double style ◆60:零れ落ちるもの



「…ねぇ。もしかしてアンタが『始末屋ジャズ』?」

「ああ。…お姫様のお名前は?」


「………マチ」




目を覚まして、オレがすることといえば退屈な『仕事』ばっかだった。


オレのリバイアサンに勝てる奴なんかまるでいねーし。

オレが本当に本気出さなきゃなんねーような奴にも会ったことがない。



退屈な日々に風穴でも開けようと始めた『始末屋』の仕事だったけど。

「退屈」は何も変わりはしなかった。





そんな日々に、出会ったのがクモの連中だった。



あいつら強いし、しつけーし。

あいつらが来れば「退屈な仕事」が、最高に「めんどくさい仕事」に変わっちまうけど。




―――――心の底では……おまえらが来るの、いつも待ってたんだよ。










結構…楽しかったからさ…。





















雨が、降り続いていた。


クロロはジャズを抱いたまま優しくささやく。




「…マチから話は聞いた。お前が二重人格者だということ」

「……だったらどうした?」


ジャズは俯いたままそう応えた。



クロロの顔を見ることが出来なくて。

きっと見たら、すがりそうになるから。




――――もう、決めたはずなのに。あいつらと行くって。


…そうさ。いまさら誘ったって、もう遅い。






………オレは、もう決めたから………







唇を噛みしめて、震える手をぎゅっと抑えて。意志を強く固める。



―――でも、オレの思いとは裏腹にクロロは静かにささやいてきた。

光のように優しいのに、闇のように重い、…言葉を。





「…ジャズ……ジャズ、聞け。……オレはお前しか知らないんだ。

もう1人のお前…ゼロという奴のこともシズクとシャルから聞いたが、お前しか知らないオレには全く想像できない姿だった。


………ゼロという奴がいなくても、お前はここに存在できるんだろう?

ゼロという奴がお前の本当の姿だったとしても…、オレはお前さえいればいい。


オレは『お前が』欲しいんだ。


だからジャズ…もう一度、オレのもとに戻ってくる気はないか?」






「……ねぇよ。………………ねぇよ、バカ…いまさら…………」


クロロの言葉に、震えそうな声を抑えジャズは必死で拒絶の言葉を紡いだ。





いまさらもう遅い、と。











「……遅くはないだろう」

「………せぇよ」







「ジャズ……泣くな」


「……泣いてなんかねェよ……バカクロロ」












ザーザーと冷たい雨が流れていく。



伏せた顔から、ぼたぼた零れる涙を拾って。





雨が、流れてく。


















雨の温度は冷たくても、クロロと触れ合う部分は暖かくて。




ふわふわと頭を撫でるクロロの手が――――あったかくて…













ずっと欲しかったものが、今すぐ傍にある。



すぐ、……そばに。

手を伸ばせば、届く距離に。



―――それなのに、なんで手にしちゃいけねぇんだよ…?









"それを手にしてはいけない"と――――――強くココロが叫ぶ。









ああ……『こいつら』は、『彼ら』の敵……だから。





ゼロは、『あいつら』のことが好きだから……………


あいつらと一緒じゃなきゃ…きっと…………………ゼロ…。











「…迷うことはない。戻ってこい、ジャズ…」





「………ってなんかねぇ…」





迷ってなんか、ない。


惑わされてる…それだけのこと。








ゼロの好きなもの。オレは知ってるよ。


ゼロが小さいころから欲しがってたものも知ってる。



それをアイツのために手に入れてやるのが、オレの役目だし。





……だから、オレ、なにも迷ってない。


だって迷うことなんか一つもないし。

だろ?なぁ……。











………でも………






でも……ゼロ?


オレが何かを欲しがるのは、"罪"なのか?


欲しがっちゃ…やっぱダメか……?




なぁ、オレも欲しいんだよ。










こんなに傍にある―――――――オレに向けられた、ぬくもり。
























「…っごめんなさい!!もう追っかけないから許してください!!」


突然聞こえたゴンの声が、はっとジャズを引き戻す。


目の前にあるのは、クロロの服をぎゅっとつかんだ自分の手。





(―――――なに……言おうとしてんだよ………)


ボロッと、涙が零れた。










―――なぁ、誓ったはずだろう?


