Troublesome visitor (in BLEACH) ◆1-05:みたらしだんご?



「はいゼロさん、お品書きです」

瀞霊廷内、三番隊隊舎近くのとある茶屋。店の前に設置された椅子にイヅルとゼロは並んで座っていた。



「お好きなものを選んでもらって結構ですよ?お代は僕が持ちますから」

「ありがとうございます。えと…」


お品書きをイヅルから渡され、それを眺めるゼロ。

渡されてからハッと気づいたが……


(どうしよう…読めない……;)


ゼロはハンター文字しか読めない。必然的に、平仮名のお品書きとはにらめっこになる。



「えーと…;吉良さんは何か食べないんですか?」

「僕はゼロさんに合わせますよ」

「あっ…、そ、そーですか…(同じもの頼もうと思ったのに…;)じゃあ、吉良さんのお勧めってどれですか?」

「はい?」

「…あの…僕、これ…読めなくて…」

「へっ?!読め…ないんですか?」

「すいません…、読めないんです…」

「あ、あ、いえ!謝らないでください!」


すいません…、としょんぼり眉を下げるゼロを見て、なにやら心が痛んだイヅル。

ゼロの手の中にあるお品書きの内容をひとつひとつ指しながら、丁寧に読んであげた。ゼロが「知らない」というメニューには説明も加えて。








「………おい、んなトコで何やってる、阿散井?」

「あ…、ひ、檜佐木さん…」

街道の真ん中で、ぼんやりと他方を眺め立ち尽くしていた六番隊副隊長・阿散井恋次。

その後ろ姿を認め、九番隊の副隊長・檜佐木修兵が不思議そうに声をかけた。


「一体何見てんだ?警戒令発令中だぞ。ダラダラやってるトコ隊長格にでも見られたらうるせーぞ?」

「いや、すいません…。…でもあれ。」

「あ?」


阿散井がクイッと指差す。

檜佐木も聞かれるまま、角から身を乗り出して阿散井が指差す先を見ると…



「な……っ、き、吉良が……吉良が女を連れている!!」

「うはぁああ!!やっぱアレ、俺の見間違いじゃないんスね!?」


指差した先―――小さな茶屋の前では青い着物の女と1人の死神が並んで座って、お品書きを指差しながら楽しそうに談笑している。

何度目を凝らして見てみても、女の横に居るあの間抜け面の死神は三番隊の吉良イヅルだ。


「つーか…ちょっと待て阿散井。しかもよく見りゃ相手、スゲー美人じゃねーか!?誰だよ、あの女は!?彼女か!?アイツの彼女か!!?ちくしょーっ!」

「ちょっ、ぐるじ…っ!首絞めないでくださいよ檜佐木さん!オレも、彼女がいるだなんてそんな話は聞いたことありませんけど…

ってか、アイツに直接聞いたほうが早いっスよ?!」








「…へえ、じゃあこのみたらしだんごってどんなのですか?」

「うーん…なんといえばいいんですかね…、砂糖醤油のタレをつけたお団子のことですよ。甘辛くておいしいですよ」

「ふーん…甘いのに辛いんですか?なんか味が想像つかないんですけど…。じゃあ僕、それ食べてみたいです」

「そうですか。わかりました」


イヅルがにこりと微笑むと、ゼロもにっこりと笑顔を返してくる。

ほんわかとした空気が、―――ああ、なんだか癒される…。



そう思いながら

「じゃあちょっと待っててくださ…」

と、がた、とイヅルが立ち上がった。………と。



「――――吉良ぁああ!!!」


「うん?」

「え!?…うっわ…!?あ、阿散井くん!?檜佐木さん!?」


