Troublesome visitor (in BLEACH) ◆1-04:緑茶をいただく



「………あ。」

茶菓子用の戸棚を開けた格好でイヅルの動きが止まった。



「…ない。―――あれ?……ない。」

戸棚の中には、たしかに先日まではカステラの箱があったはず。

それが全部なくなっていて、イヅルは目を丸くする。


「おかしいな…昨日か一昨日くらいまではあったのに…」


ガタガタと戸棚を探すイヅルの背後のテーブルには、お茶の入った湯のみが二つ。ほわほわとのんきに湯気を立てていた。


…ああ、早く見つけないと。

部屋ではゼロさんが1人、お茶を待っているというのに。




『…そんな急がなくてもいいんですよ〜、イヅルさんv』 なんて…、

のほほんと微笑むゼロの顔がふと頭をよぎって、イヅルは手を止めた。


ゼロさん…、おっとりした可愛らしい人だったな。

気も合いそうだし…、一緒にいれば安らげそうな……


(あ、いやいや!!…彼女は市丸隊長のお客さん!お客さんだから!)


ニヤァと意地悪く笑う市丸の顔をハッと思い出したイヅル。

ぶんぶんと頭を振って、にわかな期待を振り落とす。


顔が熱いのも気のせいだ。気のせいさ!

(は、早くお茶…、持って行かないと…!)