オレは、アイツを救うって。

あいつらと一緒に、アイツを……あの闇から救うって。





救われたいのはオレじゃない。




アイツがいなきゃ……オレはこの先生きて行けっこないのに。


ゼロがいなきゃ…オレも真に救われないのに。





あいつらと行くって。





決めただろう?














こんなトコで…迷うなよ。











「………またこの子?」



ゴンを見てマチが言う。




「こいつか、例の子供は…」


ノブナガから子供2人の話を聞いていたクロロが、それを思い出して呟いた。

マチはもう1人が隠れた路地に向かって、強く静かにプレッシャーをかける。



「もう1人いるだろ。…出てきな」



その言葉に、路地の陰からクラピカ…ではなくキルアが顔を出した。






「何の用だ?もうアタシらに賞金かけてるマフィアはいないよ」

「え!?ホント!?どうして!!?」


そんなことは全然知らなかったとでも言う様にキルアが驚いてみせる。





ばれるかばれないか、ギリギリの線だった。



ゴンとキルアの頬を伝う冷や汗も、雨と共に流れ落ちた。








遠くで雷鳴が轟く。




雨は止むことなく降り続いている。













「…どうする?団長?」



「捕まえろ」






「シズク。フィンクスに連絡を入れろ。…ベーチタクルホテルまで来いとな」

「わかった」


「ここで始末したほうがいいんじゃないの?」


「いや…オレはお前の勘を信じるよ。鎖野郎とどこかでつながりがあるのなら、まだ生かしておいたほうがいい。…ジャズが隠そうとしてたのも気になるしな」



それを聞いてジャズはゆっくりと俯いていた顔を上げた。






「……ハッ………なんだよ、妬いてんのかクロロ?こんなガキ共なんかテメェの相手にゃなんねーだろ。………言っただろ?お前ほどのイイ男なんかそうそういねぇって……」



片腕をクロロの首に回し、顔を寄せて言うジャズ。


いつもの、挑発的な瞳を見せて。





「フフ…吹っ切れたのか、ジャズ……?もう少しかと思ったんだがな……。残念だ」

「ククッ……そうかよ」


残念だったなぁ…とへらへら笑うジャズを、クロロは強く抱きしめる。

背にある手に力がこもって、ジャズはまた―――今度は嬉しそうに笑った。



「だが手に入らないとはいえ……もうやすやすとは逃がさんぞ。」

「…ハ、逃がさねぇって…誰に物言ってんだ?お前。オレに熱上げて倒されたクセに?」


「フッ……クック……そうか………じゃあ今度はお前が腰を抜かすまで可愛がってやるよ。 ……オレしか見えなくしてやろう。お前のほうからすがり付いてくるまで」

「クッ……それは『可愛がる』とは言わねぇよ、嫉妬狂い」





くすくすと笑うジャズとクロロの会話に少し戸惑ったゴンとキルア。


"仕事で知り合っただけ"とジャズは言っていたが、今目の前にいるジャズはよほどこの『クモのリーダー』と関係があるらしいということに。




っていうか………



((『倒した』って何!?))





すごく突っ込みたかったが、ジャズの雰囲気がそんな2人の口をおしとどめていた。



ジャズもきっと何か考えがあるのだと思い、あまりそれについては気にしないようにした。

全部終わったら聞けばいい。



それよりも今はもっと考えなくちゃならないことがある。







『作戦』のための準備。




具体的なことは決めたが、細かいところまで決められなかった。


「いつ」「どこで」やるかはっきり決められなければ出来ない『作戦』。




クモに再び捕らえられた自分達では、『作戦』について段取りを決め準備するなど無理だ。

路地裏を伝って遠くに離れたクラピカに賭けるしかないが…………









ピルルルル

そのときクロロのケータイが鳴る。ジャズを抱きかかえていたクロロに代わりシズクがそれに出た。

それは、先ほど二手に分かれたパクノダからだった。



『…こっちはスクワラって男だった。ウボォーのその後は知らなかったけど…鎖野郎の顔と名前はわかったわ。能力はまだ不明』


そのパクノダの言葉を、シズクはクロロに伝えた。



「…わかった。ベーチタクルホテルのロビーで待つ、そう言ってくれ」

「了解」




「これで残りの仲間は3人。…行こう」




そう言ってクロロはジャズを抱きかかえたまま歩きだした。








つづく


NEXT→61:"作戦"←PREV(前話へ)

実は寂しがりだったんだろうか…

すもも

TopDreamdouble style◆60:零れ落ちるもの
ももももも。