イヅルが立ち上がるのと同時に、角から阿散井恋次と檜佐木修兵がバタバタ走ってきた。

避ける間もなくイヅルはガッと襟首をつかまれ、その勢いのままドタドタと茶屋の奥へと引きずりこまれる。


壁際に押さえつけられて、2人からものすごい殺気を貰い、タジタジ。



「(…ど…、どーしたんです?おふたりで…?)」

「(どーしたもこーしたもあるか!白々しい野郎だな、てめぇ!)」

「(そうだぜ吉良!お前、吉良のくせに何あんないい女連れてんだ!?ああ゛!?)」


表にいる彼女には聞こえないよう大声は出さずに、かつイヅルには最大限の威嚇を見せる修兵と恋次。

『すごい言いがかりだ…;』とは、思っても口にしないイヅル。


事態は悪化する一方かと思われた、が。



「(…い、いや、彼女は市丸隊長のお客さんであって、僕個人のお客さんじゃ…)」

「「なにぃっ!?」」

「え゛…?いや…;」


イヅルの一言で状況が動く。




「…く…そうか市丸隊長の…。それじゃあしょうがねぇな…」

「そうっスね…。 …いや、悪かったな、吉良」

「あ…うん…」

"イヅルの"ではなく"市丸隊長の客"だと聞いて、2人はやっとイヅルを開放した。イヅルもホッと息をつく。


…が――――次の瞬間にはバンッと力いっぱい肩を叩かれる。

ふたたびズイッと2人に迫られてイヅルは「ひ、」と悲鳴を漏らして青ざめた。



「でも…お前の女じゃないんならもちろん紹介はしてくれるんだよなぁ?吉良?」

「どうなんだ?…ぁあ?吉良イヅル三番隊副隊長殿ぉ?」

「…………;」



2人の目が据わっている。

イヅルには、もう目を逸らして「…はぃ…」と小さく頷くしか選択肢がなかった。



そのとき。


「…吉良さ〜ん?」

茶屋の奥に連れ込まれたイヅルを心配したのか、入り口からひょこっと顔を覗かせてゼロが声をかけてきた。


「あ…、だ、大丈夫ですよゼロさん」

「「ええ!俺たち仲良しですから!」」


修兵も恋次も示し合わせたように、首をかしげるゼロに向かってさわやかな笑顔を返した。


その実、ゼロから死角になっている部分ではイヅルにぐりぐりと拳を打ち込みながら。



「(…オラッ、紹介しろっ)」

「(わ、わかりました!わかりましたってば!!)」






「(はぁ…;)……こちら、三番隊のお客さんのゼロさんです」

「お前、さっき市丸隊長のお客さんって言ってなかったか?」

「(ギクッ)…こ、言葉のあやですよ。どっちでもいいじゃないですか」

「どっちでも良くねーよ!大違いじゃねーか!」


赤髪の青年と、顔に3本傷のある黒髪の青年を連れてイヅルが奥から戻ってきた。

戻るなり、ゼロは彼らが誰なのかの説明と紹介をイヅルから受ける。


「ゼロさん。こちら僕の同僚の六番隊の阿散井副隊長と九番隊の檜佐木副隊長です」


「自分は六番隊副隊長の阿散井恋次っす!!よろしく!」

「九番隊副隊長の檜佐木修兵です。よろしく、ゼロさん」


「はい、よろしくお願いします。阿散井さん、檜佐木さん。皆さん副隊長さんなんですね?」

のほほんとした笑顔でゼロは2人と順番に握手を交わした。

修兵も恋次も、心なしか顔が赤かった。




「………阿散井」

「なんスか?檜佐木さん?」




「(どうする!?すっげぇ可愛いぞ!?)」

「(ええ、ほんとっスね!吉良なんかと2人っきりにさせとくのはもったいないくらい!!)」



ズドッス!!


