「……なんですト?」
飄々と放たれた市丸の発言。それを聞いた涅の目が訝しげに細められる。
「せやから…、ボクはなんにも知りません、言うたんです。ボクは今朝方ウチに忍び込んできた泥棒を、少しお灸すえたろ思って連れ立ってただけですよ?
………そうか、あのコが旅禍かもしれんのやね。そらぁ気づかんかったわ〜」
頭をかきながら、へらへらと言う市丸。
その姿は『わざとらしい』といえば十分にわざとらしくも見えた。当然、涅もそのように思っている。
「クックック…、何を言い出すのかと思えば…。
仮にも隊長のキミが、相手が旅禍かそうでない魂魄かわからないわけはないダロ。素直に白状しておいた方が身のためだと思うヨ?」
「あらぁ?そんなん言われてもなァ。あんな一般人と変わらんような霊圧のコ、少ぉしの時間で旅禍なんかそうでないのんか…区別しろちゅう方が無理ですわ」
「…そうかネ。では私はこの隊首会で総隊長にその娘を捕らえ、じっくりと調査するように進言させてもらうヨ。もちろん、キミはそれでも構わないんだろう?」
『じっくり』という部分を涅はいやにねっとりと強調して言う。
技術開発局局長として、人体実験も辞さない彼が言えばそれは誰に対しても十分な牽制にはなる。
だがそれでも市丸は、その口元から薄笑いを消す事は無く。
「そうですねぇ…。十二番隊長さんがそう言わはるなら、別に止めはしませんよ?ボク、関係ないし。
捕まえて存分に調査したらエエやないですか?疑いがある以上、それが当然のことやと思いますし」
「ふん…。だったらもちろんそうさせてもらうヨ」
お互いに譲らぬ、無言のにらみ合い。
市丸と涅のそれは「―――皆、揃ったようじゃな」と、一番隊・山本元柳斎重國総隊長が隊首室へと入室するまで続いた。
その一方――――
「ゼロさん、こっちの白玉あんみつパフェとかもオススメですよ」
「へぇ、パフェですか…、それもおいしそうですね〜」
修兵が指差した先―――お品書きの一文を見ながら、ゼロは楽しげに団子をほおばっていた。
お品書きにある文字そのものは読めなかったが、イヅルも修兵も恋次もメニューの内容を身振り手振りでさまざまに教えてくれるので退屈はしなかった。
「あ―――――っ!お団子――――!」
…と、突然子供の高い声が響いて、ゼロはびくっと身を躍らせた。
声のするほうを見ると、薄桃色の髪をした小さな少女が茶屋の入り口に立っていた。
「…草鹿副隊長…!」
「やっほーイヅるん!」
イヅルに向かってぶんぶんと手を振った、十一番隊の副隊長・草鹿やちる。
と、その後ろには数名の女性―――松本乱菊、雛森桃、涅ネム、伊勢七緒、4名の女性副隊長の姿。
イヅルと修兵と恋次は、そろって『しまった…』と苦い顔をした。
「ねーねー、皆こんなところで何してんの?おやつー?いいないいなー、あたしもまーぜてっ!」
ぴょーんと跳ねるようにして、ゼロと、イヅル、修兵、恋次が居るテーブルまでやちるが走ってくる。
他の女性達も、スタスタとやちるの後につづいて茶屋に入ってきた。
「あー、いけないんだぁ阿散井くん、吉良くん。サボってたって隊長さん達に言っちゃうよ?」
「それ以前に、部外者連れ込んで何をしてるのですか貴方達は!」
「てゆーか誰なの?その子?」
「………。」
テーブルの周りに集まる、黒い着物の人間達。
自分1人だけ違う格好をしていたゼロは、なんとなく萎縮して縮こまってしまう。
「あらら、怖がっちゃったわね」
「そりゃあ副隊長がこんなに集まってたら、普通の人はそうなっちゃいますよ?乱菊さん」
「そんなもんかしら?………ところでぇ」
と、乱菊が好色な目つきで男衆3人をチロリと見やる。びくりとする3人。
乱菊はコソコソとその3人に詰め寄って。
「ねねね。で、このコ、誰?誰の恋人なのよ?」
と、ノリノリで聞き出し始めた。
「ら、乱菊さん…;」
「失礼ですよ!」
「なによー、いいじゃないちょっとぐらい。あんた達も気になるでしょ?」
『本人の前で恥ずかしいなー』とばかりに、七緒と雛森が乱菊を諌める。
本当のところは七緒も雛森も"彼女"が誰なのかは気になっていたのだが。
ゼロはゼロで、やちると「お団子食べてもいーい?」「いいですよ〜」などと関係ないやり取りをしていた。
「…で?ねぇどうなの?白状しなさいよあんた達。誰の恋人なのよ?」
「いえ松本さん…。そんなんじゃないんですよ。彼女は市丸隊長のお客さんで…」
「あら、なーんだ。ギンの恋人なの」
目をキラキラさせて詰め寄ってくる乱菊の勢いに、少し引き気味だったイヅルたち3人。
それでも何とか『彼女は市丸隊長が連れてきたお客さん』という事を伝えると―――乱菊はつまらなさそうに、七緒と雛森はがっかりとして肩を落とした。
涅ネムはその背後で、無言のままゼロの事を観察していた。
