしねーか心配だっただけだ」


オレはゴンの頭をくしゃくしゃとなでた。




「それよかお前はいい手を考えなきゃなんねーんだろ?ゴン」

「あ、うん。そっか……そうだね」


レオリオとクラピカもそれで納得したのか前を向いた。








っていうか…言える訳ねーじゃん…。



マチやノブナガや……クロロとか、蜘蛛の連中のこと考えてたなんて。


クラピカがいるのに……この場面で言える訳がねぇよ……。





オレはそこまで無神経じゃないつもりだし。

問い詰められでもしたらそれはそれで困るし。



蜘蛛に誘われてたこととか、


…クロロと寝たこととか。



お前らに、言えることじゃない。








………たしかにオレは蜘蛛が嫌いだ。



アイツを傷つけた、あいつらが嫌いだ。





けど、マチやノブナガや、…ウボォーギンや、クロロとは…


うらむよりは…付き合い……とか、…長げーし。






………クロロは"長く"ねーな。"濃い"んだな、アレは。





あいつらはなんだかんだ言ってていい奴らだった。

どうでもいい人間相手には氷のように冷たいが…でも少なくともオレにとってはいい奴らだった。


あいつらは………別に嫌いなわけじゃない。





きらいな、 ……わけじゃ……ないから…。


だから今は、……何故だか…不安でたまらねぇ…………






オレはこのまま戦えるのか…。

こいつらを、ゼロの代わりに守りきれるのか………




オレは…………







ピルルルル…

ゴンのケータイが鳴ったことで、オレの思考は中断された。



「…あ、キルア?」


相手は蜘蛛を追っていたキルアからのようだ。




「……クラピカ、パクノダがいたって。旅団の奴ら、6人で行動してる」


ゴンは通話を続けながら、オレ達にもキルアの言ってることがわかるように、それを復唱する。





「ノブナガと…黒いコートを着た奴がいるって。背中に逆十字の。…多分リーダーじゃないかって」





黒コートに逆十字か…

まちがいなくクロロだな………





「代わってくれ」

クラピカが電話を代わる。



「今どのあたりだ?」


そう言って、キルアから現在位置を聞き出すクラピカ。



「………そうか、わかった。…レオリオ、南に向かってくれ」

「オーケー」


クラピカの指示に、レオリオが車を方向転換させた。


キルアの話によると奴らは電車で移動しているらしい。

まぁ時間が時間だし。ラッシュに巻き込まれるのが嫌なんだろ。


…つーか奴らならむしろ走ったほうが速いし。




「カスツール駅方面…」


呟いて、クラピカは地図を取り出す。



「競売市があるのもこっちの方面でしょ?」

「私たちのホテル…ベーチタクルホテルも同じ方向にある」





少し待ってると再びキルアから通話があった。


クロロたちが降りたのはリパ駅。

それを聞いて、クラピカは焦った風にどこかに電話をかけた。



「……スクワラか。まずいぞ、奴らにそこがバレた。すぐに脱出してくれ」


ん…誰かはわからんがおそらく仕事仲間とかいう奴か?




その通話が切れたところでちょうどオレ達も駅に着く。



「ゴン、ここから駅の入り口まで。この距離が私の間合いだ。 やつらに存在を気づかれずに攻撃できる距離。ここから攻撃が到達するまで約0.5秒。

奴らほどの使い手ならば余裕でかわせる距離だろう。何かに気をとられでもしない限り」


クラピカがそこまで言うと駅の入り口から、奴らが現れた。



シズク、コルトピ、ノブナガ、マチ、パクノダ、そしてクロロ。





その瞬間、クラピカの殺気がオレには感じられた。







―――――――目の前に、『仲間の仇』が………



『蜘蛛』が、いる―――――――







蜘蛛が相当なスピードで走り出すのを見るととたんにクラピカも車を飛び出す。



「クラピカ!?」

「レオリオ!!私が連絡するまでここで待っていろ!!」

「おい待て!!テメーで作戦ぶち壊す気かよ!?…おいクラピカッ!!」


オレの呼びかけも今のクラピカには届かないようだった。蜘蛛の後を追ってクラピカは走り出す。



「待ってクラピカ!いい手が浮かんだんだ!!クラピカってば!」


ゴンがそう叫びながら飛び出したので、オレもその後に続いて車から降りた。



「クラ…おい、ゴン!!ジャズまで…!オイどーすんだよ!!」

「先、ホテル行ってろレオリオ!オレが何とかする!」


運転席から叫ぶレオリオにそう返してオレはゴンたちを追って走り出した。


追うのはいいが…クソッ、片手が使えねーせいで走りにくいったらありゃしねーな。


クラピカも止まる気配はない。

……仇を目にして完全に頭に血が上ってやがる。



これじゃ気づかれるのも時間の問題だろーが!