「痛っ!?」



どちらともなく、イヅルの背中に鋭く蹴りを叩き込む。

『接待とはいえこんないい女と2人っきりでイイ時間過ごしやがって』と恨みの念がこもった蹴りを。








「―――で、ゼロさんは今日は一体何用でここへ?」


店の外から中へと場所を変えて、ゼロ以下3人はテーブルに着いた。

ゼロの正面の席の椅子を引きながら、修兵がそう尋ねてくる。

修兵の隣には恋次がどっかりと座り込んでいた。



「うーん、何用というか…」

「はいゼロさん、お茶ですよ」

「あっ、ありがとうございます」

お盆に4つの湯飲みと1枚の皿を乗せてイヅルが戻ってきた。


「それから、さっき頼まれたみたらし団子も」

「へぇー…、宝石みたいですごくキレイです!食べるのがなんだかもったいないですね〜」

「そうですか…。でも、ぜひ食べてみてください。おいしいですよ」



テーブルに置かれた、皿の上の団子。


目を輝かせて、しばらくの間それに見入っていたゼロ。

やっと満足したのか、ゆっくりとそれに手を伸ばす。おそるおそる串を持って、団子をひとくち。


イヅルはお茶を配る手を止めて。修兵と恋次は少し不思議そうな表情で、そのゼロの姿に見入っていた。



「…どうですか?ゼロさん?」

「……僕、これ初めて食べたけどすごくおいしいです!こんな食べ物があったんですね!…なんていいましたっけ、これ。名前。」


うれしそうに放たれたゼロのセリフを耳にして、恋次と修兵が目を開いて顔を見合わせた。


「……みたらし団子ですけど……食べたことないんスか…?」

「え?ええ、はい、初めてですよ」

怪訝そうな顔で修兵がゼロに聞く傍ら、イヅルはその影で恋次にこそりと耳打ち。


「(…彼女、字も読めないみたいなんだ)」

「(ほーう、ってことは流魂街出身か…?草鹿か更木か…よっぽど環境の悪いトコに居たんだろうな…)」

「(たぶん…。それできっと市丸隊長が…)」

「(ああ…なるほど…)」


2人でうんうん頷いて納得。



きっと市丸隊長が流魂街で困窮するゼロさんを見て、ひとときでもいい夢を見させてあげようとかそんな事を思ってつれて来たんだろうなぁ。

あるいはこんなにいい着物を着せて、本気で囲う気なのかもしれない。見た目可愛いし。

『市丸隊長の酔狂にはあきれるけど、いい目は持ってるなぁ』と、目の前で至福そうに団子をほおばるゼロを見ながら2人は思った。








「―――――ふえくしょ!!」


一番隊隊舎内で、ひとり大きなくしゃみをする男―――市丸ギン。



「う〜、なんやろ…?誰ぞボクの噂でもしてるんやろか…」

そんなことを漏らしつつ、一番隊隊舎・隊首室の扉を開ける。


「三番隊市丸ギン、参上しましたぁ〜」

名乗り上げて中に入ると、そこにはすでに他の隊長格がそろっており、「あらら」という顔で市丸は頭をかいた。

「なんやボクが最後かいな。……っと、総隊長さんは、と…」

部屋の中にいる顔ぶれの中に一番隊隊長―――山本元柳斎重國総隊長の姿があるか、わざとらしくぐるーっと大仰なしぐさで見回して確認する市丸。


そこへ1人の男が歩み寄ってくる。

十一番隊の更木剣八だ。


「遅かったじゃねぇか市丸。山本のじいさんならまだだぜ。…惜しい事したなあ」

「いややなぁ十一番隊長さん。ボク、こうやってちゃあんと来たやないですか。あんまし虐めんといてくださいな〜」


"遅れてきたら、市丸は隊舎に女連れ込んでお楽しみ中だと、総隊長に言いつけてやったのに"――――そういう意図を含んだセリフを、にやにやとした笑いとともに吐き出す更木。

しかし、対する市丸も慣れているのか、つかみどころの無いいつもの笑顔を浮かべながら飄々とそれに答えを返していた。



「――――先程の娘は?」

と、六番隊隊長の朽木が会話に割り込んできた。


「娘…?ああ、……そらァ、もちろん三番隊に置いてきたよ?まさかあんな子、こないなトコ連れてこられへんし。

なんや六番隊長さん、あんな子に興味あるんや?珍しい事もあるもんやなァ」

「……私は、あの娘が件の旅禍なのではないかと思っただけだ」

「へぇ…。なんでそない思われますの?」


「―――違うのか?」


朽木白哉の冷ややかな視線が、市丸を捉えた。

少しの間、沈黙が降りる。




「…非道いわァ、ボクそんなに信用ないんや〜」


そういいつつ、楽しそうに口元をゆがめる市丸。

しかし完全なる否定の言葉を出す事はない。



「……貴様、」


「ずいぶん興味深い話をしているネ」

ずい、と朽木が市丸に1歩詰め寄ろうとしたところで、その横から奇抜な面の男―――涅マユリが口を挟む。



「なんですの?十二番隊長さんまで」

「くくく…。今朝方霊波計に面白い反応があってネ。詳しくは総隊長が来てから報告させてもらうが……、市丸。

君の屋敷を含む4区画で今朝方異常な霊圧観測があったんだヨ。今回の旅禍侵入騒ぎもそれが原因の大本だろうと私は踏んでいるがネ。

…で?聞けば市丸。君、誰かを連れていたそうじゃないか。――――何か知ってるんじゃないカネ?」


すべてを知った上での、含んだような笑みを見せマユリは言う。


それでも市丸は笑ったまま、表情を崩さず。




「さあ…。ボクにはわかりかねますね」


さらりとシラを切った。







つづく


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意外と恋次が結構動かしやすい事に気がつきました

すもも

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ももももも。