「貴女ねー。別に相手がギンでも止めろとは言わないけど…。でも今のうちに一言忠告させて貰うわ。……あの顔にだまされてちゃダメよ?」
「はい?」
あげた団子をいっぺんにほおばって、リスのようなほっぺたでもぐもぐ咀嚼するやちるを笑顔で見ていたゼロ。
横から急に乱菊に手をとられて見つめられ、意味が分からずに素っ頓狂な声を上げた。
乱菊は、困惑して固まるゼロを頭の先から胸まで眺め――――
「あら…、貴女せっかくイイ顔してるのに七緒より『板』なのね…本当にもったいないわぁ。あたしの半分あげたいくらい」
「ちょっと乱菊さんッ!!誰の胸が『板』なんですかッ!!」
「アラー?何で七緒が怒るわけぇ?あたし『胸が』なんて一言も言って無いんだけどぉ」
「「「「乱菊さん…;」」」」
「??」
妙齢の男も居る場で胸の大きさの話とかはさすがにまずいんじゃ…と、当の男衆3人と雛森は思った。
ゼロ本人はというと、最初から胸など無くて当たり前の立場なので何の話なのかいまいち理解してはいなかったが。
―――と、ここまで一言も喋っていなかったネムが、そのとき突然沈黙を破った。
「…でもこの方って、男性ですよね?」
間。
「「「えっ!?;」」」
ゼロとやちる以外の全員が驚愕した顔でネムを見た。
ゼロは周りの人間達のその反応を見て、『急にどうしたんだろうか』と頭に疑問符を掲げた。
―――どこからどう見ても僕、男だと思うんですけど。
「皆さんどうかしました?何かヘンですか?」
きょろきょろしながら周りに訊くゼロ。
すると、隣に居たイヅルが顔面蒼白になりながら聞き返してきた。
「え?え?………ゼロさん…、まさか本当に男…?」
「あれっ?僕、最初にそう言いませんでしたっけ?」
「えええ……; いえ、市丸隊長の妹じゃないってのは聞いていましたけど……。でもその格好は……」
「格好?やっぱりこれ、何かヘンなんですか?市丸さんが、これが似合うからこれにしろって…」
自分の着物を広げながら、きょとんとした顔でゼロがみんなの顔を見る。
その場に居た者達は皆一様に溜息をつき、『本当に何も知らないんだなぁ…』とゼロに向かって同情の視線を送った。
「え?な、なんですか?;」
「いや、確かに似合ってはいますけど……」
「言いづらいんスけど、それ女物ですよ」
「えっ!?」
「あんたギンにだまされてるのよ」
「えええ―――っ!!?」
「ゼロさん…;」
ゼロの反応を見て『ハァー…』とさらに肩を落としたイヅル・修兵・恋次。
彼を女性と間違えていたことに3人ともかなりショックを受けていたものの、それ以上に、同じ男としてゼロの事が心底可哀想でならなかった。
「…ゼロさん…、なんなら僕の死覇装貸しますよ…」
会う人みんなが自分を女扱いしていた理由がやっとわかってがっくりとうなだれてしまったゼロ。その肩をポンと叩いて、イヅルが言う。
「…シハクショウって、皆さんが着てるような黒い服のことですか…?」
「あ、そうです」
「ほ、本当ですか!?吉良さんありがどうございま゛ず〜」
「何も泣かなくても…;」
顔を上げて、ゼロは嬉し涙なのかボトボトと涙を落として泣き出した。
しかし、「じゃあ…」と立ちあがろうとするイヅルをすかさず乱菊が止めてしまう。
「だめよ吉良。死神じゃないコに死覇装なんか貸せるわけ無いじゃないの」
「え…、でも松本さん;このままじゃさすがに…」
「そうですよ、乱菊さん!ちょっと死覇装貸してあげるくらいいいじゃないですか!」
「…たしかにこれではあまりにもこの人が可哀想過ぎます。予備のものなら大丈夫なんじゃありませんか?」
「ダメだってば。あのねー、あんたたちがこの子に同情する気持ちも分かるけど、この警戒時に部外者に死覇装着せちゃって、もし万が一何かあった時にどう責任取るつもりなのよ?
そこまでちゃんと判って言ってるんでしょうね?」
イヅルに同調した雛森や七緒の意見すらもぴしゃりと抑えて乱菊が言う。
まったくの正論に、3人は「うっ;」と言葉を詰まらせた。
「…乱菊さん、結構考えてるんですね…」
「あら、なによ修兵。それじゃあたしが普段何にも考えてないみたいじゃない」
「あ、いえ、そういうわけじゃ…;」
ごにょごにょと黙ってしまった修兵を尻目に、乱菊はササッとゼロの手をとった。
「じゃあそういうことだから死覇装は貸せないけどー、あたしが別の着物貸してあげるからこっちに来なさいね?」
「「「は?」」」
にーっこりと楽しそうに笑って言う乱菊。
ゼロはその乱菊の笑顔の裏に何か薄ら寒いものを感じ、青ざめた。
雛森や七緒、イヅルも恋次も同じ気持ちだ。一体何をやらかす気なのか、この人は。
「そんなのもちろん、もっとカワイくしてあげるに決まってるじゃないの!」
「ひゃああああっ!!?」
つづく
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乱菊さんなら絶対やる
すもも