double style ◆74:3人の訪問者




「――――ッシャルナークてめぇ!!いまさらどのツラ下げてオレの前に出てきやがった!?」

「……っ!!」


ホテルの部屋に突然現れたシャルナーク。

その顔を見た瞬間にオレはカッとなって、考えるよりも先に身体は奴に向かって飛び出していた。



ガッ!!


「「シャル!?」」


右の拳がシャルナークの顔面を捉え、シャルナークの後ろから来ていたノブナガとマチが驚いたような声を上げる。



ガードの素振りすら見せなかったシャルナークはオレの攻撃をもろに食らって、2人の間へと吹っ飛んだ。

大の男の身体が勢いよく床へと転がる大きな音に、エレベーターホールの方からもエレベーター待ちの数名の客がこちらへと顔を覗かせる。


「ジャズ!?おい、やめねぇか!」

「るっせぇ!!離せ、ノブナガ!!」


追い打ちにもう1発食らわせようとしたら、背後からノブナガに羽交い絞めにされ止められた。




「シャル!あんた…!」

「…大、丈夫…。最初から、1発はもらう覚悟してたから…。いっつぅ…」


『こればっかりはしょうがない』という顔をして、シャルナークはタラリと垂れた鼻血を手で拭った。





覚悟か……。


たしかにぶっ倒す寸前、シャルナークの体に纏う念―――オーラのガードは一瞬の揺らぎを見せた。

しかしコイツは意識的にそれを途中で止めやがった。…ってコトは、オレの拳も見えててわざと受けたんだろう。



膝に来たのかよろよろとした足取りでシャルナークはゆっくりと立ち上がり、言う。




「あのときの事はオレにも原因の一端があると思ってるし……、その後オレが口を滑らせたことにもジャズは余計に怒ってるんだろ?

あの時は間が良かったのか悪かったのか殺られずに済んだけど、だからこそどうしてもジャズにはもう一度会って言わなきゃならないことがあったから…。


ココに来る以上、1発殴られるくらいの覚悟は最初にして来た」



「ああそうかよ。良い度胸だな。1発殴られるくらいで済むと思ってんならなおさらな!」


ノブナガに羽交い絞めにされながらも、オレは拳にもう一度力を込め、その身を乗り出す。



「離せよノブナガ。どうしてももう2、3発はぶん殴らねーと気が済まねぇ」

「それ聞いて放せるわけねーだろが。落ち着けよ。せっかくまたこうやって会えたんじゃねーかよ。死んだと思ったんだぞ?」

「テメーの感慨なんぞ知らん!つーかオレにそのうぜーアゴヒゲを擦り付けんじゃねー!!」

「悪かったって。そう切れんなよジャズ、なぁ」


パッと羽交い絞めの腕を放されて、オレは2、3歩前へとつんのめる。

拘束から外れ―――振り返れば、ノブナガとマチ、2人と視線がかち合った。



オレの目をしっかりと見据える、2人の目。






……ったく。


オレのストッパーとしてこいつらを連れてきたってんなら、たしかにそれは大当たりだぜ?シャルナーク。





がりがり頭を掻いて、オレは小さく息を吐いた。




「チッ…、しょうがねぇな…。わかったよ、聞くだけ聞いてやる。……オレに言いたい事ってーのはなんだ?」




くだらねー事だったらもう1発ぶん殴るぜ。と、再び拳を握りしめながらシャルナークに尋ねた。

するとシャルナークの奴は間を置かずに、バッと90度に頭を下げて謝ってきやがった。



「その……、ごめん、ジャズ!」

「……!」


謝りにきたんじゃねーかとは思っていたが、まさか頭まで下げるとは思っていなかったから、意表を突かれてオレは右腕を振り上げた恰好でぽかんと固まってしまった。






「あの時はごめん、本当に…。オレの言葉で君をずいぶん傷つけちゃって…、本当にごめん、ジャズ。 ―――――ゼロ」




オレの中に居るゼロへ、とシャルナークは頭を下げたままで呟く。


自分の名に反応したか、さっき心の奥底に引っ込んでしまったゼロがちょろりとオレの中でその顔を覗かせた。





「……ハ、頭なんか下げる程度で許されるとでも思ってんのか?」



血が上ってた頭も、もうすっかり冷えてしまった。

冷め切った視線でシャルナークを見下ろしつつ、もう一度オレは問いかけた。



「…ジャズ相手にだったら、たぶん無理だろうと思う。………でも、もしもゼロにこの言葉が届いたなら、ゼロならオレを許してくれるかなって。

そしてもしゼロがオレを許してくれるっていうなら、ジャズはきっとそれを受け入れる。なぜなら―――」


「なぜなら、アイツがオレの唯一の弱みだからってか?…打算的だな」


「…そう、打算だ。オレだってまだこんなところで死ぬわけにはいかないしね…。

それに、最初に殴られるくらいで済んでるってことは、ジャズはゼロをちゃんと取り戻せたんだろ?じゃなければオレはたぶん、最初の一撃で殺されるか、致命傷を負わされてるはずだから」