相手は6人も居るんだぞ!わかってんのか、あのバカ!





「ジャズ!ジャズ、聞いて!!」

「なんだ!?」


オレの少し前を走っていたゴンがオレのスピードにあわせるように寄ってきた。



「あいつらも、急に目の前が暗闇になったらすこしはとまどったりするもの!?」

「ぁあっ!?…それが作戦か!?」

「うん!!」




「……どうだろう…確証はねぇが……………よし、 お前は先に行け、クラピカにも伝えろ。オレはこの腕せいでこれ以上速く走れねーからよ」


まぁ…やれば走れなくも無いんだが。


「わかった!!」


そう言ってゴンはクラピカの元まで一気にスピードをあげて駆けていった。





ちっ、たく……ここまで不便だとは思わなかったな、この左腕。

まぁ利き腕じゃなかっただけまだマシか……。






数百メートル先のクモ共は人垣を飛び越え、街中を駆け抜ける。



かなりの距離を追ったところで、クロロが何人かに指示を出すのが見えた。…クソッ!



「おい!バレてるぞ!!迎え撃つ気だ!」



オレが前を走るゴンとクラピカに叫ぶのと同時に、クロロ、マチ、シズクがオレ達を迎え撃とうとこちらに向き直った。

2人はとっさに脇に飛び退る。

だがオレはスピードを緩めずにクロロに向かって駆けた。




「「ジャズッ!!」」


シズクとマチが叫ぶ。


クロロの視界をさえぎるように、オレは飛びついた。


オレの体重と運動エネルギーを受け止め、バシャバシャと勢いあまってクロロが一歩ふらつく。

だが案の定クロロはオレをしっかりと抱きとめた。






「はぁ……クロロ……」



舌を出して、甘い声でクロロを挑発する。


片腕でクロロを抱き寄せて、ぬるりとその唇に舌を這わせた。




「ん……ジャズか……。どうした?戻ってきたのか?オレのもとに」


「ああ、そうだ…。オレのカラダが、お前を忘れられねぇみてーでな……」


オレが色っぽくそう言うと、クロロが少し愉快そうに笑った。




「フフ…、相変わらず策士だな、お前は。……見えたか?」



ぎゅっとオレの腰を抱き寄せたままクロロはマチとシズクに問いかけた。


………クラピカとゴンから気を逸らそうと思ったがどうやら誤魔化しきれてなかったみてーだ、クソ…。

しかもオレまでしっかり捕まっちまった。……マズイかな?




「姿までは……路地に1人」

「ゴミ箱の後ろに1人」


「…凝を怠るなよ」

「了解」



そしてクロロはオレを横抱きにした。

急に抱き上げられたオレはバランスを崩しかけて、クロロに思い切りしがみついちまった。

折られた左腕がずきりと痛む。



一瞬、顔をゆがめたオレにきっちりと反応しやがったクロロ。

オレをしっかりと抱き寄せ、雨で濡れたオレの髪に軽くキスをしてきた。





「それがフェイタンに折られた腕か…」

「………ああ」




「…マチから話は聞いたぞ」


「……………そう かよ…」






クロロの言葉によって、アジトでの一件が一気に頭を駆け巡って……

どくんと心臓がはねた。






「……ったら…んだよ……」

「いいや……」



一言きりで、クロロは黙った。

黙りはしたが、クロロの手はオレの背をしっかりと強く抱きしめてくる。









―――――痛くて、…たまらねぇ………。











「…ジャズ…」



前への警戒は解かずに、マチがそっとオレを呼んだ。


静かな間に、ぱしゃぱしゃと雨の音だけが響いていた。







「…ジャズ……ヒソカは…、いつか絶対アタシがぶっ殺してやるから」


心の芯に響く、強いマチの声。







「…シャルナークが…『ゴメン』っていってたよ…ジャズ……」


呟くように言った、シズクの優しい声。








「――――ジャズ……オレのもとに戻ってくる気は無いか?」





静かに聞こえたはずの…クロロの声が、妙にココロに重くのしかかって。













「………………ねぇよ……バカ……」






いまさら……………










もう、遅ぇんだよ………。










つづく


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すもも

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ももももも。