自分をごまかすように、それまで以上に必死でイヅルは戸棚を探す。


…と、一番奥に隠れていたカステラの箱をやっと見つける事ができて、イヅルはパアッと表情を明るくさせた。

………しかしそれも束の間。



「……なんで中身が空なんですか…」


箱を開けてみると肝心の中身は空。

がっくりと肩を落とすイヅルだったが、箱の中に残されていた1枚のメモ紙がそんなイヅルにさらなる追い討ちをかける。



メモには"ごっつぉさん(はぁとv)"と、よくよく見慣れた市丸の字が大きく書かれ。




「…たいちょう…つまみ食いしないでくださいよ……;」


――――涙が出そうになった。













「…あ」

三番隊の副官室でイヅルを待っていたゼロ。

待ち時間に物珍しく部屋の中を見て回っていたら、ふと「ある物」を見つけた。

きょろきょろと辺りを見回して誰も見てないのを確認してから、そーっとそれに手を伸ばした。




「―――お待た、ぉわっ!?何やってるんですかゼロさん!!?」

「えっ?」


2人分のお茶を持って副官室へ戻ってきたイヅル。

扉を開けたとたん、自分の斬魄刀「侘助」を抜いてしげしげと眺めているゼロの姿が目に入りイヅルは慌てた。


「ちょ…っ、あ、危ないですよ真剣なんですから!貸してくださ……ああ、いや!そのまま持っててください!!」


持っていたお茶を、急ぎお盆ごとテーブルに置いて、イヅルはゼロのそばへと駆け寄る。


「あ、これ吉良さんのだったんですね…。すいません」


ゼロは抜いた刀を慣れた手つきで鞘へ納めて「はい」とそれを手渡してきた。

これに驚いたのがイヅル。自分の手に戻ってきた1本の刀とニコニコ笑うゼロの顔を交互に見やり、「…ぇえ?」と漏らした。




………本当に驚いた。

いや、たしかにこの瀞霊廷内にも"戦う女性"は数多くいるのだが。


でもこの人は、虚とか死神とか戦いとか……そういうのはぜんぜん関係ないところにいる女性なのだと、そのたおやかな見た目でそう勝手に判断していたから。

慣れたような納刀の所作に意表を突かれたというかなんというか。


ぽかーんと固まったイヅルを見て、なんとなく理由を察したのかゼロは笑って説明を始めた。



「あはは、すみません。これ…僕も少し剣術やってたから、いい剣だなぁと思ってつい手が出ちゃって。

刀身の長さの割りにはちょっと重いけど、でもキレイな剣ですね。すごく切れ味良さそうだし。僕もこういうの欲しいなぁ。………あ。」


話しながら刀を再び手にとって、ゼロはまたしてもシュッとそれを抜いた。鋭い刃をニコニコと見ていたら、横でイヅルがまんまるく目を開いていた。


それに気づいたゼロ。

あわててぺこっと頭を下げた。……抜き身の刀を握ったまま。


「ご、ごめんなさい吉良さん!驚かせちゃって!」

「いや、わ、わかりました、わかりましたからその刀をこっちに渡してください!すこしくらい慣れてるといっても危ないです!」

「え?うわわ…っ、ごめんなさい!」


あわあわと抜き身の刀を2人で奪い合う。

最終的に刀はイヅルの手に渡り、ゆっくりしっかりと刀を鞘に収めてからイヅルはフゥと一息ついた。



「あのですねゼロさん、気持ちは分かるんですけど…。でも本当にこれ、危ないものなんです。今後はいきなり刀抜くの、やめてくださいね。

貴女にもしものことがあると僕が市丸隊長に怒られてしまいますし…」

「すいません…;」

「それに、……えっと…」

「? それに?」


続けられた言葉に、ゼロがきょとんとイヅルの顔を見た。


………かわいい……!!いや、そうじゃなくて…!



「…吉良さん?」

「はっ!!…いや!やっぱりなんでもありません!」

「はあ」


ゼロの視線にハッと気づいてイヅルはぶんぶんと手を横に振る。


『貴女に怪我なんかさせたくない』なんて口走ったら、下手な二枚目きどってるようで恥ずかしい。

首をかしげるゼロの視線がなぜか痛く感じられ、イヅルは顔を真っ赤にしてあわあわと話題を変える。


―――ああ、そういえばお茶を持ってきたんだっけ。



「とっ、とりあえず座ってください、ゼロさん。お茶っ、持ってきましたから!」

「あ。ありがとうございます」


お茶の乗ったお盆をテーブルに置いて、ゼロに席を勧める。

イヅルもガタ、とその正面の席についた。刀は念のため腰に差して。





「はいどうぞ」

持ってきたお茶をスッとゼロの前へ。


「わあ…緑茶だぁ。うれしいなあ」

「あっ…?はは、そんなに高級なものじゃありませんよ?」

「そうなんですか?でも僕の住んでるところじゃ緑茶なんてほとんど売ってないんで…。売っててもそんなに安いものじゃないし。

たまに、遠くに住んでる知り合いのおじいちゃんが送ってくれるんですけど、そんなときしかめったに飲めないんで嬉しいです。ふー♪」


嬉しそうに湯気を吹いて、笑顔でしみじみと漏らすゼロのそんな文句を聞いて、『あぁ…、そうか…』とイヅルは1人納得する。



ここ瀞霊廷内では普通の事でも、―――おそらく"流魂街出身"の彼女にとってはそれも珍しい事なのだろう。

至極幸せそうな顔でお茶をすするゼロを見て、玉露でもないただの煎茶でそんなにも喜んでもらえるなんて、よっぽどひどいところでつらい生活をされてたんだなぁ、うんうん、とイヅルは勝手に結論に至る。


そして同時に、もっと彼女の喜ぶ顔が見たいとも思ったのだ。ズイッとテーブルに身を乗り出した。



「―――ゼロさん。そんなにお茶、お好きなら…今度一緒に甘味処へもいきませんか?僕、おいしいお店知ってるんです」


「…カンミドコロってなんですか?」

「えっ!!?知らないんですか!?」


ゼロの意外な言葉に、またもやイヅルは目を丸くした。

しかしその後で、『いや、予想はできていたはずだ』とイヅルはぶんぶんと頭を振る。

そして意を決して。



「………わかりました。そういうことならぜひ今から行きませんか?」


ギュッとゼロの手を握って、イヅルがずずいと迫ってくる。

急にどうしたんだろうとゼロは首をひねった。



「え…、でも市丸さん帰ってくるかもしれないですし…、それに吉良さんだってお仕事中じゃ…」


「いえ!僕、貴女にお茶だけでそんなに喜んでもらえると思っていませんでした…。

そもそもお茶請けをご用意できなかったのもつまみ食いしてた隊長のせいですし、1、2時間くらいならサボったってバレませんよ!

…ええ、そうですよ!行きましょう?大体、仕事サボるのもウチの隊長の得意技なんですから!!」

「ええ?ど、どうしたんですか?吉良さん…;」


市丸の名前を聞いて、何かスイッチが入ってしまったらしい。ガタンと椅子を倒しつつ立ち上がったイヅルの迫力に押されて、ゼロはそれ以上強く言う事ができなかった。



「さあ行きましょうゼロさん!おいしいお茶と和菓子、ごちそうしますから!」

「あ…はは…;あ、ありがとうございます;」


苦笑いを漏らしながら―――ゼロは少し遠慮がちに、目の前に差し出されたイヅルの手をとったのだった。






つづく


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『遠くに住んでるおじいちゃん』はネテロ会長の意味でお願いします

すもも

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ももももも。