だから大丈夫、ジャズはオレを許す気でいる…。


顔を上げ、『そうだよね…?』と不安げに微笑んで、シャルナークはじっとオレの目を見つめてくる。




まぁたしかに、元からシャルナークにはそれほどキレてたわけじゃねぇ。


だけど――――





「オレはテメェのそういう物事計算づくのところがどーも気に入らねぇんだよなぁ」

「えっ…;」

「…お、おいジャズ」



最初に会ったときもそうだった。そしてノブナガとマチをこの場に連れてきて、オレ飛び越えてゼロの奴に謝った今この時も。


いつだってこいつの笑顔には何か裏があって、どうも好きになりきれねぇ。





機嫌を下げたオレを警戒してかノブナガがオレの肩に手を置く。


が…。




「……なんだよ、心配すんな。大丈夫さ、賢しい奴はそんなに嫌いじゃない」

「ジャズ…」


そう言って笑うとシャルナークもノブナガも、そろってホッとして肩の力を抜いた。





「計算があったとしても、殺られる覚悟できっちり頭下げやがったんだ。そこは汲んでやるよ。……許してやる。

ゼロの奴だって最初から怒ってなんかいなかったしな…」





今はもう、あの日のことも――――アイツは、「あってよかった」と思ってる。


そしてこうやって謝られて、許さない奴でもない。





『僕はいいんです。あとはキミ次第ですよ?』



なんて…、

にっこり笑ってアイツに言われたら



オレだって許さないわけにはいかないだろう?










「……でもやっぱ、なーんか結局お前の思惑通りに踊らされてる感じなのが気に入らねぇ」


「わ・わかった!わかったよ!オレに出来る事でならいずれ埋め合わせはするから!;」

「ほ―――……?お前その言葉、後悔すんなよシャルナーク…?」


にやあっと笑みを返し、中指を立てて見せるとシャルナークは「げぇ」と表情を歪めた。


ハッ、ざまぁ。ちょっとは溜飲下がったぜ。





「…それにしてもオメー、よかったなぁジャズ!!ウボォーが死んでその上オメーにまで居なくなられた日にゃ、オレぁよう…!!」


突然、背後からバンバンとオレの肩を何度も強く叩いて、くぅっと泣き笑いしはじめたノブナガ。



「―――うぜぇな!なんだよ突然!?泣くな!!オレはテメーの都合のいいオモチャでもケンカ相手でもねーんだ!っつーか折れてる方の肩叩くんじゃねぇ!響くんだっつーの!!」

「そうツレねぇ事言うなよジャズ!またオメーに会えて嬉しいんだオレは!!」


「…ちっ…」



照れくせー事デケー声で言うんじゃねーよ、このチョンマゲが。




「なんだよ、ジャズ!ふてくされんなって。…オイ、お前も黙って見てねーでなんか言ってやれよマチ!このアホによ!!」

「あ゛!?待てコラ、ノブナガ!!誰がアホだってんだ!!」

「オメー以外いねーだろうが!!」

「ちょっ…; お、落ち着きなよ2人とも…!」


ぎゃいぎゃいとノブナガとやり取りをしていたら、シャルナークが困り顔で止めに入ってくる。

マチはというと、腕を組み、至極平静な顔で廊下の壁へと寄りかかっていた。



「…フン。アタシは別にそんな国宝級のアホが1匹この世から消えたところで何とも思いはしないし、世界平和のためにはむしろその方がいいとも思ってるけど」

「って、マチまで…;」



「………だけどま、アンタのその沸騰しきったバカ頭、最期に胴と泣き別れにしてやるのはアタシの仕事だろうから………

勝手に居なくなられちゃ困るんだよ。……アホ」



腕を組んだまま歩み寄ってきたかと思えば、グッと襟首つかまれて引き寄せられる。


間近で睨んでくるマチの瞳は、いつ見てもゾクゾクたまらなくなるほどに鋭くて。

自然と、オレの口元も吊りあがるってもんだ。




「…ハッ、なんだ。オレの首でも愛でてくれるってのか?マチ」

「そうだねぇ…。その時は飾っとくのももったいないから…、残飯と混ぜて豚の餌にでもしてやるよ」


「はん…、そりゃ嬉しい限り…………。 ……ぁあ〜〜〜〜……、やっぱダメだ!マチ―――ッ!!

「なっ!?だ、抱きつくなバカ!!」



そのツレねぇところが大好きだマチ!!ツンデレ最ッ高―――!!vv

――――ぐぼふっ!!?




「いつまで抱きついてるんだこのド変態が!!」

「おっぐぅ……; お前…タマは止せ、マチ……」

「うわ…;」


男の"せつない"部分を思いきり蹴り上げられて、オレは膝から崩れて地べたに伏した。


あまりの衝撃でさっき食ったモロモロのブツまでが口から全部出ちまいそうな。

床に突っ伏して泡吹いてたらシャルナークの奴が青ざめた顔でオレの腰をさすってくれた。



だが悔いはねぇ。

マチにトドメ刺されるってんならむしろオレ的には大歓迎だぜ。……ぐはぁッ。



「きっ、気を確かにジャズ―――!!; 何やってんのさもー、マチ!せっかくオレが…!!」

「知るか!!」



「かっかっか。変わんねぇなぁジャズ。ま、何よりだ」


息も絶え絶えのオレを肩に担いで、ノブナガが笑う。……笑い事じゃねぇ。


そしてズルズルと引きずられるようにして、オレは3匹のクモ共と今一度部屋へと戻るのだった。







「……ジャズ、お前そういやオートロックの鍵どうした?;」

「…………。」


力なく、オレはドアの向こうを指差した。








つづく


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やっと謝れた!のはいいんですけどジャズくんは相変わらず何をやってるんだろうか…

すもも

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ももももも。